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異世界で戦隊ヒーローのレッドをやっています!〜特虹戦隊ディヴァースⅤ〜  作者: 天ノ河あーかむ
第31輪「二人の過去」
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潜入

 ルフェール人という種族は、母性を失っているので宇宙中に散らばって暮らしている。そのため、同族に出会う機会はそうそう無い。

 しかし、一度(ひとたび)同族が害されたとあれば、どこに居ようとも牙を剥く。自分の持つ力を最大限に使い、同族を害した者を徹底的に叩き潰す。第一級絶滅危惧人種に指定されるほど数が少ないせいか、会ったことが無くとも情報として知っている同族を非常に大事にし、敵には一切の容赦がない。苛烈な種族なのである。

 グラウとエフェドラの親子が襲われた事件の加害側──宇宙規模で活動する極悪非道と名高い武器商人も、決して許しはしなかった。裏の世界のパワーバランスが崩れるなどの情勢は、同族が非業の死を遂げた現実に比べれば、些事にすぎない。

 実際、ルフェール人はその美貌とカリスマを最大限に使い、宇宙中で各界の要職に就いていた。彼等が結束すれば、どれだけ大きな組織の〝死の商人〟といえども簡単に潰せる。

 だがエフェドラは、自らの手で奴等に引導を渡す道を選んだ。宇宙政府軍士官学校を卒業し、故郷に災厄をもたらした〝死の商人〟壊滅の任に就き、見事にそれを果たしたのである。

 各界のルフェール人はエフェドラの意志を汲み、仇討(あだう)ちを全面的にバックアップした。もちろん、宇宙政府軍の『お偉いさん』にもルフェール人がいる。当初未成年だったエフェドラの後見人になったのもその『お偉いさん』だ。

 そうしてエフェドラが任務を全うしたことで、ルフェール人は矛を収めたのだった。


 他方、〝死の商人〟を翻弄する策で活躍したユーリィは、〝英雄〟として祭り上げられそうになっていた。グラウ亡き後、復興の中で人々は新たなカリスマを求めていたのだ。

 ──冗談じゃない。

 ユーリィは早々に故郷の星を離れた。

 グラウの代わりなど務まるはずがない。自分のことは自分自身が一番よく解っている。あんな正道をゆく大物と、小悪党だった自分を、同列に考えるのも烏滸(おこ)がましい。

 それからのユーリィは様々な星を渡り歩いた。グラウの代わりにとする故郷の人間を()いていたのではない。追っ手を差し向けてまで祭り上げたいとは思われなかったらしい。転々としていたのは、ただユーリィがどの星に行っても落ち着けず、『余所者』感が拭えなかったからだ。

 そしてその間、エフェドラの情報をわざと入手しないようにしていた。原因は、グラウがあの最後の夜、『婿』だの『射程圏内』だの考えてもみなかったことを口走ったせいだ。有り得ないと解っていても意識してしまって、ずっと悩まされていた。

 なのにエフェドラの噂は嫌でも耳に入ってくる。遮断していても、それを上回る活躍を宇宙規模で成し遂げた。

 宇宙政府軍の軍人として(かたき)を討ち、故郷の人々の恨みを晴らした報道を聞いた時には、純粋に安堵した。しかしすぐに、グラウの懸念を思い出す。

『あの子は異常に生きる事への執着が薄い』

 確かグラウは、そう言っていた。それは未来の、復讐を果たした後の娘を心配しての言葉だったのではないか。

 目標が高ければ高いほど、クリアした時の達成感の次にくる喪失感は大きい。これからどう生きていったらいいのか分からなくなるのだ。

 だからといって、自分に何ができる訳でもない。

 軍や私生活で友人なり恋人……なり、できているだろうし、同族の後見人もいる。

 第一、()()()()()()()が、そんな(やわ)な神経をしているか? グラウが心配しすぎなのでは。身近な存在ゆえに見えるものも見えなくなっている可能性がある。

