ディヴァースパープル!
近づいてくると、それは網の中に数人の男達が詰め込まれていると判る。
「あれは……」
「村を襲撃した傭兵団の数人さ。ワシらにとって最も恨み深いクズどもさね」
「!」
長老の言葉を聞いた〝紫の百合〟は視線を鋭くし、殺気を纏った。これまで大幹部をしていた時でも見せたことのない、厳しい戦士の顔だった。
ヘリコプターはそんな彼女達の頭上を通過してゆき、急斜面の辺りでホバリングすると下側にある網の口を開いた。当然、不自然な格好で無理くり詰め込まれていた中身は落下して、「ぎゃっ」とか「グエッ」とか悲鳴を上げたが、ローターの回転音で汚い声は掻き消された。
斜面ギリギリではなく程良く衝撃を受ける高さから落としたのがミソだ。
そうして役目を終えたヘリコプターは去っていった。
「どわ────!!」
「うおお────ッ」
大柄な男達が砂利の急斜面を転がっている。全員に手錠がかけられているので自由が利かず、落とされた変な格好のまま絡まったりして回転しているので、ダメージが半端ない。
「お姉さん!」
殺意満載の〝紫の百合〟が傭兵達の方へ駆け出したと思ったら、もう傾斜の終点の手前に着いていた。素早い。本当の一角獣人の実力を見た。
「左手を挙げて!」
ディヴァースオレンジは驚くも、タブレット端末をシャーリー司令官に渡して替わりに細長いモノを受け取り、声をかけた。
傭兵達を迎え撃つべく立つ〝紫の百合〟は言う通りにしてくれたので、
「いっくよ〜!」
と、野球のピッチャーのように振りかぶり、
「そ〜れっ!!」
と勢いよく、手に持った細長く平べったいモノを、〝紫の百合〟が真っ直ぐ上に挙げている左腕を目掛けて投げた。
ディヴァースオレンジの身体能力はさすがで、ソレは狙い通り寸分違わず〝紫の百合〟の左手首に到達し、ピタリと巻き付いた。
「これは……」
手首に巻き付いた『変身ブレス』に戸惑う〝紫の百合〟に、ディヴァースオレンジと長老が言う。
「変身コールは『ディヴァースチェンジ』だよ!」
「宇宙政府軍の格別の配慮をありがたく頂戴し、過去との訣別をつけるんだ」
斜面を転がってきた傭兵達が目の前に着いた。〝紫の百合〟の視線が鋭くなる。
「よ……よお。あの時のねーちゃんじゃねえか」
「ああ……一角獣人の戦士の」
「いくら蹴りが強かったって、火器には敵わねえ」
「唯一生き残って、大幹部にさせられて──こっち側になった気分はどうだ? あぁん?」
塊で転がり落ちてきた傭兵達はなんとか散けて立ち上がり、下卑た笑いを〝紫の百合〟に向けた。
最初こそ戦闘で暴れられたものの、追い詰められた一角獣人は自刃も辞さない気性をしていると判ってから、雇い主──有閑令息達に「無体を働くな。見張りだけしろ。でないと報酬は出さない」と命令された。残虐を好むこの傭兵達は、見張りなどという甘っちょろい仕事をさせられ、鬱憤が溜まっていた。
宇宙政府軍に捕らえられてお終いかと思ったら、あの時一人だけ生き残った戦士がいた。だから嘲り、これまでの不満をぶつけたのだが──
却って〝紫の百合〟の迷いは消えた。
あの日から〝悪ノ華〟の大幹部になっても、今日までずっと着ている黒のドレスは、正しく喪服である。
それほどまでに一族への思いが強い彼女だ、その暴言の数々は、逆鱗に触れた。
「わたくしは、いいえ、わたくしたち一角獣人は、下劣極まりないお前たちを絶対に許さない……! ディヴァースチェンジ!」
〝紫の百合〟──ソフィー・アルカネットはついに変身コールを口にした。
ディヴァースブレスが輝いて、光に包まれる。
