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異世界で戦隊ヒーローのレッドをやっています!〜特虹戦隊ディヴァースⅤ〜  作者: 天ノ河あーかむ
第31輪「二人の過去」
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黒獅子

 立ち入り禁止のバトルフィールドの最奥。

 イベント会場から遠く離れた岩壁の上に──()()はいた。

「黒い獅子……だと!?」

 対象を捉えたカメラがアップの姿を映しだす。

 鋭い爪の生えた四肢で岩場を踏み締めた獅子の機獣は、一見黒い塊だ。しかしよく見れば、(たてがみ)に真紅のメッシュが入っている。

 この希少な機体を地球の愛好会が所持していたとは驚きだ。〝緑の指〟の故郷でも、片手で数えられるくらいしか確認されていないはずである。

 ホームページには獅子の機獣は二機所有しているとあり、一般的なカラーリングの写真が載っていた。もう一機も同じものと思わせる──現に〝緑の指〟もそう思い込んでいた──手法か。やはり松平という男、食えない奴だ。

 そして、本場の黒獅子のライダーとなると──

『どわ──ッ!!』

『くっそ〜! またミズタニにやられたっ』

『待て! 待て待て待てっ! ギブだギブ!!』

 〝緑の指〟が上空を旋回して様子を見ている間に、バトルに参戦していた様々な種類の七機は、黒い獅子一機に全滅させられていた。瞬殺だった。

 しかも、最後に仕留めた機獣には、押さえ込んで牙を剥き、一撃必殺の弾を放つ口内の武器を向け、エネルギーを溜めだした姿でライダーを慌てさせ、降参させるという鬼畜っぷり。

 この戦い方は──

「うわっ」

 戦況を分析していたら、機獣を足で踏みつけたまま最後に残った〝緑の指〟に黒獅子が背中の二連装カノン砲を撃ってきた。

 すんでのところで回避し、体勢を立て直す。

『ボル君、キミだけが希望だ!』

『頼むぞ! ミズタニを倒せるのは本場のライダーのあんたしかいない!』

 倒された愛好会の面々が勝手なことを通信してくる。

 八年ぶりの機乗、機種も異なるというのに……過剰に期待してくるなと言いたいが、あいにくとそんな余裕はない。黒獅子が地上で目を光らせているのだ。

 ここで戦うと被害が酷くなる。〝緑の指〟が場所を変えるべく飛んでいくと、黒獅子が追ってくるのがモニターの一部に映し出された。




 ──この辺でいいか?

 倒された機体がゴロゴロ転がる場所からだいぶ離れた。〝緑の指〟は向きを変え、空より攻撃を開始する。黒獅子は器用にもその全てを避けた。

 しばらくそうした状態が続いた。

 愛好会の面々が瞬殺されていたことを考えると、普通に戦っている現状は不気味ですらある。決して不利な状況に追い込まれている訳ではないのに、真綿で首を絞められているような圧を感じる。

 こういった局面では集中力が途切れた方が負けだ。そして、〝緑の指〟は今日初めて乗った機体である。

「──ッ! しまっ……!」

 カノン砲を避けた時、操縦が僅かに狂った。黒獅子は一瞬の隙を見逃さない。

 奇岩が乱立する地帯に入っていたのもまずかった。

 体勢を立て直そうとするも、黒獅子が速い。周囲の奇岩を利用して宙を跳び、〝緑の指〟が乗る機竜に迫る。そのまま鋭い爪の一撃がくるかと思いきや、黒獅子は体を反転させ、先端にビームガンが付いた長い尾をしならせて機竜を打ち据えた。

 その攻撃は近頃何度となく目にし、(じか)にも食らったことのある、()()の攻撃によく似ている。

「────くッッッ!」

 地面に叩き落とされた衝撃が、〝緑の指〟の全身を襲う。

 宙にいた黒獅子は難なく側に着地し、勝利の咆哮を上げた。




 これ以上は戦闘不能だとアラートが鳴っている。

 今頃大型屋外ビジョンがあるイベント会場は、黒獅子の見事な勝利に沸きに沸いているだろう。

『ボル君、大丈夫か!?』

「……ああ、心配ない。少し休んでから戻る」

 松平の焦った通信が入ったが、〝緑の指〟は気丈に答えた。本場のライダーだった者の矜持として、無様な姿は晒せない。 

『解った。何かあったら連絡してくれ』

 それを汲み取ったのか松平は深く追求せず、通信を切った。

 映像を送っていた飛行型カメラも全て引き返していった。

「ッ…………」

 気を緩めた途端、全身が痛む。だが、そのうち治まる。経験上、解っている。

 それよりも、機体だ。

 故郷のように環境が整っていない地球で、借り物の機竜を初回で壊しては、本場で戦っていた者として立つ瀬がない。

 まずは起こしてみるが、普通に立ち上がれたので一安心し、計器で損傷箇所を確認した。すると幸運にも、どこも壊れていなかった。

「ふうっ…………」

 キャノピーを開け、フルハーネス式シートベルトを外して操縦席にくたりと凭れ、肺から空気を吐き出す。

 アラートは鳴り止んだが、まだ休んでいた方がいいだろう。機竜も、自分も。

「………………」

 尾は接近戦で敵を振り払ったり、距離を取らせるために使う。機獣ならば武器を先端に装着し、攻撃する。なのに黒獅子は尻の付け根から先端のビームガンまでの、武器化していない部分で機竜を叩き落とした。しかも地上型の機体で花形である、誰もが持ちたがる獅子の機獣で、だ。

