レッドさんを召喚!?
困ったことになったっす。
オレらの雇い主の坊ちゃん方が、地球を守る戦隊のレッド(即ちリーダー)は「純血の日本人にしろ」って、宇宙政府に要求しやがったんす。
宇宙時代になって幾星霜。地球での混血は珍しいものではなく、純血の『地球人』を見つけるのもかなり難しいっす。それをもっと限定して『日本人』となると……絶望的っすよ。
なに無茶な条件を突きつけてるっすかね? 何の苦労もしてない金持ちのボンボンだから常識がないんすかね?
宇宙政府は犯罪者の戯言なんか聞き入れる必要ないんすが、どうも〝青の薔薇〟さんと〝紫の百合〟さんの現状を把握してて、バカなことを平気で仕出かしかねない坊ちゃん方の注意を引きつけておこうと『純血の日本人』を探してるんすよ。
けど無理なものは無理。捜索は難航してるっす。
そこで動いたのが、〝黄の庭師〟さんっす。
「いないなら、異世界だか平行世界だかから召喚してしまえって」
「鳴かせてみせようホトトギス派か?」
「魔法陣が作れるとか、あの人ホント何者!?」
うむ、同僚の動揺ももっともっす。
悪の組織が正義の戦隊のリーダーを異世界召喚する──意味不明っす。
でもその方針でいくみたいで、〝黄の庭師〟さんは魔法陣の製作に取りかかってるっすよ。
オレたちは今、その召喚とやらに条件が合う場所の選定を任された〝青の薔薇〟さんに従って、日本の首都のあちこちを巡ってるっす。幼い頃から毎週日曜日に観ていた戦隊ヒーローと悪の組織の戦いになった場所ばかりで、そこに実際に立てて、同僚たちは興奮しっぱなしっすよ。オレもちょっと嬉しいっす。
あ、〝白の廃園〟さんも、もちろん一緒っすよ。
ところで、オレたち戦闘員の名は『ザッソー兵』だそうっす。
秘密結社〝悪ノ華〟の命名は、園芸をモチーフにしてるっす。
倒されても倒されても涌いてくる下っ端が、雑草。ま、無難なネーミングっすね。
「またオマエらっ!」
「各地で何をしているんですか!?」
おっと、新戦隊のメンバー四人が駆けつけてきたっすよ。毎度ご苦労様っす。
「ええい、邪魔をするなうるさい蠅ども! やれ! ザッソー兵!」
『サー!!』
〝青の薔薇〟さんが命令し、オレたちは変身前のヒーロー四人に向かってくっす。
もう何回目かの衝突なんで、慣れてきたっすよ。同僚たちは喜々としてやられにいくっす。
オレらザッソー兵の格好は……最初は、深緑色の全身タイツに引いたっす。雑草を表してるのか頭には緑色でツンツンに立った鬘を、グローブとブーツも深緑色、組織のエンブレムが掘られたバックルが目立つベルトは銀色で、顔には変な笑顔のお面。ちびっ子が間近にいたら、確実にギャン泣きされる姿っす。
返事のポーズは、初めてトレーニングルームに案内された時に見た、両腕を真っ直ぐ上に伸ばしたもので。指先までビシッと伸ばせと厳しく指導されたっす。大勢でやると、草の群生に見えなくもないっすかね……?
