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異世界で戦隊ヒーローのレッドをやっています!〜特虹戦隊ディヴァースⅤ〜  作者: 天ノ河あーかむ
第40輪「紫の戦士!」
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その後の『乙女の花園』とアジトでは

 イクシアは月面にある『乙女の花園』を訪れていた。

 〝紫の百合〟だったソフィーの私物を押収するためだ。これも立派な任務なのだ。

「もうっ。お姉さまが解放されたのは嬉しいけれどっ」

「まさかお会いできなくなるなんて!」

 女の子達は文句タラタラである。

 この前は早く救えと苦情を言われ、今日は何で会えなくなるのかと詰め寄られ。

「仕方ないじゃん。秘密結社〝(アク)(ハナ)〟の大幹部だったんだよ? 然るべき処分が決まるまで、自由にはさせられないよ。けど今生の別れじゃないんだから、我慢してよ」

 私物を押収する人員も、女性隊員ばかりにした。店は捜査対象になっていないし、押収と言いつつ実質は回収である。

 最大限の配慮に少しは感謝してくれてもいいのにと、イクシアは唇を尖らせる。

「ホントに〜、お姉さまを悪の組織から救えたの〜?」

 イクシアの天敵、兎耳ピンクツインテールのメイド服の子が、顔を覗き込んできた。

「それは日曜日の放送を見たら分かるよ。きっと驚くんだから!」

 腰に両手の甲を当て、イクシアは「ふふん」と得意げに笑う。

「まあ〜! 自信満々ね〜」

「私たちが納得できなかったら、許さないわよ!」

 いつもソフィーの隣を譲ってくれる巻きロングの黒髪にブレザーの制服を着た子が、左手を腰に当て、ビシッと指を差してきた。

 委員長……いや風紀委員かな?

「わたしはお姉さまの今後が心配だわ……」

「そうよ、お姉さまはお優しい方なのよ」

「今までどれだけお辛かったことでしょう……」

 VIPルームで侍っていた女の子達が入れ替わり立ち替わりやって来ては、切々とソフィーの減刑を訴える。

「大丈夫。悪いようにはしないよ。宇宙政府軍を信じてよ」

 その気持ちはイクシアも同じなので、何度でも真摯に受け答えをする。

「解ってるわ〜。ワタシたちにお(とが)めがないのも〜、そういうコトでしょ〜?」

「まあ! お姉さまが私たちを守ってくださったのっ!?」

「お姉さま……ますます好きになっちゃうわ!」

「あのね、聞いてた? 宇宙政府軍とボクのおかげって話だよね」

 どんなことでもソフィーを素晴らしいと讃える信者的ファンの女の子達をイクシアは訂正するが、たぶん誰も聞いていない。

「とにかく〜、お姉さまをこれ以上不幸にしたら許さないわよ〜」

「ふん。ボクがいるんだよ? 幸せになるに決まってるじゃん!」

 のんびりと喋りつつも釘を刺してくる兎獣人の子に、イクシアは自信満々に見下ろして鼻で笑った。

 二人の間に、見えない火花が散っている。

「あの二人、またやってるわよ」

「いつもよりバチバチしてるわね」

「これも見納めになるのかしら」

 外野の女の子達は呆れと少しの寂しさを滲ませて、囁き合っていたのだった。




 それからイクシアは押収した荷物を持った隊員は先に帰して、〝悪ノ華〟のアジトに向かった。

 仲間達がそれぞれ奮闘しているラウンジで、飲み物を貰って一息つく。

「こっちにはお姉さんの私物、まるでないんだっけ?」

「はい。最初っから使用していなかったかのように何もないっす」

「案内しますか?」

「ううん、いいよ。聞いてきたとおりだし」

 ソフィーが一時(いっとき)でもいた部屋を覗いてみたい気もするが、イクシアはリスク回避を選んだ。もしかしたら案内された先が罠だった、という可能性も捨てきれない。

 最初の頃はソフィーを探してあちこち行ったが、この巨大戦艦だ。週一で限られた時間に来るだけでは殆ど調べられないし、危険だと早々に悟ったイクシアは、潜り込んでいる少佐の部下に全容解明を任せることにした。結果、十ヶ月経った今では詳細な図面まで入手している。

