追加キャラクターは
「ナニか悩んでるの? セイカちゃん」
またいつかと同じで六角テーブルに着いて、うーんと唸っているセイカを見て、シャーリー司令官は首を傾げた。頭頂の飾り羽がヒョコンと揺れる。
「半年近く経ったので、そろそろ追加キャラが出てくるんじゃないかと」
腕を組んでいるセイカは難しい顔をして言った。
「戦隊初期のパターンでいけば、新しい強敵が現れて、わたし達……というより必殺技をパワーアップさせたりする頃ですね」
叔母の影響で昭和に放送された作品に親しんでいたセイカは、平成中期の戦隊には詳しくない。この世界の今年の戦いが昭和的な方向性だったのも、喚ばれた一因かもしれなかった。
「ということは、〝黄の庭師〟が目覚めると……?」
「ですです」
隣のヴァリーリアンの質問に、セイカは二回頷いた。
このタイミングで現れるならば、さっぱり知らないキャラクターより謎多き〝黄の庭師〟が相応しい。
深刻な様子のセイカに対して、ヴァリーリアンの瞳は歓喜で妖しく輝いている。それも仕方ない。広大な宇宙でも魔法陣が使える種族は、確認されている中では一種族のみ。この半年間、〝悪ノ華〟のアジトに潜り込んでいるエフェドラの部下の働きによって、〝黄の庭師〟は新たな未知の種族ではなく、その最高ランクのレア宇宙人だと調べがついている。
「そうなのネー。最近じゃあ戦隊がわに追加戦士が早めに出てきたり、半年経つと厳つい装備をつけてパワーアップした姿になってたわネ」
それが当たり前になっていたが、今年はそうではないとセイカが法則を発見している。
「しかし、どういう対策をしたらいいんだ?」
「そもそも〝黄の庭師〟って、前線に出てくるタイプなの?」
フリースペースから二人が疑問の声を飛ばしてきた。
いつものごとくソファーで寛いでいるロメロは、顔に被せていたカウボーイハットを持ち上げて。作業台で自社ブランドのゆめかわいい服の新作デザインを考えていたイクシアは、タッチペンを器用に持ち手の上で回しながら。
「分からないわネ。でも目覚めたなら一度は姿を見せるんじゃないかしら?」
「そうですね。そう願います」
ヴァリーリアンが眼鏡のブリッジを押し上げる。瞳はより一層妖しく光った。
これがなければ水系の癒し要員なのに、宇宙人類学者の顔になると途端にマッド系になる。残念に思うセイカは少々引きつつ、胸に抱えていた不安を口にする。
「元の世界に送還される魔法陣とか作られていないといいんですが」
セイカが一番嫌なのは、中途半端にこの世界を去ることである。
「そこは危惧しなくてもいいでしょう。もう半年は寝込んでいるのに、これからセイカさんを異世界に送還する魔法陣を使ったら、いくら〝黄の庭師〟でも立ち直れなくなるのではないでしょうか」
「そうだよ! 第一、せっかく喚んだ理想の日本人の上をいくセイカを戻すなんて有り得ないよ!」
「だな。まったく無意味だ」
事実、これもエフェドラの部下情報で、有閑令息達はセイカの存在を大いに気に入っているという。
「もしも〝黄の庭師〟が暴走してセイカちゃんを送還しようとしても、全力で阻止するわヨ!」
「全員で、ですね」
「当然!」
「セイカは大事な仲間であり、家族みたいなもんだからな」
「皆さん……ありがとうございます」
この場にいないエフェドラもそう言うだろうと、シャーリー司令官をはじめとする四人は強く肯定する。相手がゆるい敵だとしても、半年近く寝食を共にして戦ってきたのだ。同志以上に結束している。
こちらの世界に寄る辺のない身のセイカとしては、みんなのその想い……こんなに嬉しいことはない。
「じゃあさ、じゃあさ! そうならないためにも〝黄の庭師〟もこっち側に勧誘しちゃう?」
イクシアが作業台に手をついてぴょんぴょん跳ね、突飛な提案をしてきた。
「ありだな、ソレ」
勢いよく上半身を起こしたロメロが指を鳴らし、即座に賛成する。
流石は敵のアジトに遊びに行こうと言い出した男、迷いがない。
「誰が担当するのヨ。手の空いてる戦士はヴァリーしかいないわヨ?」