「ソーッッ」
同僚の一人が、オレンジさんの後方宙返り蹴りに吹っ飛ばされてきたっす。
伸びたフリして転がったままでいるっすが、悦んでるのバレバレっすよ。コイツ、オレンジさん狙いっすか。
『ソーッ!』
あっちでもこっちでも、みんなやられたいヒーローさんに向かってって倒されてるっす。
変態がいっぱいっす。
しゃべれる言葉が返事の「サー!」か倒された時の「ソーッ」ってだけなのも、苦しいっすよね。
「計測はできたか」
「はい。もう十分っす」
〝青の薔薇〟さんに問われたんで、オレは答えたっす。
そう、オレは緑の旦那に見込まれて、〝黄の庭師〟さんが召喚のために欲してるデータを各地で計測する役を任されてるっす。
「では退くぞ。
引き上げよ! ザッソー兵ども!」
『サー!!』
転がっていた同僚たちがすぐさま起き上がり、返事のポーズをキメたっす。元気っすね。
「ちょ、待てよ!」
「何を企んでいるんですかっ!」
オレンジさんとアクアさんが叫んでますが、迎えに飛んできた小型宇宙船に全員サッと乗り込み、現場を後にするっす。
「ここが最後だったはずだな」
「はい、指定された場所は全て調べ終えました」
〝青の薔薇〟さんに答えたとおり、データは揃ったっす。あとは〝黄の庭師〟さんがどうするかっすね。
「魔法陣が完成した!?」
「マジかよ……マジで〝黄の庭師〟なんなんだ……」
その日、ついにレッドさん召喚の出動命令が下ったっす。同僚の大半は〝黄の庭師〟さんの召喚術は眉唾物だと思ってたらしく、驚愕してたっす。
「お前の計測が正確だったと〝黄の庭師〟が誉めていたぞ」
「はあ……」
緑の旦那に労われたっすが、各地でやらされてた計測の内容がさっぱり分からず言われたままに作業してたんで、間抜けな返事になったっす。
そしてオレたちは唖然としてる暇もなく、レッドさんを別世界から召喚するために出動したっすよ。宇宙政府軍に『レッド候補の捜索が難航しているようだな。我々〝悪ノ華〟が手を貸してやろうではないか』って声明を出しちゃったそうっすし。現行の戦隊は今週が最終回なんで、急がないとまずいっす。
特撮番組なら四ヶ月前から撮ってないといけないらしいっすが、オレたちのは現実っすから、ニュース番組的にちょちょっと編集すればオーケーなんすけどね。
で、〝黄の庭師〟さんが召喚の場に選んだのは、戦隊ヒーローファンの聖地の一つ、流れ落ちる水の壁が特徴になってる新宿の公園っす。
ちなみに〝黄の庭師〟さん本人は来てないっすよ。召喚術は行った人物に途轍もない負担がかかるそうで、彼は巨大戦艦のどこかにある生命維持装置で寝てるっす。場所はトップシークレットでして。オレたち下っ端はもとより、大幹部でも脅されてる〝紫の百合〟さんや〝青の薔薇〟さんとお目付け役の白の旦那には明かされてはおらず、緑の旦那だけが知ってるっす。
さて、召喚術っすが。オレたち実行部隊──〝青の薔薇〟さんと選抜されたザッソー兵たちが任されたんすが、誰でも魔法陣が描かれた布を指定の場所に寸分違わず設置することで、術が発動するようになってるっす。
そんなモノ作るなんてどんだけスゴイんすか、〝黄の庭師〟さんって。
「これでいいのか……?」
布を地面にひろげた〝青の薔薇〟さんは、ピンときてないようで不安げに魔法陣を見詰めるっす。
その時。
「おおっ!?」
複雑に描かれた魔法陣が光を放ち、浮かび上がり始めたっす。
「魔法陣が起動した!?」
「成功か!?」
オレたちザッソー兵もざわめくっす。
発光する魔法陣は最終的には直径五メートル程の大きさになり、高さ十メートルくらいの空中で留まってるっす。
誰もが呆然とソレを見上げてたっすよ。
短かったのか長かったのか。
どれくらいの間そうしてたのか判らないっすが、その人は確かに魔法陣の真ん中から現れたっす。
「ええ──ッ!?」
頭から落ちてきた黒髪のその人は、地上に複数人いると見て取ると、
「すみません危ないですどいてくださーいっ!!」
と叫んでから素早く空中で回転して勢いを殺し、着地しようとしたっす。が、そこにいた白の旦那に受け止められたっすよ。
「大丈夫ですか? お嬢さん」
白の旦那は姫抱っこしてる彼女にそう声をかけたっす。
え────『お嬢さん』!?
レッドに一番ふさわしい日本人を召喚するって言ってたっすが────どう見てもどこかの制服を着た女の子っす!!
その日、かつてない驚きと共に、オレたちには異世界から女の子を召喚した誘拐罪も加わったっす。
第0輪 的な話でした。




