野外撮影と戦いと
本日は晴天なり。
絶好の野外撮影日和となったロケ地は、セイカのいた世界では群馬県にあって、イギリスから移築した本物の城が目玉の、近年の特撮ではお馴染みのテーマパークである。
今日は特虹戦隊ディヴァースⅤの五人だけの撮影で、衣装は変身する前のいつもの服との指定があった。となるとセイカやヴァリーリアンは特虹戦隊の制服になってしまうため、二人には私服をとの要望が。なのでセイカは夏用のロリータファッション、ヴァリーリアンは開襟シャツにスラックスという軽装に。
あまり見たことのない二人の私服姿に、「それで〝悪ノ華〟のアジトを毎週襲撃しているんですかああああぁ!」と撮影隊は大興奮だ。セイカには「これでオチない殿方はいないですよおおおぉ!」と、ヴァリーリアンには「シンプルさがインテリ眼鏡キャラにピッタリ!」と、めちゃくちゃ鼻息荒く絶叫するので、二人はちょっとどころかだいぶ引いた。
イクシアは自作の『ゆめかわいい』服で、ロメロは変わらず牛柄が特徴のカウボーイスタイルだ。彼等は普段から私服でいるが、イクシアは新作、ロメロは夏ヴァージョンで、こちらもキラキラした瞳を向けられた。最先端のデザイナーと〝ハートブレイカー〟の洒落者として自負している二人は、その反応に満足そうだ。
そしてエフェドラは、中央情報部佐官の夏服姿だった。中央の施設、あるいは出張先でも、年間を通して季節を気にしなくてもよかった彼女のその装いは大大大大大変貴重らしく、たまたま目が合ったスタッフに失神者が出ている。
こんな様子でまともに撮影ができるのだろうか。
一抹の不安が過ったが、そこはプロの撮影隊。本番になると冷静な中に物凄い熱意を秘めて、ファンを唸らせる一枚を撮るべく各人に合ったポーズをビシバシ要求してくる。
なお、シャーリー司令官は被写体にはならないが、強烈な日差しを受けていつも以上に目に痛いショッキングピンク色の日傘(縁にフワフワの羽根付き)を差し、同色の羽根扇子をゆったり扇いで、撮影の様子を見守っていた。
「はーい! 一旦休憩に入りまーす!」
残暑厳しい日本の夏、全員がパラソルの下や日陰に設けられた休憩所で水分補給などを始める。
千年くらい先のこちらの世界での夏の暑さは、意外に爽やかだとセイカは感じる。日差しも元の世界より痛くはない。なぜならオゾン層が破壊されておらず、ちゃんと地球を覆っているからだ。
宇宙政府の環境保護に対する基準値は非常に厳しく、また科学の発展した今やミドリムシがクリーンエネルギーとしてあらゆる方面で用いられているゆえに、地球温暖化問題は遥か昔に解決しているという。
元の世界も千年先でもこんな感じで過ごせるように、こちらへ来てしまったセイカは祈るばかりである。
「キャーッ!!」
セイカに用意された飲み物が久々にトロピカルジュースで、なんだかなぁと呆れるも夏らしいし美味しいからまぁいいかとストローで飲んでいた時、悲鳴が響き渡った。
「ハッハッハ! 食え食え! 人間どもよ!」
「ぎゃーっ! に、苦いっ!!」
「醤油を! せめて醤油をかけてくれーッ!!」
なんの騒ぎだと見やれば、城の階段を降りてくる一団に〝紫の百合〟とザッソー兵が数人、そして茄子の形をした頭の怪人が、昼食の弁当を取りに行ったスタッフを捕まえて悪さをしていた。
「ナスですね」
「ああ、ナスだな」
ザッソー兵は捕まえたスタッフの口に無理矢理、焼き茄子の黒焦げになった皮を剥かずに突っ込んでいる。叫びから推測するに、味付けもされていないのだろう。
毎度毎度しょぼいが、地味に嫌な仕打ちだ。
「食べ物を粗末にするのはおやめなさいと、いつもこのコ達がいっているでしょ!」
「作ってくれた方と食材への冒涜ですよ」
シャーリー司令官はショッキングピンクの羽根扇子を閉じてビシッと〝悪ノ華〟一味を指し、駆け出した五人のうち鋭い瞳を向けたヴァリーリアンが眼鏡のブリッジを中指で押し上げて言った。
そんな中。
「お姉さん! 来てくれたんだね!」
イクシアが喜色満面でとんでもない声をかけた。
「違うわ、偶然よ。特虹戦隊のスケジュールを見たからではなくってよ」
