一冊目
イクシアと〝紫の百合〟の撮影が終わるとみた四人は早速変身し、ナスロイドに『スーパーファイナルDブラスターショット』をくらわせる。そして〝紫の百合〟は撤退、イクシアも変身して合流すると、セイカはバトルフィールドを展開。ディヴァースロボに乗り込んだ五人は、巨大化したナスロイドを新必殺技で倒した。
爆発の直前に放った巨大ナスロイドの最期の言葉は「茄子紺はナスニンという色素だぞ────ッ!!」だった。
明日テストにでも出るのかな?
その後、あの〝紫の百合〟がイクシアと写真を撮影したという事実を知った〝悪ノ華〟のアジトでは、大騒ぎになった。例によって彼女は留守だったが、イクシアが素顔のザッソー兵相手に次々とご機嫌で自慢しまくり、セイカ達も肯定したおかげで、信憑性は増しに増した。
「来週は〝青の薔薇〟さんとルニーさんの番ですよ」
「? 我々ですか?」
「貴様、なにを言っている! なぜ我等が貴様等と写真を撮らねばならん!」
セイカの言葉に〝白の廃園〟は不思議そうにティーカップを置き、斜め向こうのコの字席にいた〝青の薔薇〟は威勢よく立ち上ってビシッと指を差してきた。
「ですから若、他人を指差してはなりません」
すかさず〝白の廃園〟の注意が飛ぶ。いつものルーティーンである。
セイカは気にせず説明する。
「〝紫の百合〟さんのみだと、なんだか彼女が裏切った感が出ると思いませんか?」
「そう言われれば、そうですね」
「なので〝白の廃園〟ことルニーさんと大幹部の皆さんには次に出撃した時、撮影に協力していただきたいのです」
平静に説明を終えて、セイカはレモネードをストローで飲む。
「だそうですよ、若」
「ふん……〝紫の百合〟め。面倒事を増やしおって!」
〝青の薔薇〟は反論はせず、しかし不服そうにその場にどかりと座った。
あんなに異性を邪険にする〝紫の百合〟を見捨てない。それを甘いととるか、王の器とみるか。
実際、〝紫の百合〟の写真を載せなければいいだけの話だ。けれどもそうしないのは、アジトにも居着かない彼女がイクシアのお願いに応じたという信じ難い事実を無駄にしたくないという配慮だろう。いや単に、〝青の薔薇〟もロメロとの写真が欲しいのか。──どちらもかもしれない。
「殿下は〝白の廃園〟殿との立ち姿と、オレとのスペシャルなツーショットだな」
「なっ……! なぜ私が貴様とっ!」
「プロの腕で撮ってもらえるなんて貴重だぜ、殿下? オレは楽しみだな」
「ぐ…………っ」
やはり〝青の薔薇〟もロメロとの写真が欲しいらしい。ストレートに嬉しがるロメロを前に言葉を詰まらせた。
「ルニーさんはわたしとですよ」
「私が? セイカさんと?」
〝白の廃園〟は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、セイカを見る。
「そうですよ。……わたしとでは不満でも?」
座った目をしたセイカに、〝白の廃園〟は慌てて驚いた理由を口にする。
「いいえ、セイカさんと撮って貰えるなんて光栄です。ただ、セイカさんのファンは不快に思うのではないでしょうか? 第一、私の写真に需要があるとは思えません」
それは穏やかな指摘だった。だが、セイカの不機嫌さは増した。
「なにを言っているんですか! 〝白の廃園〟ことルニーさんは宇宙中で今年一番のイケオジキャラだと大人気ですよ! 需要はありまくりですよ! 少なくともここに一人、需要があります!」
セイカは身を乗り出し、自分の胸に手を当てて捲し立てる。
「ルニーさんのファンにはむしろ、わたしの方が邪魔です! わたしが部外者で購入希望者だったらそう思います!」
「わ、解りました。セイカさん、落ち着いて」
「本当に解ってますか!? 自分の人気を自覚してください! わたしはツーショットで宇宙中のルニーさんファンに牽制するんですからね!?」
「解るぜセイカ、オレもそのつもりだからな」
ロメロは腕を組んでしみじみと頷いている。斜め隣に座っている〝青の薔薇〟は淡褐色の頬を染めて「なっ……」と言ったきり、口を開けたり閉じたりを繰り返してもじもじしだす。
一方、ヒートアップしたセイカは乱暴にソファーに座り、レモネードを飲み干した。
すると二杯目が手際よく差し出され、空になったコップは素早く回収される。〝白の廃園〟の手配だった。セイカが熱く語っている間、隙をみて素顔のザッソー兵に目で指示を出していたのだ。
運動音痴が治って日常生活を送るのに余裕ができたセイカは、意外に沸点が低かった。普段はロリータファッションに身を包んでおっとりしているが、間違ったことには口論も辞さない気の強さをみせる。
この半年余りでセイカの性格を把握してきていた〝白の廃園〟は、未だに何が引き金になって怒り出すかは理解していないが、フォローの仕方は完璧に近づいていた。
「あっちもこっちも、若い者は大変じゃのう」
