宇宙のならず者〝ブラック・ククルビット〟
〝悪ノ華〟の大幹部が全員、特虹戦隊に救われたり連れ去られたりして、更に正義の戦士に組み込まれた。長い歴史の中でも、前代未聞の事態である。
追い詰められてきた有閑令息達が代わって送り込んだのは、『宇宙のならず者』として有名な、金になるなら平気で犯罪もを犯す、粗暴な五人の男達から成る〝ブラック・ククルビット〟という、なんでも屋だった。
その名を聞いて真っ先に反応したのはロメロだ。奴等は一人一人が高額な賞金首だそうだ。
エフェドラの情報によると、月面の〝悪ノ華〟のアジトでは、巨大戦艦が係留されている宇宙港に奴等の黒い小型宇宙船が到着し、中に入れろと騒いだ。しかし、素顔のザッソー兵達は特虹戦隊のアドバイスもあり、悪名高い奴等が乗り込むのを断固拒否した。
地球に出撃する時にはプラントロイドとザッソー兵を出すと約束すれば、自前の根城である黒い小型宇宙船の方が慣れていて快適だろうし、近場に歓楽街もあるし、奴等は「ま、それでいいか」と案外簡単に引き下がった。
その後は歓楽街か、黒い小型宇宙船で飲んだくれて騒いでいるらしい。
素顔のザッソー兵達はアジトに入れなくてよかったと、心底ホッとしているという。
「ソレで? 酔っ払いがナニしに来たの?」
シャーリー司令官は最前線に凜然と進み出て、蔑みの眼差しを奴等のリーダーに向けた。
ここはセイカが元いた世界ではロケ地でお馴染みの、だが閉鎖・解体が決まってしまった、大階段や透明な三角屋根の建物が見える埠頭の広場だ。
〝悪ノ華〟側は階段にいかにも素行の悪そうな新顔の五人の男がだらしなく座っており、その下にプラントロイドを中心にザッソー兵達が蠢いている。
対する特虹戦隊は、海を左手にした広場に戦士達がずらっと並び、その前にシャーリー司令官が立つ。
「なんだよ撫子、久しぶりに会ったってぇのに、つれねえ態度だな」
新顔のリーダーである真ん中の男が瓢箪型の酒器を呷り、手の甲で口元を拭ってニヤリと笑う。
酒器というのは正しくないかもしれない。中身は『スイカジュース』だからだ。男達はそれで酔っ払う体質のアウラコフォラ星人だった。
セイカ達はエフェドラがもたらした情報とシャーリー司令官の話で大凡の事情は把握しているので、静かに成り行きを見守っている。
──いや、一人だけ大きな欠伸を噛み殺している者がいた。男性にとことん興味の無い、ソフィーだ。
「しかも、今でもジャラジャラ光もん着けやがって。嫌なやつだぜ」
男はシャーリー司令官を上から下まで眺めて、眉根を寄せた。
今日も日光に当たって目に優しくないショッキングピンクの装いをしているシャーリー司令官は、アイメイクもルージュもラメ入りのピンク色で、装身具も沢山身につけていて、眩しい。
「フン。アンタが嫌がるだろうから、キラキラ増量の装いよ!」
シャーリー司令官はツンと顎を上げ、
「宇宙のならず者に成り下がったアンタに慈悲はかけないワ! こてんぱんに伸してあげるから、覚悟なさい!」
と、変身ブレスをした左腕を掲げる。
背後で一列に並んでいるセイカ達も、変身ブレスを胸の前でそれぞれ構えた。
「おいおい、待てよ。自己紹介がまだだろ?」
瓢箪を持った男は驚いてみせ、仲間達とダルそうに立ち上がった。
そして、こちらに向いた瞬間──雰囲気を不穏なものにガラリと変える。気の小さな者なら尻餅をついて「ひいっ」と悲鳴を漏らすくらいの殺気だ。
しかし、特虹戦隊の戦士達は誰も臆しない。
瓢箪を持った男は「チッ」と舌打ちした。
「聞いて後悔しやがれ。おれ達は〝ブラック・ククルビット〟。おれはリーダーのニグリだ」
