それぞれの未来へ
特虹戦隊の活動を終えるため、打ち上げパーティーが開かれた。会場はダイナーと格納庫の一角、そして司令室だ。
記念になるし、出版社とファンの強い要望で『公式フォトブックvol.2』の撮影は、秘密基地内の各所でも行われた。それももう終わり、司令室から各戦士の私物は運び出してあるので、今日は無礼講である。
とはいえ、
「コチラの世界でも、お酒は二十歳になってからヨ」
と、シャーリー司令官がいつもの濃いアイメイクの目でバチコーンとウインクしてきて、セイカとイクシアは酒類と区別がつきやすいオレンジジュースを渡された。
「本来なら若の二十歳の祝いは盛大に行われるはずでしたのに……」
「よいのだ、ジイ。私はなんの柵もない今の状況に満足している。故郷の慕ってくれる者たちには悪いことをしたがな」
イカコはこの一年の戦いの間に二十歳になった。成人は宇宙政府圏の星々と同じ十五歳だが、二十歳にも祝う風習であるらしい。
「ハーイ! ミンナ、注目!」
一番ひろい格納庫の一角に、シャーリー司令官の声が響く。
ここには戦士十人を始め、ディヴァースⅤのスーツや武器・ディヴァースロボの開発・メンテナンスをする技術者、食堂の料理人や日常生活を支える隊員──サポートするスタッフ全員が集まっている。
ざわめきは止み、誰もがシャーリー司令官に視線を向けた。
「この一年間強、各自の任務を本当によく遂行してくれたワ。今日の地球の平和があるのもミンナのおかげヨ! アナタ達は自慢の部下・スタッフだワ! 特虹戦隊は明日で解散になるけれど、アタシはこの濃密な日々を一生忘れない!」
そこかしこで、目頭を押さえたり鼻を啜る気配がする。
やっぱり解散は寂しい。
けれども、シャーリー司令官は前を向いている。軍人として、一つの任務の区切りがついたに過ぎない。次には新たな任務が待っている。
「では大勝利の任務完遂を祝して、乾杯!」
『乾杯!!』
シャーリー司令官の音頭で皆が高く杯を掲げ、心から快哉を叫んだ。
宴もたけなわ。
セイカを始めとする戦士達は隊員やスタッフにも大人気で、大勢の人々に取り囲まれ、代わる代わる話しかけられた。
Dメカニック総括者の源さんや、ダイナー・日常生活で懇意にしていた隊員とスタッフに挨拶ができたセイカは、一息つくために司令室に移動する。一応ここも会場になっているのに遠慮しているのか、お馴染みの顔ぶれしかいない。
「アラ、ミンナここにいたのネ」
自動ドアが左右に開いたと思ったら、シャーリー司令官がシャンパングラスを片手に現れた。
今日こそグラスの中身はジンジャーエールでなく、スパークリングワインである。
「オレ達が外した時もあった方がいいと思ってな」
フリースペースでいつものごとく革張りの長ソファーに仰向けで寝そべっていたロメロが、牛柄のカウボーイハットを掲げて合図した。
私物は片付けた司令室だが、家具類は残されている。
そんな態度でイカコはどこにいるかといえば、ソファーの裏側で背凭れに寄り掛かっていた。手にはなにがしかの酒と氷の塊が入ったグラスを持っている。
「ちょうどいいワ。ミンナに提案したいコトがあったのヨ」
シャーリー司令官は六角テーブルの上段に肘を置いて凭れる。
「提案、ですか?」
水色の席に座っているヴァリーリアンは眼鏡のブリッジを押し上げた。彼の腿には腹部に手を回してガードしたトミーが乗っている。クールさが半減以下である。
トミーは当然の顔をしてヴァリーリアンに腰掛けていて、両手で桃の缶チューハイを持って飲んでいた。今日もあざといくらいのショタっぷりだ。酒とのギャップが凄い。
「そう。あのネ、アタシ達、何年かに一回、集まらない?」
「あん?」
「同窓会みたいなものヨ」
ロメロの疑問形にシャーリー司令官は答え、シャンパンを一口飲む。
「ハイハーイ! ボク、賛成! みんなで集まりたい!」
オレンジのフリースペースでソフィーに膝枕してもらっていたイクシアは、がばりと飛び起き手を上げる。
「何年かに一回、ですか」
「ええ。毎年じゃ大変デショ? 宇宙はひろいもの」
「そうですね」
「ハイ! 宇宙オリンピック・ゲームズの次の年は? それなら忘れにくいでしょ?」