 とにかくもう、流されるだけの生き方をしている自分と、華々しい戦果を収めたどこにいても『英雄の娘』のエフェドラとは、道は交わらない。

 ──そう思っていたのに。

 なんの因果か、辺境の星・地球で再会し、敵となってしまった。

 故郷を襲撃された八年前の事件を許さなかったエフェドラはきっと、地球人にとってはあの〝死の商人〟と同様の側にいる〝緑の指〟となった自分を嫌悪しているに違いない。本来の部署から一時的に特虹戦隊(とっこうせんたい)に移ってまで、こんな緩い組織と直接戦う選択をしたのは自分に怒っているからだ──との考えは、自意識過剰だろうか。

「………………」

 写真集のカバーを戻して裏返し、ディヴァース(ファイヴ)の五人が並ぶ表紙を見る。

 エフェドラの見た目や得物・個人での攻撃はダークヒーローっぽいが、〝死の商人〟に対しても地球を守る今も、正義ある組織で戦っている。勝つためなら手段は選ばないとグラウは嘆いていたが、なかなかどうして強かだ。〝英雄〟の娘もやはり〝英雄〟だった、と人々が自然に認めるギリギリのラインを攻めている。

「…………どういうことだ」

 エフェドラのページを(めく)っていて、ふと目に留まった。

 人物の邪魔にならないところに簡単なパーソナルデータとアンケートの答えが載っていて、その中の一つが問題だった。

『好みのタイプ/可愛い人=ユーリィ・バートン・ハードハック』

 嫌がらせか?

 わざとか。わざとなのか?

 こんなものを載せては、写真の撮り方を誤魔化した意味がまるでないじゃないか。

 世間には〝(アク)(ハナ)〟の大幹部からザッソー兵に至るまで、本名は公表していない。けれどもこの情報社会、誰かが必ず調べ上げていて、ネットで検索すればすぐに判る。

『貴方はそう可愛いから、アジトに行くのも我慢しているんです』

 昨日、超絶間近でリミッター無しのエフェドラに言われはした。

 百歩……じゃ足りん、千歩くらい譲ったとして、だ。本気で自分を『可愛い』と思っているのなら、エフェドラの感性はおかしい。いや目が悪いのかもしれん。目医者に行け。

 自分のどこが『可愛い』のか。容姿も性格を反映して狡猾・小悪党などの評価が一般的で、自分で納得もしている。

 やっぱり嫌がらせか仕返しか。

 〝緑の指〟として父親を引き合いに出し、人前で散々挑発しまくってきたからな。

 特虹戦隊の他のメンバーはどうなっているのか確認したら、無難な答えが書かれていた。名指しされたのは自分だけだ。

「────……ッ」

 体温が上がってきて、首に巻いている包帯を雑に取り払った。

 そうと解っていても昨日エフェドラにされたあれこれが蘇ってきて、平静ではいられない。触れただけとはいえ、キスまでされたのだ。

 もう、逃げるべきではない。

 いい加減、グラウの言葉の呪縛から解き放たれたい。

 避けてきたこの八年間の彼女のことを調べるため、コンソールに向かった。

「なん…だ、コレ……は……!」

 ユーリィは呆然とした。

 検索したら真っ先に出てきたのは、エフェドラが本来所属する宇宙政府軍中央情報部のPVだった。『表』はまだいい。だが『裏』や『真』はどうだ。完全に内容が成人向けではないか!

 それに比べれば、自分が昨日された行為は児戯にも等しい。

 ユーリィの中で何かが切れた。




「許可証の提示を」

 どこかに繋がるドアの前で立哨している二人の兵士のうち、右側の男が言った。

 ユーリィ──〝緑の指〟は今、宇宙政府軍地球日本支部の基地内にいた。

 あれから基地に潜入するための各種許可証を偽造し、修理工に変装して工具箱を片手に、まず最初の検問を突破。敷地内に足を踏み入れた。それから目星をつけていた建造物の中を歩き回り、(ようや)くそれらしい扉を見つけた。