 しかし、それを全て覚えてはいないし、素顔のザッソー兵は気のいい奴等ばかりだと分かっていても、敵なのだ。百パーセント信じるのは無理だ。

「では、オレンジさんはここに来られるのは今日が最後で……?」

 銀のトレーを抱えた素顔のザッソー兵は恐る恐る質問した。彼はオレンジ班の班長なのだ。

「そうだね、最後かも。司令官と忙しい少佐に、お姉さんについててもらうわけにはいかないし」

 イクシアは答えて、オレンジジュースをストローで吸う。

 ソフィーの立場は複雑だった。有閑令息達の被害者であり、地球人には加害者だ。情状酌量の余地は十分あるが、今のところは宇宙政府軍の捕虜で、同時にディヴァースパープルでもある。

 ゆえに、秘密基地で預かっている状態で、〝紫の百合〟担当だったイクシアが面倒をみるのが筋だろう。

 というか、他の人にソフィーを任せるのはイクシアが嫌だ。

「戦場では会えるじゃん。もともとボク、お姉さん探してラウンジ(ここ)にはあんまり来てなかったし。まったく会えなくなった()()()()()に比べたら、全然マシでしょ?」

 周囲にいるオレンジ班の面々が明らかにがっかりしたので、イクシアなりに励ましてみた。

「そ、そうっすかね」

「そうだよ。本来の関係に戻るだけだよ」

「本来の関係……」

「戦場で、やるかやられるか、ヒリヒリした緊張感の中で、会えるんだ」

「………………!」

「やるかやられるか……」

「ヒリヒリした緊張感の中で……」

「会える……!」

 イクシアの言葉は効いた。彼等はドMなのだ、想像してうっとりしている。イケメンが台無しだった。

「おれ、今まで以上に戦闘を頑張るっす」

「オレも!」

「俺も!」

「うんうん。ガンバレー」

 イクシアは適当に相槌を打って、洗脳を完了させた。


「殿下、ソフィーのことは気にしなくていいぜ? 特虹戦隊(うち)でちゃんと面倒見るからな」

 珍しく立って地球を見下ろしている〝青の薔薇〟の隣に並んだロメロは、ガンベルトに両親指を差し込んだ格好で真っ直ぐに前を向く。

「…………別に心配はしていない。ただ──」

「ただ?」

「──彼女と、一角獣人たちにとって、良かったなと思ったまでだ」

 〝青の薔薇〟にしては勢いがなく、ぽつりと呟いた。ここでは大手を振って言える話ではないからだ。それに。

「羨ましいか?」

「………………」

「もう少し、待てくれ。必ず、殿下の星も救う」

「………………」

 自分の星は自分で救いたいのに、その力がない。宇宙政府軍に期待するしかない現状に、不甲斐なさが募る。

 自国民の安全と引き換えに、眼前の青く輝く美しい星を、いつまで攻めねばならないのか。

 黙って地球を見つめ続ける〝青の薔薇〟に、ロメロは付き合って隣に立っていた。


(頑張ってください、ロメロさん!)

 〝青の薔薇〟とロメロが揃って地球側に立っている後ろ姿を、所定のコの字席からそっと見ているセイカは両手を握り、心の中で懸命に応援していた。

 そんなセイカに紅茶のカップを置いた〝白の廃園〟は声を掛ける。

「若が気になるのですか? セイカさん」

「はい? ああ、まあ〝青の薔薇〟さんの心境も気になりますが、それはロメロさんの担当ですので、彼に応援を送っているのです」

 さっきからずっと余所見(よそみ)をしていたセイカがやっと自分の方を向いたので、〝白の廃園〟は一応満足する。

「ロメロさんに応援を?」

「ええ。彼には頑張ってもらわないと」

 もう長い付き合いだ。〝青の薔薇〟と〝白の廃園〟の故郷では、同性同士の恋愛や結婚は禁忌ではないと判っているので、応援しても嫌がられない。

 けれども、年齢を気にして有り得ないと自分を恋愛対象として除外しているからか、いつまで経っても〝白の廃園〟は鈍かった。

「どうしてですか?」

「だって〝青の薔薇〟さんをオトせられれば、自動的にルニーさん(あなた)もついてくるじゃありませんか」

 だからセイカははっきり言った。

「────!」

「違うんですか?」

 セイカは小首を傾げ、斜め向かいに座っている〝白の廃園〟を見つめる。

 今日もセイカの装いは、言うに及ばずロリータファッションである。モチーフはアドベントカレンダーで、ジャンパースカートとお揃いの大ぶりのリボンのカチューシャもしっかりしていて、大変可愛らしい。