イクシアの言う『宇宙オリンピック・ゲームズ』とは、宇宙中からいろいろな競技の猛者が宇宙政府中央の会場に集い、一番を目指して競い合うスポーツの祭典である。起源はもちろん地球のオリンピックだ。宇宙で大多数の種族が地球系のため始まったとされるが、今では様々な種族が参加できるよう競技は多岐にわたる。
次の年にしたのは、混雑を避けてのためだ。それが行われる年は選手と観客の移動でどこも混み合う。
「四年に一回ですね」
「無難だな」
「じゃ、決まりでいい?」
シャンパングラスをテーブルに置いたシャーリー司令官は、両手を合わせる。
「O.K. 異論はないぜ」
「解りました」
「やった!」
ロメロやヴァリーリアン、喜ぶイクシアの他に、全員が頷くか肯定の返事をしている。
「嬉しいです」
セイカはみんなにまた会えることになって、胸がいっぱいになった。彼女にとって、シャーリー司令官と仲間達はこちらの世界の家族みたいなものだから。
「それとは別に、全員、ドコにいるか連絡してネ。星を移ったら宇宙政府軍に一報を入れて」
「なぜですか? まあ僕達は軍に所属してますからいいですが」
ヴァリーリアンが少し不快げに眉を寄せる。地球を守ったのに、その仲間達が軍に首輪を付けられていると感じたのだ。
「今年も途中であったデショ? 前年の戦隊とのコラボ番組の撮影が。となれば当然、次の戦隊とのコラボもあるわよネ」
誰が呼ばれるか分からないから全員と連絡がつくようにしておきたいのだと、シャーリー司令官は説明する。
ヴァリーリアンは不快な表情を消した。
「で、ミンナ揃ってるから今、済ましちゃうわネ」
そう言ったシャーリー司令官は、六角テーブルの上にドッグタグみたいな物を並べてゆく。
「変身ブレスとコレを交換してちょうだい。変身ブレスは軍で保管しておくから」
「ICタグですか」
「そうヨ。どこに行ってもコレで軍に連絡して。それに、場所によってはいろんな融通が効くワ」
異物混入の有無も変身ブレス同様に調べられるわヨ、とシャーリー司令官はウインクする。
セイカが元にいた世界でも近年、ドッグタグがICタグに変わりつつあったが、軍人ではないので知らなかった。ICタグには沢山の個人情報が記録されているそうだ。
「ネックレスは一応つけてあるけど、後で自分の好きな物にカスタマイズして構わないワ。ダグは絶対無くさないようにするのヨ」
確かにそんな物を無くして悪用されたら大変だ。皆は頷き、手首から外した変身ブレスをテーブルに置いて、片面に自分の担当色が塗られたICタグを取ってゆく。
ゴシック調のフリースペースでそれぞれグラスをテーブルに置き、静かにソファーに並んで座っていた大人な雰囲気満載のエフェドラとユーリィもやって来て、変身ブレスとICタグを交換した。
「………………」
セイカは手に乗せた変身ブレスをじっと見る。
ついに、コレを返す時が来た。
異世界召喚され、憧れていた戦隊ヒーローのレッドになれて、必死に駆け抜けたあっという間の一年だった。
「セイカさん……」
右隣のイクシアの席に座っていたタガルニナが心配している。
レッドなので特番などで呼ばれる確率が高い。手放しても、これでお終いではない。
人生はタガルニナと共に、新たなステージへと続いてゆく。
感傷を断ち切って、セイカは変身ブレスをそっとテーブルに置き、片面が赤色のICタグを手に取った。
司令室に張り詰めていた空気が、ホッとしたものになった。
「さあさあ、休憩は終わりヨ! アナタ達が主役なんだから、他の会場へ戻るわヨ!」
シャーリー司令官はパンパンと手を打ち鳴らした。
「え〜〜〜! ボク、お姉さんとゆっくりしていたいのに〜っ」
「それはこれからいつでも好きな時にできるデショ! 最後の任務と思って、ニコニコしてきなさい!」
「ニコニコ? みんなも?」
「無理ですね。イクシアとセイカさんだけでしょう」
「わたしもですか!?」
「ニコニコして可愛いのはお二人だけです」
他の者は不気味と言いたいのか。ヴァリーリアンは眼鏡のブリッジを押し上げ、レンズを光らせた。
「なんじゃ。わしは可愛くないのか」
「貴方は可愛いから駄目です」
『ノロケかよ!!』
トミーと手を繋いで歩いてゆくヴァリーリアンに皆のツッコミが炸裂した。
クールかと思ったら、ただ単に独占欲を発動しただけだった。
そうしてわいわい騒ぎつつ各会場に戻り、秘密基地で過ごす最後の日は夜までパーティーが続いたのだった。
エピローグに続きます。