 灰色が基本の建物内にあって、白地に虹が描かれたドアだ。

 厳重に二人も兵士が立哨しているのも、確信を裏付けた。

「水漏れの修理・点検か」

「よし、入れ」

 簡単に許可が出た。

 帽子を目深(まぶか)に被った〝緑の指〟は、緊張してドアの前に立つ。

 左側に立っていた兵士が変身ブレスに似た何かに触れると、ドアが横にスライドした。

「…………!」

 開かれた先は、真っ白な通路だった。

 間違いない。ついに秘密基地に辿り着いたのだ。 

 静かに興奮しつつ、〝緑の指〟は慎重に通路を進む。背後でドアが閉まる気配がした。


 それからも人と出逢いそうになると進路を変え、秘密基地と思われる通路を彷徨っていた。

 未だ司令室にもディヴァースロボがある格納庫にも行き着けていない。

「おい、そこの──」

 通路の先から声をかけられてギクリとした〝緑の指〟は、慌てて進路を変える。

(まずい。追ってきている)

 〝緑の指〟は靴音を気にしながら壁を背に移動しつつ、近くにいくつかあるドアに入るかどうか迷った。

 その時、不意に背後のドアが横にスライドし、中から伸びてきた手に口を塞がれ、工具箱を持つ手を引かれて、後ろに引っ張り込まれる。

「────!!」

 恐慌状態に陥りかけた〝緑の指〟だったが、

「しっ。静かに」

と、耳のすぐそばで知った声がして、ゾクゾクして力が抜けた。

「おっと」

 手から工具箱を離してしまい、声の主が空中で持ち手を掴む。

 そうして(しばら)く口を塞がれたまま、じっとしていた。解放されたのは、靴音が去ってもう戻ってこないと思われてからだ。

 ただし、あっという間に後ろ手に手錠をかけられた。ついでに帽子も取られる。

 振り向けば、いつものコートを羽織った宇宙政府軍中央情報部の制服姿のエフェドラが、腕を組んで壁に左肩で凭れ、眼帯をしていない星銀の瞳でじっとこちらを見下ろしていた。そして自分ではない男の名を口にする。

「ミヒャエル」

「はっ。ご指示通りに」

 なぜか写真集にも登場した天使のごとき見た目の副官がエフェドラに敬礼すると、足早に室内から出ていった。その際、一瞬きつく睨まれた。

「………………」

 二人きりになった室内をさっと見渡せば、部屋の半分をローテーブルとソファー、キャビネットが占めており、エフェドラの背後には続き部屋への入り口があるようだ。

 〝緑の指〟が持ってきた工具箱は二人掛けのソファーの横に、帽子はローテーブルに置かれていた。

 この室内に引っ張り込まれる前にしっかり観察していれば、各ドアの横にネームプレートがあり、ここはエフェドラに割り当てられた部屋だと判ったのだが。

「何をやっているんですか? ユーリィ」

 エフェドラは静かに責めた。態度にも言葉にも、多分に呆れが含まれている。

「……本当に、何をやっているんだろうな」

 星銀の瞳を見ていられず、〝緑の指〟は視線を外して自嘲した。

 勢いに任せて、ここまで来てしまった。血迷っていたとしか言いようがない。

 そして案の定、捕らえられた。

 エフェドラの組んだ腕の右手に握られているリードは、垂れ下がって自分の後ろ──手錠に繋がっているのだろう。

「貴方にしては、へまをしましたね。私が保護しなければ、どうなっていたか」

 解っているんですか、とエフェドラは(とが)めたのち、「まあ、貴方は私の獲物。誰にも渡しませんが」と断言した。

 独占欲をさらりと口にされ、それだけで胸が高鳴る。末期だ。

 どうしようもない自分に内心頭を抱えつつ、『保護』と聞いて、〝緑の指〟はエフェドラを見返す。

 それで悟った。

「まさか…………」

 基地へ潜入してからの道中、清掃していて通れなかったり、通行禁止の看板が通路の真ん中に置いてあったり、天井の電気系統の工事中だから向こうへ行けと言われたり……いろいろなことがあって、進路を変えざるをえなかった。それで秘密基地へのドアへ辿り着けたのだが、立哨の兵士も簡単に許可を出した。そして先程の声がけで、こちらの方へ逃げ込んだ。

 その全てがここへ誘導するためのもので、清掃員から声をかけてきた隊員までが皆、エフェドラの部下だったとしたら?