 八年前までの世情しか知らないが、そんなトリッキーな戦い方をするライダーは、記憶にある限りでは一人しかいない。

 痛みが治まるのを待ち、そう分析している間に、黒獅子の巨大な顔が迫ってきた。それは鼻先が掠る寸前で止まり、黒色で中が窺い知れなかったキャノピーが上に開いた。と同時に、こちらも黒い人形(ひとがた)としか認識できない者が〝緑の指〟目掛けて降ってくる。

「! 馬鹿者! 揺らすなっ!」

 今し方ダメージを受けたばかりの機体の、頭部にある操縦席に、大きな図体をして飛び移ってくるとは何事だ。一歩間違えたらバランスを崩して倒れる。

 〝緑の指〟は年長者として思わず叱った。

「大事ないか? ユーリィ……いや、ボルどの」

 黒獅子から降ってきた人物は、反省している様子もなく、フッと微笑した。

 嫌な予感は当たった。

 黒いライダースーツに身を包み、眼帯をしていない長身の超絶美形が、物凄く間近にいる。一人乗りの操縦席だから当然だ。

 〝緑の指〟は今、足の間に素早く長い脚を入れられて両脚を開かされ、操縦席の後方の壁に手を着けた肩の上すれすれの腕の間に頭部があるという、エフェドラの長い四肢に囲われた状態になっていた。

「心配するなら手加減しろ、この馬鹿者! こっちは八年のブランクがあると通信があっただろうが! それが何だ、あの戦い方は? 俺を殺す気か!」

「飛んでいるものは落としたくなるのが地上型乗りの(さが)です」

「何!?」

 覆い被さるエフェドラは背が高いから、そんな体勢でも操縦席に座る自分が見上げる形になっている。

 なにもかもが(かな)わないゆえに近すぎる距離に負けじと叱り続ければ、しれっと答えが返ってきた。

「第一、貴方の愛機は翼竜じゃない。この愛好会では所有していないので、仕方がないのでは?」

「…………」

 そうなのだ。〝緑の指〟が故郷で乗っていたのは翼はあれど空から攻撃する飛行型ではなく、両腕に異なる武器を装着した格闘型の機竜の亜種であった。

 しかし、だからといって負けても仕方がないとは思えない。ライダーだった者としては、負けはやはり悔しいものだ。

「で? 偽名まで使って、貴方は何をしに来た?」

 空気がピリッとしたものに変わった。エフェドラは何故か警戒している様子だ。

「何をって、偶然ここの愛好会のホームページを見つけりゃ今日はバトルに参加できるとあったから、乗りに来たに決まっている」

 〝緑の指〟は肩を竦めた。

「大体、君だって偽名じゃないか。黒髪だから日系人の名字とは単純な。無理がありすぎる」

「そうですか?」

「そうだ。君は〝英雄〟の一人娘だぞ。()()()()で気付かれないとでも?」

 漆黒の短髪に、星を散らしたかのような銀の瞳。性別を超越した美形な上、百九十を超えた身の丈で、長い四肢を持つ体は細めに見えても鍛錬によって引き締まっている。

 いつもは強すぎるカリスマを軽減させるために着けている眼帯もしていないし、黒のライダースーツ姿は今となっては貴重だ。憎らしいほどカッコイイのだ。このライダーヴァージョンを目にしたことのないエフェドラの宇宙中のドMファンは、知ったら見逃していた時間を惜しんでさぞかし嘆くに違いない。