呆れて指摘するのはシャーリー司令官だ。
ただでさえ前代未聞な敵のアジト訪問を毎週しているのに、セイカが心配する強敵になるだろう大幹部を懐柔するメンバーに加えるなんてどうかしている、と。
「いいんじゃない? ヴァリーで。だってあの巨大戦艦、危ない場所は〝黄の庭師〟のラボくらいだし」
陸地が苦手なヴァリーリアンでも問題なくいられるのは調査済みだ。エフェドラの部下だけでなく〝紫の百合〟を捜すという名目で、イクシアもそこは確認している。
「稀少な宇宙人もいないしな」
素顔のザッソー兵はもちろんクルーにも、宇宙人類学者が我を忘れそうな珍しい種族がいないことも判っている。
「バカね。その〝黄の庭師〟とラボが問題なんじゃない」
そう。その二点が非常に高リスクである。
だが、ヴァリーリアンはかつてなく奮い立っていた。
「司令官、三人がアジトにいる間、〝黄の庭師〟を抑えておけるのは僕だけです」
今まで知識で貢献していても、戦いの場で足を引っ張っていた場面のほうが上回る。漸く活躍のチャンスが巡ってきた。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず。謎に包まれた〝黄の庭師〟の生態を、見事に暴いてみせましょう」
ヴァリーリアンは眼鏡のブリッジに指を添え、いつになく鋭い視線で宣言した。
「ちょっと、なんでこんなにやる気なのヨッ」
「さあ? やっぱ宇宙人類学者の血が騒ぐんじゃない?」
シャーリー司令官とイクシアが内緒話をしているが、距離が距離なので丸聞こえだ。
「まあ、実際に〝黄の庭師〟を見てから決めても遅くはないんじゃないか?」
ソファーに乗せていた足を下ろし、片腕を腿に乗せてカウボーイハットを被ったロメロが、折衷案を出す。
「そうネ! ソレがいいワ!」
「私もロメロさんの案に賛成です」
「んー、生理的に受けつけないタイプってあるからねー」
シャーリー司令官は手を合わせて喜色を浮かべ、セイカも冷静に頷き、言い出したイクシアもダメだった場合を考えてみる。
「じゃあ少しでも好意を感じたらGO! ってことにする?」
それならボクらと同じだし、とイクシアは続けた。
「好意、ですか……」
ヴァリーリアンがトーンダウンした。
実際、まずは宇宙人類学者としての目を人々に向けてしまう彼は、恋愛ごとには疎かった。
「そうネ。最高の結果で敵を改心させようとするんだから、それなりの熱量は必要ヨ。そしてその熱源になるのは好意が一番ネ!」
でないとセイカ・イクシア・ロメロの三人みたいに長期戦も辞さない覚悟は持てないと、恋多かろうシャーリー司令官は語る。そして、
「その前に、〝黄の庭師〟が猟奇的──あまりにも危険人物だったら、三人にもアジト行きは禁止するわヨ」
との爆弾を投下した。
「ええ! それはナイよ!」
「マジか! オレ達の仲を裂くのか!?」
「なに自分達は両想いだって主張してんの!? まだ〝青の薔薇〟落ちてないじゃん! ねえセイカ!?」
「え? えー……、どうでしょう?」
急に話を振られ、〝白の廃園〟に会える機会が減るのかと地味に心の中で落ち込んでいたセイカは、ぼんやりとロメロと〝青の薔薇〟の関係を考えてみる。
セイカもロメロもほぼアジトのラウンジにいるから、進捗状況は分かる。ツンデレの〝青の薔薇〟は遠目に見てもかなりロメロに惹かれてきてはいるが…………ていうか、口論に自分を巻き込まないでほしい。
そんなふうに場がカオスになりかけた時。
「司令官」
秘密基地にいない日が多いエフェドラが、騒がしい司令室に現れた。
相変わらず惚れ惚れするほどカッコイイ、眼帯にコートを羽織った隙のない軍服姿だ。ドSオーラがビシバシ伝わってくる。
司令室に響く声は決して大きくはなかったが、いつもと違うものを孕んでいると誰もが気付いた。彼女に視線が集まる。
「〝黄の庭師〟が目覚めた」
はたしてエフェドラからの報告は、全員の予想していたものだった。
間髪を容れず、敵襲来の警報が鳴った。




