秘密基地へようこそ!
『秘密基地』と聞いて、行かない戦隊ファンがいるだろうか? いや、いない!
たとえその言葉が全く似合わない〝男装の麗人〟の口から出たのだとしても!
そこに、ショッキングピンクがイメージカラーと思われる、オネエさんな宇宙人がいても!
「ようこそ! 特虹戦隊の秘密基地へ!」
そのオネエさんは、頭頂から一本だけ後ろに伸びる孔雀のオスの飾り羽のような髪の毛(?)をひょこひょこ揺らし、クネクネした歩みで両腕をひろげ、迫り来る。
メイクがバッチリの垂れがちな目、更に瞳の下から目尻にかけて『ガールズな戦士』みたいに独特の模様を描き、ルージュもラメ入りのピンク色。襟まわりから前身頃の裾までと袖口に、白い羽が所々はみ出ているファーが連なる、ショッキングピンクのコート。同色のハイヒールを履き、ジュエリーもジャラジャラつけている。
歓迎してくれているのは判るが、長身で奇抜なため迫力が半端ない。どう反応していいのやら。
「アラアラ、そんなに緊張しないデ!」
「いやムリでしょ! こんな派手でテンション高い『司令官』が出てくるとか、ナイから!」
「アラ〜、それを言えばアナタ達も相当ヨ〜!」
「司令官、僕は平均的なスペクス星人です」
ゆめかわ猫男子が鋭いツッコミを入れ、青白い人が冷静に眼鏡のブリッジを中指で押し上げる。
「なに言ってんのヨ、このコったら。アナタは中身が全然平均的じゃないデショ!」
三人で和気藹々と会話しているので、基地内の様子をこっそり窺うと──おお! あれは憧れの『六角形テーブル』では!!
戦隊シリーズで基地といえばグレーのセットが多かったけれど、ここは白を基調とした明るい部屋で。中央にある六角形のモニター&キーボード付きテーブルも白色、椅子はイメージカラー別なのかカラフルだ。そしてテーブルの一辺を放射状に壁まで拡げた範囲が各自のスペースらしく、持ち込みだろう私物が置かれている。
実に統一性のない、個性的で雑然とした様相を呈しているが、不思議と居心地がいい。
「まあまあみんな、立ち話もなんだから座ったらどうだ?」
カウボーイコーデの人が、いつの間にか飲み物を乗せたトレーを持った隊員を引き連れてきて言った。
「ソレもそうネ! さ、アナタ達、座ってちょうだい!」
六角テーブルの手前、今来た出入り口方面にオネエさんが立ち、指示を出す。
時計回りに、彼(?)の左隣の面、銀色の椅子に男装の麗人が長い脚を組んで座り。次の面、オレンジ色の椅子にはゆめかわ猫男子が。一つ飛ばして、水色の椅子に眼鏡の青白い人が腰掛ける。その隣、一周回ってオネエさんの右手の面、金色の椅子にカウボーイコーデの人が脚をテーブルに乗せて行儀悪く座った。
「さぁ、アナタはあっちヨ!」
と、セイカに示されたのはオネエさんの真正面、ゆめかわ猫男子と眼鏡の青白い人の間、壁まで何も置かれていないスペースの元にある、赤色の椅子だった。
そう、赤色だ。
「……」
いやいや。たまたま空いていたのがそこだけだったに違いない。深い意味はない。たぶん。
飲み物を配り終えた隊員が敬礼して去っていく。
(あ。手帳と鞄だ)
ジュースのグラスの横に生徒手帳が、テーブルの下には学生鞄が立てかけられていた。
軍の施設の入り口で荷物──学生鞄しか持っていない(スマホは転んで壊しまくったので持たせてもらえない)──と生徒手帳を預けたが、もう戻ってきたとは。いやその前に、セイカの座る場所は既に決まっていたということだ。
おずおずと、セイカは赤い椅子に座った。