 周辺の素顔のザッソー兵達が「ぐふっ」とダメージをくらった。

「違いませんが……」

 真正面から受け止めた〝白の廃園〟は、発言の内容に戸惑っているだけだ。

 流石は〝青の薔薇〟のお目付け役、精神も強い……と素顔のザッソー兵達は尊敬した。

「じゃあ、やっぱりロメロさんを応援します」

 セイカはそう言って、出されたショートケーキにフォークを入れる。

 まだ困惑している〝白の廃園〟は、機嫌が良さそうなセイカを苦笑して見つめるのだった。


「ソフィーさんが抜けて、何か変化はありましたか?」

 角のコの字席がすっかり定着しているヴァリーリアンと〝黄の庭師〟は、今回の件から受ける影響を話していた。

「うむ。〝緑の指〟がプラントロイドを造り溜めておけと言っておったの」

「ほう、それは興味深い……」

 蜂蜜が存分にかけられた三段重ねのホットケーキにフルーツやホイップクリームで飾り付けた、カフェで出されてもおかしくない出来栄えのスイーツを、〝黄の庭師〟は食べ始める。

 ヴァリーリアンには紅茶と、お茶請けに皿に数枚並べたクッキーが出されていた。

「ちなみに今は何体、完成しているのですか?」

「ん……三体じゃな」

「〝緑の指〟は、何と?」

「あと四、五体は必要じゃと」

 〝黄の庭師〟はホットケーキをもりもり食べ進めるながら答える。

 なるほど数は合っている、とヴァリーリアンは頭の中でさっと計算した。

 地球を様々な理由で狙う悪の組織と、それを阻止する戦隊は、一年で決着をつける。今年の戦いは残り二ヶ月となった。〝緑の指〟が指示した数と合致する。

 だが造り溜めておくという意図は?

「貴方に負担がかかる何かを企てているのでしょうか?」

 例えば、送喚の魔法陣を使用するとか。

 ヴァリーリアンは言葉にしなかったが、〝黄の庭師〟はしっかり汲み取っていた。

「いや、それはない。作れとも言われとらんし、そもそも命令されても作るつもりはないの」

「本当ですか?」

「本当じゃ。前にも説明したとおり、セイカ殿がどうなるか判らんし、わしの残りの寿命全てが消費されるかもしれん。流石にソレは御免じゃな」

 添えられたフルーツをフォークで刺した〝黄の庭師〟は、軽く肩を竦めた。

「安心しました」

「貴重なサンプルじゃからな、わしは」

「違います、トミー。()()()()()()()()()()()です」

 淡々と、しかし思いを込めて口にすると、〝黄の庭師〟は大きな目を更に大きくしてヴァリーリアンを見る。

「そんなことを言われたのは初めてじゃ」

「長く生きているのに?」

「う、うむ」

 ほんのり頬を染めた〝黄の庭師〟の口についているクリームを、ヴァリーリアンは優しくナプキンで拭いてやる。

 なにもヴァリーリアンは策として発言したのではない。四ヶ月以上、アジトに通って接していたら、〝黄の庭師〟の人柄も分かるというものだ。

 最初は敵地に乗り込むのと謎多き〝黄の庭師〟の相手をするという任務に不安を覚えていたが、稀少人種で長生きの彼と話すのは驚きに満ちていて楽しく、また自分と同じ研究者あるあるで、遠回しな物言いは嫌いストレートな会話を望むのも心地良い。

 仲間が敵の大幹部に親身になっているのも、今なら理解できる。

「貴方の身が安全として。〝緑の指〟は、どんな策を巡らせているのでしょうか」

「わ、分からん」

 〝黄の庭師〟は動揺していた。今まで気にならなかったヴァリーリアンとの近い距離に、なぜか意識してしまう。

「な、なんにしても、一週早く出陣が回ってくるとなると面倒じゃの」

 視線が自分に向けられているのにドキドキして、ホットケーキに集中しようとしてもヴァリーリアンが気になり、味も分からなくなる始末だった。

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