「……最初から、君の手の内か」

 茫然とエフェドラを見上げるも、だがどこか納得している自分がいる。あまりにも上手くいきすぎた。

 エフェドラは否定も肯定もしないが、最適解を導き出した〝緑の指〟に「よくできました」と褒めるように微笑している。

「それで? 貴方がこんな大それたミスを犯した原因は?」

「…………写真集のアンケートで俺を名指ししただろう」

「しましたね。で?」

 エフェドラは追及の手を緩めない。実名を載せたくらいで、ここまで来る理由にはならないと。

 〝緑の指〟は観念して答える。

「…………君の部隊のPVを見た」

「全ヴァージョンを?」

「……そうだ」

 いい大人なのに気まずくて、足元に視線を落とす。

 床にはこの部屋にも続きの部屋にも、白地に蔦っぽい大柄の花の模様の絨毯が敷かれている。家具や調度品に合っているが、シャーリー司令官の趣味とは知らない〝緑の指〟は少し不思議に感じた。

 余談になるが、寝起きできれば問題ないと考えているエフェドラの部屋は、内装や家具をシャーリー司令官に丸投げした結果、セイカの部屋とは別シリーズのロココ調で整えられている。司令室のフリースペースと同じゴシック調にしなかったのは、それだとエフェドラに似合いすぎて、部屋を掃除したりする人員が怖かろうというシャーリー司令官の気遣いだ。

「では、遠慮は要らないということですね」

「うわっ!」

 現実逃避をしていたら、急に身体が持ち上げられた。また『お姫様抱っこ』だ。

「────っ!」

 二、三歩移動したところで、乱暴に二人掛けのソファーに放り出される。横向きだったので手錠で手首や背中が痛まずに済んだが、それにしても二日前と違って手荒い。

「アレを見ていなくて、今まで戦いの度に散々挑発していたとは驚きですが」

 その意見には激しく同意する。〝緑の指〟はエフェドラの外見と得物と戦い方だけで批難していたのだ。宇宙政府軍のPVを知っている者は、それを見ているからこその挑発だと思っていたに違いない。

(近い! 近すぎるぞ、お嬢ちゃん!)

 体勢を立て直そうとしても、エフェドラがのしかかってきて上向きにしかなれない。

「さて。貴方はどうされたい?」

 息も触れ合うほどの近距離で囁かれた。〝緑の指〟には逃れる(すべ)はない。

 どこかの王室みたいな部屋で、軍装麗人は絶対的な支配者だった。

「君の…………好きにしてくれ」

 どうせ捕虜に選択権などない。もう楽になりたかった。

 諦めの境地のその発言はしかし、エフェドラを最大限に煽るものだと〝緑の指〟は気付いていない。

「殊勝な心がけだ。……泣いても許しませんよ、ユーリィ」

 エフェドラは手袋を脱ぎ捨てて、〝緑の指〟が着る作業着(ツナギ)のファスナーの引き手を掴んだ。

 肉食獣よろしく獰猛に光る星銀の瞳も美しい、と〝緑の指〟は見惚れていた。


 こんなことをしでかした〝緑の指〟にはあと一つ、彼しか知らない動機があった。八年前のあの日の夜、グラウが言ったことが本当なのかどうか、真意を本人に確認したいとの動機が。

 けれどもまだ、その答えを聞く勇気は〝緑の指〟にはない。




 夜も更けて静まり返った秘密基地を、歩く人影があった。

 その人影はひっそりと、ディヴァースロボの格納庫から基地の外へと消えていった。

 いつもは巡回している哨戒の兵士の姿は、一人も見当たらなかった。 

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