「この詳しすぎる愛好会の面々が、知らないはずがない。気付かないふりをしているんじゃないか」

「一応、人前ではミラーグラスをしていますが」

 エフェドラは自分の左胸ポケットに視線をやる。そこには蔓が挿してある、細長いレンズ部分がマジックミラーになっている眼鏡があった。

「そんな物、余計に怪しんでくれと言っているようなものだ。逆に悪目立ちするぞ」

 ミラーグラスをしたライダー姿のエフェドラは、〝緑の指〟も見たことがない…………見たい。きっと間違いなくカッコイイ。

 けれども素直じゃない〝緑の指〟は別の現実を突きつけて、「はっ」と嘲笑した。

 性根が悪いのは自覚している。……後で落ち込みはするが。

「貴方が心配してくれているのは解りました」

「……なんでそうなる」

「全く。貴方はそう可愛いから、アジトに行くのも我慢しているんです。それがこんな所でこんな風に遭ってしまっては…………理性を無くす」

「────!?」

 ほぼゼロ距離にあったエフェドラの素顔が更に近付いてきたかと思うと、なんと首筋を噛まれた。そしてそのまま耳の後ろまで、じっくりと味わうように舌を這わせられる。

 驚くも抵抗する暇もなく、〝緑の指〟はぞくりと感じ、反応しなくてもいいところまで反応した。

 その時。

『ミズタニ、ボル君、無事か!? 会場に〝(アク)(ハナ)〟とかいう連中が現れて大変なことに──おわッッッ』

 タイミング悪く通信してきた松平は、こちらの現状を視認するなり頓狂な声を上げた。

「〝悪ノ華〟? まさか」

 怪訝に眉を寄せ、〝緑の指〟は呟く。

 今の状態を見られたことや松平の反応よりも、有り得ない情報に意識を持っていかれた。

 自らが立てた計画では、今週の襲撃は今日ではないし、場所も異なる。

「松平会長、どんな奴が率いている?」

 今週の担当は〝黄の庭師〟だ。

 〝緑の指〟は確認を取りながら、ライダースーツのジャケットの中に手を忍び込ませてきたエフェドラの手首を掴んだ。

 油断も隙もない……他人(ひと)に見つかっても()めないとは、どういう神経をしているんだ。

 しかも、〝悪ノ華〟襲撃の報告を受けているこの最中に、だ。

『あ、ああ、そうだな。白衣を着た子供だ。誰かが、合法ショタだ! と叫んでいたが』

 その叫びは純粋に恐怖からなのか、美少年好きの歓喜の悲鳴なのか──まあそれはどうでもいい。〝黄の庭師〟ならば、順番は合っている。

 だが、今日この場に差し向けたのは、誰だ?

『エフィ、聞いてる!? 〝悪ノ華〟が現れたワ! 貴重な休暇だというのに悪いけど、至急、ミンナと合流してちょうだい!』

 〝緑の指〟が掴んでいない方の手首に巻かれている変身ブレスから、シャーリー司令官の声が聞こえてきた。

「了解」

 エフェドラは左手首に向かって端的に返し、

「会長、彼奴(きゃつ)()特虹戦隊(とっこうせんたい)が対処するので、人々の安全の確保をお願いします」

と、肩越しに後ろの画面を一瞥(いちべつ)して松平に指示を出した。

『よし、解った。ヒーローが駆けつけるまで守りに徹するよ』

 松平はエフェドラの指示を正しく理解して、通信を切った。

 機獣達を使えば〝悪ノ華〟など簡単に潰せるが、それは『兵器』としての使用を意味する。エフェドラと〝緑の指〟の故郷以外に機械生命体を流出させないのは、生態系や軍事バランスへの影響があるからだ。地球が唯一の例外で譲り受けられたのは、祖先の星という理由以外にも、そういったことへの心配がないとの信頼があってこそ。

 だからここでエンターテインメントではない戦いに借り出す訳にはいかない。

「貴方にも予想外の事態らしいが」

 先程の松平とのやりとりで察したエフェドラは、銀の瞳で〝緑の指〟を捉え、

()()()()()を邪魔された恨みをすぐに晴らしてくるので、()()()で待っていてください」

と言うと、今度は真正面から首の付け根に噛みついた。

「────!!」

 〝緑の指〟は思わず硬直する。

 それをいいことにエフェドラは噛んだまま、舌でゆっくり肌を舐めた。

 そうして満足したのか身体の囲いを(ようや)く解き、

「では、格納庫で」

と言い置いて、さっと黒獅子に飛び移ると操縦席に座ってミラーグラスをかけ、キャノピーを閉じてイベント会場の方へ駆けて行った。

「………………ッ」

 (しばら)く茫然と黒獅子を見送っていた〝緑の指〟は、我に帰ると身体から力が抜けてずるりと操縦席に凭れかかった。

 エフェドラのミラーグラスをかけたライダー姿が見られてラッキー……ではない。

 喉に噛みついてくるとは、あいつは猛獣か!

 幸い人間の顎は同時に左右の頚動脈まで届かないし、鋭い牙もない。なのに、身動きすらできなかった。

 確かに首は急所だが、獅子に食いつかれた草食動物でも多少は抵抗するものだ。

「………………」

 獅子に乗っている人物も獅子だった。()()()()()()()()()()だ。

「くそ、お嬢ちゃんめ…………」

 リミッターを外したエフェドラの超絶美形な素顔と間近も間近で対面し、なんだかヤバイ体勢に持ち込まれ、よくぞ気丈に保てたと自分を褒めてもいいところだ。これが他の奴だったら即落ち……いや即堕ちで、ドMの仲間入りだ。

『一般人を守れ!』

『おお、特虹戦隊が来たぞ!』

『助かった!』

 入ってくる音声だけをオンにしておいた。どうやらヒーローが到着したらしい。

 わざわざ立てた計画を破り、勝手に攻めてきた〝黄の庭師〟一団など、やられてしまえばいいのだ。この平和なイベント会場を騒がせた罪も許し難い。

 〝緑の指〟はこれまでしてきたことを棚上げして、憤っていた。八年前の状況と重なって、今回の襲撃はどうも平静ではいられない。

「ふう………………」

 身体を操縦席に預けたまま、息を吐く。

 こちらはあれもこれもダメージが大きい。

 イベント会場に戻るには、まだ時間がかかりそうだった。

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