最終決戦!!
最新の白い宇宙船から降り立ったそこは、何もない荒野だった。
セイカの元いた世界でいうと、火星に似ている。だが、息苦しくも暑くも寒くもないし、重力も気にならない。どうやら地球とそう変わらない環境の星のようだ。
「なるほど、ここですか」
眼鏡のブリッジを押し上げるヴァリーリアンは、納得の表情だ。
「やった〜! ここには一度は来たかったんだ!」
走り出したいイクシアは我慢して、両手を上げてその場でピョンピョン跳ねた。
そんなに有名な場所なのかな? と、セイカが首を傾げていると。
「ココにはセイカちゃんを是非連れてきたかったのヨ! ココがコチラの世界では定番の爆発用ロケ地で、地球を守る戦隊も実戦でよく使っているの!」
先頭をゆくシャーリー司令官はくるりとターンして後続の者達に向き、両腕をひろげてセイカにこの場が何であるかを紹介した。
確かにこの様子なら、一般人もいないし建造物もないし飛び交う車もないしで、暴れ放題だろう。
地球を守る戦隊なのに場所が余所の星なのは、この際目を瞑る。昭和の戦隊に年一であった、夏の阿蘇山ロケみたいなものだと思おう。
「そうなんですか! それは燃えますね!」
「デショ? セイカちゃんならそう言ってくれると思っていたワ!」
俄然やる気になったセイカに、シャーリー司令官はメイクの濃い目でバチコーンとウインクした。
「シャーリー司令官! 設置、完了しました!」
「了解したワ。流石は仕事が早いわネ」
荒野にちらほら散らばっていた特虹戦隊の隊員が一人、報告に来て敬礼し、他の者達は一箇所に集まる。
爆破などの演出を担っていたプロフェッショナルなザッソー兵達も捕まってしまったため、最後の最後、今回だけは特虹戦隊が受け持つ。
今年は正義側が現場での演出に関わらなかったので、なんだか凄いことになりそうな……大丈夫だろうか。相手が。
セイカがそう心配していたら、ぎゃあぎゃあ騒ぐ声が聞こえてきた。
「やめろ貴様! 痛いではないか!」
「これだから愚民はっ」
「私が誰だか分かっていての狼藉か!」
「こんなことをして、タダで済むと思うなよ!」
「お父様に言いつけてやるっ!!」
後ろ手に手錠をかけられた、少年から青年に差しかかった年頃の五人が、特虹戦隊の隊員に引っ立てられてきた。距離が結構あるのに、罵っている言葉がはっきり分かる。
「イヤあねぇ育ちがいいハズなのに、口汚い坊や達ネ」
「あの青二才たちが黒幕か」
「そうです。あれが例の『バカ令息』です」
特虹戦隊ディヴァースⅤの五人は資料でしか彼等を見たことがないが、元〝悪ノ華〟所属の、特にソフィー・イカコ・タガルニナは顔を顰めている。偉ぶった彼等に不本意な命令をされたり脅されたりしてきたのだ、悪感情しか涌かないに違いない。
「残念ですが、助けは来ません。あなた達は実家ごと破滅、または存在を無かったものにされて切り捨てられました」
レッドの役割として、セイカは淡々と事実を告げる。
「なんだと!」
「出鱈目を言うな!」
「ウチを破滅だと? ばかばかしい」
「お父様が僕を見捨てるわけがない!」
「それより早く私たちを解放しろ! 今なら赦してやる!」
特虹戦隊の戦士達と相対するように、横一列に並べられている有閑令息達は喚いた。
「まあ想定済みの反応よネ。──思い知らせてあげなさい」
蔑みの目を向けるシャーリー司令官は、彼等の後ろで手錠を押さえている隊員とは別に、傍に待機していた隊員達に指示をする。
「は!」
隊員達は敬礼し、有閑令息達の前に進み出て、一人一人にタブレットの画面を見せた。
そして、そこに移った内容──破滅した実家のニュースや身内からのメッセージを受けて、段々と顔を青ざめさせてゆく。
「うっ……嘘だ嘘だっ」
「ウチを潰すのは無理なはずだ!」
「そんな……お父様……!」
宇宙中で事業を展開している巨大企業の頂点に君臨する親を持つ、有閑令息達だ。何をしても親がその権力で以て揉み消してきたのだろう。
しかし、此度は違った。
「少々おいたがスギたようネ! 第一、今回は相手が悪いワ。宇宙政府と宇宙政府軍を舐めちゃダメよ! コチラにはルシェール人もいるのヨ?」
有閑令息達はハッとして、今日は特虹戦隊の隊服に身を包んでいるエフェドラを見た。
宇宙船を降りる時にユーリィに着けていたリードは外していたので、腕を組んで立っている様は全年齢対象である。
(〝緑の指〟との因縁がなくても、そのつもりで少佐を誘ったのかな?)