「うわっ」
「眩し……!」
傭兵達の目を焼く光が一瞬にして収まると、そこには紫色の強化スーツに身を包んだ新戦士が誕生していた。
「孤高に咲く一輪の花、『デイヴァースパープル』!」
ソフィーはシャーリー司令官のブレスから直接耳に届いた名乗りを上げた。
紫の強化スーツをすらりとした身体に纏い、額には一角獣人の象徴である長く立派な巻き角がパール色に輝いている。
少し離れた両サイドで、外側にいくほど大きくなる紫色のセメント爆弾が連続して爆発した。
用意がいい。確実に少佐の部下が演出班に潜り込んでいる。
確かに作戦会議はしたが、完璧すぎる。セイカ達は色々と呆れた。
「んな爆発でオレらを脅かそうたって、そうはいかねえぜっ」
傭兵達は演出の爆破に「うおっ」や「なっ!?」とびびっていた事実を無かったことにして、一斉にディヴァースパープルに襲いかかった。
手錠をされているとはいえ相手は細身の女性一人、力でどうにでもなると思ったのだろう。
しかし、ソフィーは一角獣人の中で最強の戦士。しかも変身している。
「ぐわっ」
「へぶしっ」
元々の強烈な威力に変身スーツの力も加わって、いつもの舞うような華麗な身のこなしで急所の顎を正確に狙い、後ろ蹴りで吹き飛ばした大柄な傭兵達が一人、また一人と、昏倒してゆく。
六人いた傭兵達の攻撃はディヴァースパープルに掠りもせずに、あっという間に彼女の蹴りに沈んだ。
「ふむ……予想以上に強いですね」
「アレは砕けてるだろ」
ディヴァースアクアとディヴァースゴールドは、プラントロイドやザッソー兵の相手をしつつ横目で見ていてげっそりした。
特虹戦隊の女性陣が強すぎる件。
「やったね! ディヴァースパープル!」
ディヴァースオレンジは空中一回転して駆け寄り、ぴょんぴょん跳ねて喜んだ。
「ヤツらの後の処理は任せて。法の裁きの下に、相応の報いを受けさせるワ」
今日もショッキングピンクの上着を着たシャーリー司令官は、モデル歩きでやって来ると濃いアイメイクの目でウインクした。
「よく我慢したね、ソフィー。よく我慢した」
「長老さま……」
ディヴァースパープルは変身を解き、杖をついて歩いてきた長老の前で片膝をつき俯く。
長老は優しく、その頭を何度も撫でた。
本当は、奴等を生かしておきたくなかった。最初に故郷が襲撃を受けた時、各集落の戦士達は一丸となって立ち向かった。だが誇り高く蹴りのみで戦う一角獣人は、最新の飛び道具の前では命を散らすばかりだった。
彼等の弔いに、今こそ奴等の命を刈り取ってしまいたかった。シャーリー司令官に長老は法の裁きを望んでいると聞かされなければ…………。
長老がそう言ったのは、これ以上、ソフィーに罪を犯させたくないからに他ならない。それにあんな下等動物に、一角獣人一の戦士が手を汚す価値もない。
「よ〜し、プラントロイドをやっつけてくるね!」
ディヴァースオレンジは元気よく仲間の方に駆けてゆく。
「じゃあ、アタシ達は戻りましょう」
後はあのコ達に任せておけば問題ないワ、と本日二度目のウインクをしたシャーリー司令官は、長老とソフィーを連れて秘密基地に戻った。
それからのディヴァースⅤは『スーパーファイナルDブラスターショット』でムラサキキャベツロイドを撃破。セイカはバトルフィールドを展開し、ディヴァースロボで巨大化したムラサキキャベツロイドを『ハイパーレインボービーム』で完全に倒した。
ムラサキキャベツロイドの最期の言葉は「付け合せの野菜も残さず食べてくれよ────ッ!!」だった。




