魔法陣
今、セイカの頭の中には、爆発が目玉になっている科学な戦隊のエンディングテーマが流れていた。有閑令息たちをを許せない気持ち、従うより他ない大幹部の心情──その他諸々も合わせて、自然にその曲が浮かんできた。
「そういったワケで、宇宙政府軍からこの任務に最適な五人を選ぶことになってネ」
シャンパン用っぽい細長いグラスの中身(炭酸ジュースだよね?)を一口飲んで、シャーリー司令官は喉を潤す。
セイカもクールダウンをした方がいいと思い、トロピカルジュースを飲む。
「見てのとおり四人は決まったんだけど、あと一人がネックで。なんでかっていうとあのクソガキども、『レッドは純血の日本人にしろ』って更に要求してきやがったのヨ!」
無茶ブリしやがって! とシャーリー司令官は憤り、六角テーブルをダンッと叩く。
「おいおい司令官、『男』に戻ってるぜ?」
「落ち着いてください。まあ、バカだからこそバカなことが言えたのでしょう」
「ほんと、時代錯誤だよね。今時『純血』ってなに? 吸血族でもこだわってないよ、そんなの!」
カウボーイコーデの人が顔に被せていたカウボーイハットを少し持ち上げて、眼鏡の青白い人も冷静に、シャーリー司令官を宥める。だが続く青白い人の発言は、ゆめかわ猫男子と同様に辛辣だ。
吸血族って……いるんだ。
「あの、ここは日本ですよね?」
異世界の日本には何か問題があるのだろうか。セイカは遠慮がちに聞いてみた。
「そうヨ。ココは日本で間違いないワ」
シャーリー司令官は肯定すると、眼鏡の青白い人を見て頷いた。
「僕から説明させてもらいます」
青白い人は眼鏡のブリッジを右手中指で押し上げ、セイカの方に向く。
「セイカさんのいた世界では異星人はいなかったようですし、宇宙にもさほど進出していなかったようですが、合っていますか?」
「はい。テレビ番組などでUFOや宇宙人らしき写真や映像を視るくらいで、わたしは実際には見たことはありません。宇宙ステーションや無人探査機はありましたが、有人で行くのは月が限界でした」
「ふむ」
裏付けが取れました、と眼鏡の青白い人は自分の前の六角テーブルのモニターに視線をやりながら言う。どうやらそこではセイカが持っていた学生鞄の中身──教科書の一部始終が確認できるらしい。
シャーリー司令官と話している間、熱心にキーボードを操って何かを見ていると思ったら、セイカがいた世界の文明レベルを推察していた模様。
「もうお分かりでしょうが、僕たちのいるこの世界は今、宇宙時代です。地球にも異星人が沢山います。斯くいう司令官を除く僕たちも、その内の一人ですしね」
青白い人はセイカに視線を戻し、
「宇宙時代が幕を開けてから、相当経ちます。であるということは、混血も当たり前になっている。司令官がそのいい例です。彼女はどこからどう見てもパヴォ星人なのですが、国籍は日本ですし育ちも日本なので一般的な日本人と言えます。──いいですか? 彼女でも『一般的』なのです。純粋な日本人を探すのは困難を極めます」
と、眼鏡のブリッジを押し上げて、現状の説明をしてくれた。
なんだかまた瞳が妖しい光を湛えているような……?
「別にクソガキどもの要望を叶えてやる必要はないの、っていうか、ホントは叶えてやりたくないワ! でも特虹戦隊は陽動部隊、なるべくヤツらの気を引いておきたいじゃない? だから探すには探したんだけど」
クールダウンしたシャーリー司令官は言う。
独自の文化を発信する神秘の日本は昔から人気で、異国人は疎か異星人が多く詰めかけており、純血の日本人はほぼいない状態だと。もし運よく発見したとしても、『軍に入隊して特虹戦隊のリーダーとなり、陽動を悟らせないように上手く戦うという任務』をこなしてくれるのか、こなせる人物なのか、分からない。
ムリゲーだよね、とタピオカミルクティーを飲むゆめかわ猫男子が冷たく言い放つ。
この世界・時代にもタピオカミルクティーってあるんだ。つい現実逃避をしたくなってしまうセイカは、ちょこっとホッとした。
「ちなみに、なぜリーダーにならなければならないかというと、古来より悪から地球を守る戦隊の隊員は変身して強化スーツで戦うのですが、変身後のそれぞれにはイメージカラーがあり、レッドはリーダーの色と決まっているからです。稀に変則的な戦隊もありますがね」
はい、知っています。今年はまさにその変則的な戦隊でした。わたしは『トランプ戦隊大壱式』と勝手に呼んでいます。
セイカはジュースを飲むフリをして、眼鏡の青白い人の解説に心の中で答えた。
「そんな折、クソガキどもからまた一方的な通信があったのヨ! 『レッド候補の捜索が難航しているようだな。我々〝悪ノ華〟が手を貸してやろうではないか』ってネ! 嫌な予感がして、スグに指定があった場所に四人を急行させたワ!」
「──そうして駆けつけるなか、僕たちの遠目にもはっきり見えました。空中に魔法陣が浮かんでおり、そこからセイカさんが現れるのを」
シャーリー司令官に次いで説明する眼鏡の青白い人が、これまでになく真剣にセイカに向き合った。
他の人達も、セイカに注目している。
「セイカさん、君はあの魔法陣によって、『異世界召喚』されたのです」