「他人事ではないですよ、トミー。最終週は貴方も撮るのですからね」
ヴァリーリアンはパフェを食べている〝黄の庭師〟の唇についたバニラアイスを拭いてやりながら告げた。
先週、初めてのアジト訪問で緊張していたヴァリーリアンだったが、〝黄の庭師〟の世話を焼いたりお互いの専門分野の話をしたりしているうちにぐっと距離が縮まり、ファーストネームと愛称で呼ぶ仲になっていた。
「本当は、貴方の写真など世に出したくないのですがね……」
幻のソレイナム星人ですよ、僕が独占したいですよ、そもそもこの新コスチュームは何ですか半ズボンとか不味いじゃないですか合法ショタホイホイですよ、とブツブツ不満を垂らしているヴァリーリアンに、
「リアン、マッドサイエンティストなのか個人的な理由なのか、おぬしも厄介な感情に翻弄されておるの」
と客観視するだけで、世話を焼かれ続けるのだった。
そんな訳で、四週に渡って〝悪ノ華〟が現るところ特虹戦隊ディヴァースⅤとムック撮影隊あり、となった。
〝青の薔薇〟と〝白の廃園〟は多くの品種が咲き誇る薔薇園、〝黄の庭師〟はいろいろな花の咲く噴水のある公園で、戦いの前に大幹部としての写真と、それぞれに関わりのあるディヴァースⅤの戦士とのツーショット写真を撮る。
大幹部の単体写真でも貴重なのに、ツーショット写真が想像以上に破壊力のある絵になった。
それほど問題ないのはセイカと〝白の廃園〟のもので、二人は適切な距離でベンチに座り、アイスティーを飲んでいるというほのぼのしたものに。
だがしかし、他の組み合わせが強烈だ。
まず男嫌いで有名な一角獣人の〝紫の百合〟が、ゆめかわいいを体現するジェンダーレス男子とはいえ歴とした男性のイクシアと、仲が良さそうに一つのジェラートを二人でスプーンを使って食べている。
〝紫の百合〟の不機嫌な無表情しか見たことのない殆どの人々は、幻かな? と自分の視力を疑った。だってあのツンオンリーの美女が、柔らかく微笑んでいるのだから。
次に読者が絶叫したのは、〝青の薔薇〟とロメロのツーショットだ。
〝青の薔薇〟は薔薇の咲く蔦が這う煉瓦の壁を背にし、ロメロが彼を追い詰めたように左手から肘を煉瓦につけ、壁ドンよりも近接した二人が目線は読者に向けている。
気の強い〝青の薔薇〟と二枚目半なロメロが、アンニュイな雰囲気で流し目をくれていて、普段とは逆の雰囲気に、彼等を二人一組として応援しているファン──世の腐女子・腐男子・貴腐人などの腐界の住人は萌え死にした。大反響で増刷するはめになった。
また、〝黄の庭師〟は食べかけのソフトクリームを持って噴水の縁に腰掛け、ゼロ距離で隣に腰掛けているヴァリーリアンに汚れた口元をハンカチで拭かれており。動画でないのに、地面に着かない膝小僧を出した脚をぶらつかせているのが判る。口元を拭かれている斜め上向きの角度も良い。
合法ショタを遺憾なく発揮したそのワンシーンもアジトでは見慣れた光景となりつつあるが、初めて目にした腐界の住人およびショタコンは鼻息を荒くした。彼等も二人一組として、新たなファンを大量に獲得した。
撮影隊の渾身の一枚が多すぎる件。
約一ヶ月密着して撮りためた写真の数々は特撮のムックでは収まりきらず、結局まるまる一冊が特虹戦隊ディヴァースⅤのフォトブック第一弾として出版された。
元の世界でも前半と後半で二冊発売されていたよねと、セイカは驚かなかった。自分が素顔の戦士として載っているのは不思議な感じで、けれども仲間の一人としての結果だと思うと、この世界で独りじゃないという証として宝物になった。
なお、〝緑の指〟はそんなに人気がないので大幹部として単体の写真は無く、エフェドラと辛うじてツーショットかな〜? と首を傾げたくなる二人の距離が相当離れた、踏まれても緊縛されてもいない写真となった。〝緑の指〟の安全を考えた苦肉の策だった。……本来ならヴィラン側の身の危険を考えてやる必要はないが、今年の〝悪ノ華〟の実行部隊は彼等の事情を知らない一般人でもどうにも憎めないので。
それから、なぜかエフェドラと副官のミヒャエル大尉の写真がしれっと混じっていた。二人とも、今や見慣れた宇宙政府軍中央情報部の制服である。場所は野外でも秘密基地でもなく、宇宙船の通路っぽい。ミヒャエル大尉は秘密基地にも出入りしているので、まあ載っていても違和感はない。いつの間に撮ったのか首を傾げたくなるが、宇宙中にファンのいる二人だ。撮影隊にもファンがいたのだろう。
こうして『特虹戦隊ディヴァースⅤ 公式フォトブックvol.1』は、戦隊ヒーローファンや腐界の住人に観賞用・保存用・布教用、更には観賞用予備・保存用予備・布教用と一人で複数冊購入する者が続出し。熱狂的なエフェドラのファンは当然、普段はそこまで興味のない一般人も手に取ったりして、店頭に平積みされると即完売。
増刷を繰り返し、宇宙中でバカ売れした。