「オレはルイスイ」
「おれっちはニチディ」
「俺はオノイ」
「私はルーチュエンシス」
新顔の男達が一人ずつ名乗ると、黒髪に黄色い瞳のニグリが一段、こちらに下がり、
「〝ブラック・ククルビット〟は金になるならなんでもやるぜ? 例えば、〝悪ノ華〟の強力な新戦力として、てめえらを全員倒し安穏と生きてるやつらの希望を粉々に打ち砕く、とかな」
と言い、嘲った。
「戯れ言はソレだけかしら? じゃあアンタ達のプライドを粉砕するアタシ達も、名乗ってあげるワ!」
終始ニグリから目を離さずに、シャーリー司令官は改めて胸の前で左腕を構え、
「ミンナ、用意はいい? いくわヨ!」
と、部下達に声をかけた。
『ディヴァースチェンジ!』
変身コールが見事に揃い、特虹戦隊側の全員が強化スーツを身に纏う。
セイカは目の前に立つ背中を見て、とうとうシャーリー司令官まで変身しちゃったよ……と呆れた。まあ、こういうパターンも戦隊モノにはよくあった。しかも強化スーツは、いつも着ているショッキングピンクのロングコート風で、司令官格にありがちな特別仕様だ。カッコ良くてズルイなあとジト目を向けてしまう。
「崇高なる王子、『ディヴァースブルー』!」
「慈眼の従者、『ディヴァースホワイト』」
「輝きの道標! 『ディヴァースピンク』!」
名乗りが進み、新戦士の番になった。
イカコは身体の中心に細身の剣を持ち、タガルニナはいつもと同じで両手を後ろで握っている。
シャーリー司令官はクルリとその場で横に一回転し、両腕を胸の前で交差させ、次にその手を斜め下にひろげた。その間、指の先まで手の動きは優雅である。
この場所ではあんまり火薬を使えないので、編集で派手なエフェクトがかかるんだろう。特にディヴァースピンクはこれでもかとキラキラしくなっているはずである。なんせ『輝きの道標』だ。
「希望を架ける虹の戦士!」
『特虹戦隊ディヴァースⅤ!』
セイカの掛け声で、新しい仲間も戦隊名を揃って口にする。
もう『Ⅴ』じゃないだろうと突っ込んではいけない。言わぬが花というやつである。
並び方はセイカを中心に、敵に向かって右側にオレンジ、シルヴァー、パープル。左側にアクア、ゴールド、ブルー、ホワイトだ。ピンクは加わるならパープルの横、右の一番外側だ。
なお、トミーと〝緑の指〟は不参加だった。トミーは「子供扱いするでない」と文句を言っていたが、今日は敵が敵だ。明らかに危ない。〝緑の指〟は……未だ監禁中である。
司令官まで出てきて、では誰が秘密基地で彼等の監視をしているかというと、なんと『ノルトヴェルガー十傑』と呼ばれる中央情報部の人々だった。その名のとおりエフェドラの部下で、〝緑の指〟を拉致しにアジトへ同行し、現在は特虹戦隊の秘密基地の留守を預かっている。
エフェドラの部隊の万人向けのPVを観ているセイカは、彼等が最後に勢揃いする場面に出てくる人達だと気付いた。そして実際に会って、「あ、少佐の部下だ」と紹介される前に納得してしまった。なにせ全員が副官のミヒャエル大尉に次ぐ超絶美形で、もうドS。存在自体がもうドS。黙っていてもドSオーラを放っている。
絶対留守番に遣うような人達じゃなし、過剰戦力だよね……と、セイカは遠い目をした。
「行け! ロマネスコロイド!」
「ははっ」
『サー!』
階段下にいたプラントロイドとザッソー兵達が向かってくる。
「ナニよ! 自分は傍観しているつもり!? そうはさせないワ!」
ディヴァースピンクが先陣切ってニグリを目指し、走ってゆく。
司令官なんだから冷静になろうよ! と、その背を追いつつセイカはまた呆れずにはいられなかった。




