大幹部〝黄の庭師〟
駆けつけた現場は、宣戦布告にもその他の戦いにもちょくちょく使われた、「派手な爆発ならここ!」と特撮ファンにはお馴染みの山中だった。
「漸く来たか! 特虹戦隊の戦士どもよ!」
山肌に反響して、プラントロイドの声が届いた。
「ねえ、あのプラントロイド……」
「ピーマンロイドの色違いですね」
高台に現れたのは、いつかの戦いに〝緑の指〟が引き連れていたピーマンロイドにそっくりなプラントロイドだった。頭部と手足の先についているピーマンが黄色になっただけである。
戦隊モノでは年一回は必ず、予算の関係でリサイクル怪人が登場する。だが〝悪ノ華〟の資金源は有閑令息たちだ。ポケットマネーでも有り余っているはず。
「単に、黄色い野菜を探すのが面倒だったんじゃない?」
セイカからリサイクル怪人の説明を聞いた四人のうちの一人、イクシアがつまらなさそうに言った。
ロメロも二本指でカウボーイハットの鍔を少し上げて同意する。
「だな。黄色と言われてすぐに思いつくのはあんまりないな」
「それだけ急いでいたということでしょうか……」
これまでの傾向からすると、大幹部の名前と怪人のプラント部分の色が同じである確率は非常に高い。エフェドラの報告とほぼ同時に現れたのを察するに、予算の問題ではなく急拵えとみた。
いよいよ〝黄の庭師〟の登場か。
「そうじゃよ。純日本人のレッド殿」
『!』
幼い声が響いた。
高台を見上げるセイカ達は警戒を強める。
そんな中、プラントロイドや蠢くザッソー兵の向こうからゆっくり現れたのは、眠たい目をした美少年だ。
ビビッドイエローの髪は巻き癖が強く、絵に描いた羊の体みたいにモコモコのふわふわで、半分瞼が閉じた大きな目の虹彩は滅多にいない白色。大きめの白衣を着ており、余った両袖を幽霊のように垂らして、裾は引き摺っている。
「初めましてだの、大茴香セイカ殿。わしがおぬしをこの世界に召喚した、秘密結社〝悪ノ華〟大幹部が一人、〝黄の庭師〟じゃ。我が命をかけて召喚した甲斐のある、見事な純日本人ぶりじゃの」
「ええと……ありがとうございます?」
どこをどう見たら純日本人と判るのか? あの眠そうな目には特別なセンサーでもついているコンタクトレンズを嵌めているのだろうか? とセイカは不思議に思ったが、一応お礼を言っておく。
「彼が、幻のソレイナム星人……!」
呆然と呟くヴァリーリアンは、眼鏡の奥の瞳をギラつかせている。
とうとう幻になっちゃったよ、と隣のセイカは彼の宇宙人マニアっぷりにそっと溜め息をついた。
〝悪ノ華〟のアジトの内外で活動している超優秀なエフェドラの部下達によって、当初は名前しか判っていなかった〝黄の庭師〟は徹底的に調べ尽くされ、半年経った今ではデータ上は丸裸状態だ。
その情報によると〝黄の庭師〟もエフェドラと同じで、母性はもう消滅している第一級絶滅危惧人種だという。人族の幼い子供の姿で一生を過ごし、けれども平均寿命は三百年。人種の気質的に研究肌で、何かに熱中すると長い寿命をそれに使い切るため、数は減る一方らしい。
崖の上の〝黄の庭師〟はもちろん現在、外見は十歳前後の美少年、実年齢は二百二十五歳だ。この場にいる誰よりも年上であり、お年寄り口調なのは中身がそれだから。
つまりは『合法ショタ』ネ、とはシャーリー司令官の言である。身も蓋もない。
「わしの初陣じゃ。楽しもうではないか」
「者共、かかれい!」
『サー!』
パプリカロイド(仮)の号令で、沢山のザッソー兵が崖下の左右から現れた。これは宣戦布告に次ぐ規模の戦闘になりそうである。追加キャラクターの登場回で確定か。
「皆さん、いきますよ!」
「任せて!」
「OK!」
『ディヴァースチェンジ!』
セイカ達は迫り来るザッソー兵を前に変身する。
そしてそのまま戦闘に傾れ込み、敵を倒しながら名乗りをあげる。
「異世界からの勇者! 『ディヴァースレッド』!」
「カワイイは正義! 『ディヴァースオレンジ』!」
「眼鏡は衣服です。『ディヴァースアクア』!」
「調教されたい奴は誰だ? 『ディヴァースシルヴァー』」
「デュラムから来た用心棒、『ディヴァースゴールド』!」
立ち回りつつ五人は集まり、セイカが掛け声を叫ぶ。
「希望を架ける虹の戦士!」
『特虹戦隊ディヴァースⅤ!』
五人がそれぞれ決めポーズをとると、背後で爆発が起こった。
今日もザッソー兵の演出班は抜かりない。
「ほお〜! 素晴らしいの!」
パプリカロイド(仮)の曲げた左腕に腰掛けて崖を下ってきた〝黄の庭師〟は、地面に降ろされると眠そうな瞳を輝かせて全力で拍手──長い袖が邪魔をして、ポフポフとしか鳴らない──をしている。
どう見ても戦隊ショーを楽しむ子供である。保護者はどこだ。
初登場だし病み上がりなので、てっきり他の大幹部がついてくるものだと踏んでいた。プラントロイドはリサイクルだし、ここ半年の戦闘を把握する時間はなかったと思うが。