階段の上の方にいる〝紫の百合〟は、ツンと顔を背けた。
今日も天に向かって尖っている額の白い角が、気位の高さを示しているかのようだ。
「おいおいイクシア、ユーが呼び寄せたのか?」
「なんだよロメロ、人聞きの悪い! お姉さんはスケジュールを見たって言ってるじゃん! ボクはそこにちょこっと『お姉さんと一緒に撮った写真が欲しいなあ』って書き込んでおいただけだよ!」
イクシアはザッソー兵に蹴りをくらわせ言い訳しているが、四人の仲間達には副音声で「だって! お姉さん単体の写真もツーショットの写真も欲しかったんだもん!」と聞こえた。
「司令官の許可は得ているよ?」
「マジか」
「まったく、抜け目ないですね」
ザッソー兵の腕を後ろに捻りながらロメロは呆れ、別のザッソー兵に足払いを掛けて倒したヴァリーリアンは溜め息をつく。
「ではシアは彼女と共に行ってください! 彼等は私達がくいとめますっ」
焦げた皮付きの焼き茄子が乗った皿がのされたザッソー兵の手から離れ、石造りの階段に落ちて割れる寸前、ささっと受け止めてセイカは言った。
助けられたスタッフは思わず拍手をしてしまう。
「ありがとうセイカ! じゃあ行こう、お姉さん!」
「嫌よ。何故わたくしがあなたと行動を共にしなければならないの」
この場に来ておいて、〝紫の百合〟はまだツンツンしている。
「…………セイカ〜!」
イクシアはセイカに泣きついた。
仕方がないのでセイカは両手に乗った皿をスタッフに渡して避難させ、五〜六段上にいる〝紫の百合〟を真っ直ぐ見上げて、
「紫のお姉さま、イクシアと写真を撮ってもらえませんか?」
と、空いた両手を胸の前で組み、首を傾げて『お願い』した。
これまでイクシアに強請られ何回もやらされてきたので、撮影隊がいようがいまいが今更である。
「…………ッ!」
あざとい。
しかし、毎回〝紫の百合〟はちょろかった。
「そ、そんなに言うなら撮られてあげてもよろしくってよ」
下の段からセイカにじっと見つめられた〝紫の百合〟は、ツンと横を向く。態度とは裏腹に、頬が少し赤い。
「やったー!! さっすがセイカ!」
山猫獣人のイクシアは階段上でもくるりと後方宙返りを決めて喜び、撮影隊もまさかの敵の大幹部で『神秘の美人』と人気の〝紫の百合〟が参加するとなって色めき立った。
イクシアはツンデレキャラと思われているが実は変なプライドを持たず、その場での最善手を選ぶ。この歳で〝諜課のワイルドキャット〟との異名がつくほど活躍している所以は、そんな強かさにあった。
「さ、行こうお姉さん!」
「ナスロイド、ここは任せたわ」
「は! 承りました、〝紫の百合〟様!」
〝紫の百合〟はイクシアに手を引かれ、ナスロイドに戦いを託して階段を降りて行く。
異性には厳しすぎる〝紫の百合〟が、手を取られても平気になるほどイクシアには慣れてきた。この半年余り邪険にされてもアタックし続けてきたイクシアの努力の賜物である。
確かに仲が前進している二人を見送るセイカは、ザッソー兵の攻撃を避けつつニコニコしていた。
「えげつないな」
「ええ。いつ見ても恐ろしいですね」
ザッソー兵の相手をしながら一蓮の出来事を目撃していたロメロとヴァリーリアンは、素直な感想を口にした。
仲間思いのリーダー様はイクシアにいつも頼まれているとはいえ、地形を活かし、あざといと分かっていてのポーズをとり、更に『お姉さま』呼びで畳みかけた。
セイカは未だ自覚していないが、稀少な純日本人の美少女にそのコンボで攻められたら、女の子大好きな〝紫の百合〟でなくともひとたまりもない。
「では我等はシア達の撮影が終わるまで、生かさず殺さず、此奴等の相手をしてやろう」
今まで静かにナスロイドや周囲のザッソー兵の相手をしていたエフェドラは、得物を長い鞭に変えてピシャリと石の地面を打った。
「ナッ、ナスッ」
「〜〜〜っ!!」
「ノ、ノルトヴェルガー様っ!」
その音でナスロイドは怖気付いた。だが、ザッソー兵達は悦びを露わにする。
もう一人、恐ろしい人物がいた。
なんで仲間の方が危険なのだろうと、時間稼ぎの戦いに切り替えたヴァリーリアンとロメロは疑問に思うのだった。