だとしたら、シャーリー司令官はとんだ策士である。
それに、親に息子を切り捨てさせたり、巨大企業を潰しても問題がない社会にできるなんて、ルシェール人ってどんだけ……とセイカは密かに引いた。絶対に敵には回してはならない種族だ。
「自分の立場を理解したかしら?」
有閑令息達は魂が抜けたようにガックリと膝をつく。
「では最後に、あなた達が世界線を超えてまで私を誘拐し、切望していた地球を守る戦士の姿をお見せしましょう」
セイカのその一言で、有閑令息達に対し横一列に並んでいる仲間達が姿勢を正す。
「皆さん、いきますよ!」
全員が変身ブレスをしている左手を胸の前で握った。
『ディヴァースチェンジ!』
初めて変身する元大幹部が二名いるが、きっちり変身コールが揃った。
ディヴァースブレスが輝き、一瞬にしてそれぞれを包んでいた光が収束すると、強化スーツを身に纏った戦士達が現れる。
「異世界からの勇者! ディヴァースレッド!」
セイカが名乗ると背後で爆音がした。きっと赤色のセメント爆弾だ。
「カワイイは正義! ディヴァースオレンジ!」
やはりイクシアの背後でオレンジ色の爆弾が爆発した。
「遅れて来た頭脳職、『ディヴァースイエロー』!」
変身しても袖を長く垂らし、半ズボンを履いたようなデザインになっている強化スーツを着たトミーが、初めて名乗る。
背後で黄色の爆弾が爆発したが、平然としていた。まさか爆発は日常茶飯事のマッドサイエンティストか。
今日は七人が虹色に並んでいるため、いつもと順番が異なる。スペシャルヴァージョンといってもいい。
「狡猾なる策略家、『ディヴァースグリーン』!」
続いてこちらも初めて名乗るユーリィだ。
正義の味方っぽくないし、本人は「なんだこの名乗りは」と不服そうだったが、「格好良すぎではないか」とエフェドラに言われた途端、「これでいい」とムッとしていた。
拉致られてから一昨日まで監禁され、エフェドラに調教されていたとは思えない態度、変わってなさだ。二人の関係は不思議である。
なお、背後の緑色の爆弾の爆破には、ちょっとだけビクッとした。
「眼鏡は衣服です。ディヴァースアクア!」
「崇高なる王子、ディヴァースブルー!」
「孤高に咲く一輪の花、ディヴァースパープル!」
「慈眼の従者、ディヴァースホワイト」
「調教されたい奴は誰だ? ディヴァースシルヴァー」
「デュラムから来た用心棒、ディヴァースゴールド!」
「輝きの道標! ディヴァースピンク!」
最後のシャーリー司令官まで順調に、名乗りと各色の爆破が終わった。
この後をキメるべく、セイカは口を開く。
「希望を架ける虹の戦士!」
セイカからディヴァースピンクまで今一度、各戦士の背後で色付きのセメント爆弾の爆発が駆け抜ける。それはまるで虹が架かったかのような美しい光景だ。
『特虹戦隊ディヴァースⅤ!!』
初めてのメンバー併せて、十一人全員での名乗りが揃った。ディヴァースピンクの爆破から五秒後に名乗ると決めておいたのだ。
それにしてもよく揃ったなあとセイカは感心する。
と、直後に背後の三ヶ所で、大きな爆発が起こった。真ん中の爆弾が一番大きく、どれも虹色になっている。
荒野に轟くこちらの爆破が一段落した。
「これがあなた達が見たかった戦士の姿です!」
「ナマで見られて嬉しいでしょ?」
セイカにしては厳しく、ディヴァースオレンジは抜群の身体能力で名乗りのポージングをしたまま首を傾げた。
「さあ、あなた達の覚悟も見せてください!」
隊員の姿はとうになく、荒野に残されて頽れている五人の有閑令息──いや、もう令息ではなく、この戦いの元凶である犯罪者達にセイカは問う。
「………………」
明確な反応をせず、家ごと破滅したり親に切り捨てられた衝撃から立ち直れない、抜け殻になったような五人の背後で、三つのナパームが爆発した。
「ヒエッ」
「ぎゃあっ」
「────ッ!!」
生身の五人に容赦なく爆音と熱風が襲いかかる。
三つとも特大なので、強化スーツを着ていない者には恐怖でしかない。離れて立つセイカ達の方にも爆風が届くくらいだ。
「あーあ」
「当然の結果ですね」
「坊ちゃんには無理だろ」
ディヴァースオレンジは頭の後ろで手を組んで呆れ、ディヴァースアクアは冷静に眼鏡のブリッジを押し上げ、ディヴァースゴールドは単に事実を口にする。
元有閑令息達は全員、気を失って倒れていた。
慣れた戦士でも危険なナパームを、身近で爆発させられたのだ。甘やかされたボンボンが耐えられるはずもない。
「終わったんですね」
「ええ。終わったワ」
気絶した元有閑令息達が隊員によって運ばれてゆく様子を視界に映したセイカが万感の思いを込めて呟くと、ディヴァースピンクの声が強化スーツを通して届いた。
こうして、一年に亘る特虹戦隊ディヴァースⅤの戦いは幕を閉じたのだった。