「ほれ、パプリカロイドも頑張らんか」
「ハッ! 〝黄の庭師〟さま!」
〝黄の庭師〟に促され、パプリカロイドは彼に恭しく一礼して答えるとセイカ達に向き、
「いくぞ、ディヴァースⅤ! 食らえ! パプリカ弾!」
と、真っ直ぐ伸ばした腕についている黄色いパプリカを次々と撃ってきた。
「うわっ! 危なっ!?」
「アレに当たるとピーマン、いやパプリカの被り物になるのかっ?」
「ですねっ! 味方のザッソー兵がそうなってますよっ」
パプリカロイドの攻撃は、ピーマンロイドと変わらないようである。しかも敵味方関係なく、無差別攻撃だ。
「しょーもなっ!」
「絶対当たりたくないなっ」
セイカ達はザッソー兵を倒しながらパプリカ弾を避けまくる。
特にファッションに煩いディヴァースオレンジとオシャレなディヴァースゴールドは、あんな間抜けな姿になるのは屈辱だろう。
「なんじゃ、ちっとも当たらんではないか」
「申し訳ございません、〝黄の庭師〟さま! ええい、ヤツらちょこまかとっ!」
セイカもディヴァースアクアをサポートしつつ余裕で避け、ディヴァースシルヴァーは全てを鞭で破壊している。悦んでしばかれにいっているザッソー兵はいつものとおり、見なかったことにしよう。
「しょうがないのう、わしも支援してやろう。ほれ」
〝黄の庭師〟は何かを投げた。
『ソーッ!?』
ソレは地面に落ちると割れて、中身が辺りに飛び散った。すると飛沫を浴びたザッソー兵の全身タイツやブーツの表面が、爛れたではないか。
「ほれほれほれ」
「ソーッ!」
「ソーッ!? ソーッ!!」
小瓶をどんどん投げる〝黄の庭師〟のコントロールは、体の小ささと長い袖のせいもあって良いとは言えず、セイカ達よりザッソー兵に被害が続出している。
パプリカロイド同様、無差別攻撃だ。そして味方だけがダメージを受ける。
「アレって何!?」
「どうやら、毒性のポーションのようですね」
ディヴァースアクアが眼鏡のブリッジを押し上げ、冷静に分析する。
割れた小瓶をよく見れば、ファンタジーでお馴染みの細長い形をしている。
「ソレイナム星人は、毒を扱うのにも長けています」
宇宙人類学者が追加情報をくれた。
魔法陣といい毒ポーションといい、錬金術師か魔術師だ。出てくる世界を間違えている気がする。
「危ないアクア!」
「くっ」
「おお、うまく当たったようじゃな」
偶然いい軌道を描いて飛んできた毒ポーションが、ザッソー兵を倒していたディヴァースアクアの背中に直撃する寸前、セイカがDソードで切り捨てた。だが中身が飛び散り、少量でも二人にかかる。
しかし。
「……おや?」
〝黄の庭師〟は首を傾げた。ディヴァースアクアも毒液を諸に受けたディヴァースレッドも、強化スーツに変化は無い。
「ふふん。ボクらにダメージは入らないよ! なぜならっ」
「先を見通したレッドの進言で、強化スーツを更に強化させたからなっ!」
ザッソー兵を倒しつつ、なぜかディヴァースオレンジとディヴァースゴールドが威張って言った。
事実、追加キャラは強いイコール怪人が強くなる、がセオリーならば、こちらも強くなっておけばいいんじゃない? とばかりに特虹戦隊のあらゆる戦力は強化されている。
「おぬしらそこは、強い敵を前に一度は苦戦し、その後の鍛練や研究によって乗り越える、までがセオリーじゃないのかの? その方がドラマチックじゃろうて」
怪人を造る〝黄の庭師〟は、毎年繰り広げられる『地球を守る戦隊VS悪の組織』の戦いを把握している。
「オレ達にそんなドラマティックは要らないな」
「今年はレッドがセイカだから一味違うんだよ!」
「そうです。皮肉にも貴方が召喚したセイカさんにより、僕たちにこれまでのセオリーは通用しません」
ディヴァースアクアは眼鏡のブリッジを押し上げ、レンズをキラーンと光らせた。
特虹戦隊ディヴァースⅤはあくまでも陽動部隊だ。度胆を抜く展開で、有閑令息達の目を引きつけておく。そしてこの世界の戦隊の歴史をざっと学んでいるセイカは、元の世界の知識と併せて、敵の動きが読める。必要なピンチなら陥るが、回避してもよいなら回避しておこうという方針になっていた。
それからこれは裏事情だが、パワーアップした姿がゴツくなるのをシャーリー司令官が嫌がったので、強化してあっても見た目は変わっていない。
「さあ、大人しくやられて貰おうか」
「言っておきますが、Dブラスターも強化してありますよ」
気付けばザッソー兵は皆倒れ伏しており、ディヴァースⅤの五人はDブラスターをパプリカロイドに向けて構える。
「ここまでのようじゃな」
「えっ、〝黄の庭師〟さまっ!?」
〝黄の庭師〟はその場を離れ、残されたパプリカロイドはおろおろしている。
「成仏してください!」
『スーパーファイナルDブラスターショット!!』
充填が完了したDブラスターから強化された必殺の一撃が放たれた。




