往き先は、伝説の辺境惑星『地球』!
それから巨大な宇宙戦艦は、オレらが乗った後も何個かの惑星に寄って、同僚になるヤツらを拾っていったっす。
目的地に着くまでオレらはひたすらアクションの練習っすよ。
楽して儲けるはずが、なにげにハード!
「そーいやこの艦、ドコに向かってんだ?」
ある日、ラウンジで寛いでる時ふと疑問を口にしたら、フロア全体が凍りついたっす。
あれ?
てっきり「今更なに言ってんだよ〜」「ボケるのもいい加減にしろ〜」って感じの和やかなツッコミが返ってくると思ってたのに、なにこの空気?
「まさか……」
「お前……俺たちの仕事、何だと思ってるんだ?」
同僚が悲愴感たっぷりに質問してくる。
「え? 悪の組織の下っ端役としてヒーローショーの惑星ツアーとかをやるんじゃないの?」
オレはトレーニング後の一杯(炭酸ジュース)を飲みながら軽く言ったっす。
したら、ラウンジの空気が「あ゛〜」ってなったっす。頭を抱えてるヤツもいるっすよ。
どしたの?
「これだけ人数がいりゃ、中には誤解したやつがいてもおかしくないか」
「でも宇宙中大騒ぎだったんだぞ? なんで知らないんだ」
「おまえ、SNSとか見ねーの?」
オレがいるコの字型のソファーの内外から声がかけられるっす。
「フツーに見るけど」
「なのに知らんのか」
「思い込みが激しいのか?」
なんかよく分かんねーけど、失礼なこと言われたっす。
あ、でも学生時代に先生に「事実と異なる方向に思い込みがちなので気をつけるように」って注意書きされてたっすね。
「いいか、よく聞け」
隣にいる同僚が、硬い顔をしてオレの両肩に手を置いたっす。
なんすか?
「俺たちの雇い主は、全宇宙でも指折りの巨額の資産を持つ家に生まれ、金と暇を持て余している令息の方々だ」
ほーう。あの面接で首から下だけ映ってた、画面越しでも伝わってくる高級な室内で、あちらこちらに向いた高級イスに掛け、高級スーツを着てた若そうな人たちが、金持ちのボンボンだったんすかね。
「そのご令息方がこの度、地球を我が物にしようと計画された」
「……は?」
「ゆえに地球を侵略するための秘密結社〝悪ノ華〟を結成され、俺たちは最前線で戦う戦闘員として雇われたのだ。もちろん、敵は地球を守るヒーロー戦隊だ」
「…………はぁぁあああああ!?」
いやいやなんだソレ! マジっすかっ!?
「いいか、これは現実だ。フィクションでもヒーローショーでもない」
「おれたちはもう、正真正銘の悪役──悪の組織の一員なんだよ」
同僚は俺の肩から手を離し、その向こうにいたヤツが神妙な雰囲気で告げたっす。
オレは問うっすよ。
「つまりなんだ? 毎週日曜日に放送されてる、あのヒーロー戦隊の敵になってしまったと!?」
「ああ。気の毒だが、その通りだ」
「我らの敵になる戦隊も、新たに組織されている」
「ウソだろ……」
絶句っす。いつの間にか自分が犯罪組織の仲間入りしてたなんて……!
力が抜けて、オレはソファーに凭れかかったっす。
「勤め先の確認を怠っては駄目だ」
「もっとちゃんと情報収集しておくんだったな」
同僚が教師みたいなこと言ってくるっすよ。
「おれは内容をろくに知らずに採用されたってのが、信じられないが。この求人の採用倍率、天文学的数字だったろ?」
「そうそう。ヒーローに倒される悪役をやりたい奴はごまんといる」
そうなの!?
「それに加え、あのノルトヴェルガー少佐も新戦隊のメンバーだって情報が流れたからな」
「全宇宙が震撼したよな」
みんな腕組みをして、うんうん頷いてるっす。
え……誰っすか、その長い名前の、少佐?
質問したいっすが、オレは空気は読めるっすよ。ここで「その人、誰?」とか言ったら最後、絶対とんでもない説教をくらうっす。
後でどうにかして調べておかねば……! と、当時まだノルトヴェルガー少佐を知らなかったオレは心中で焦ってたっす。
「人種・年齢・身長制限があっても、宇宙全体となるとその数は凄いものになる」
「最後は選ぶのも面倒になって、顔で決めたって聞いたぜ」
「美形縛りな」
「それでも顔のいいやつなんていっぱいいるだろ」
「ひとによって美醜の感じ方も違うからな」
「俺たち運がよかったよな」
あー、それでこの艦の乗組員以外、つまり同僚の下っ端戦闘員はイケメンだらけなんすね。
「ったく、顔がイイと中身もカッコイイと思われるのは、もう沢山だよ」
「それな」
「偏見だよな」
「美形がドMで何が悪いっ!」
「科学的にも人類の過半数はMなんだぞ!」
そうだ! そうだ! とラウンジ中に声があがるっす。
人気バンドのライヴ会場並みに、スッゴイ熱量っすよ。
みんな美形なのがコンプレックスなんすね。でもその気持ち、オレも解るっす。自分で言うのもなんですが、中身は平凡なのに、美形なんすよ、オレ。で、顔に釣られて近づいてきた人々が、性格を把握した途端、さっさと去っていくっす。
勝手になにかを期待して寄ってきて、勝手に幻滅し、勝手に離れてく。
これの繰り返しっすからね。人生、厭にもなるってもんす。
「だがおれの夢はもうすぐ叶う! おれはあの地球を守る戦隊のヒーロー様に足蹴にされたいんだっ!」
「俺も踏まれたい!」
「少佐にしばかれたい!」
「道端の雑草の如く扱われたいっ!」
みんな口々に願望を語るっす。それで判ったのは、全員がドMという生態。
なんてことだ……オレはとんでもない犯罪集団の一員になっちゃったっす。
「おい、お前。なんだか自分だけはマトモだって思ってるみたいだがな」
ラウンジの熱気に唖然としてたら、隣の同僚が片手をオレの肩にポンと置いたっす。
「お前もドMだからな」
「は?」
「二次選考で性格診断したろ?」
「それでドMだったから受かったんだぞ」
周りの同僚が、可哀想なものを見る目を向けてくるっす。
え? え? どゆこと?
「安心しろ。今回の悪の組織──秘密結社〝悪ノ華〟は、有閑令息が『お遊び』で作ったものだ。いろいろ緩い」
「訓練の主体は受け身だろ? 本気で戦えとか倒せとは言われていないからな」
「俺たち下っ端は立派なドM……いや、『やられ役』として、ヒーロー様の愛の鞭を堪能していいんだ」
同僚たちは誤解してたオレに実態を教えてくれるっすが、オレ、まだ自分がドMって納得してないっすよ?
「けどな、あくまでも『ヒーロー様が格好良く雑魚を倒した』風に見せなきゃならん。番組観ててやられた雑魚が悦んでたら、視聴者は引く。ちびっ子のトラウマにもなりかねん」
「倒されて嬉しいがその感情を隠し、ヒーロー様を映えさせる。なかなかに難しい役どころだぞ」
「それができると見込まれて、厳しい倍率を突破し、合格をもぎ取ったんだ。やらなきゃ落ちたやつらに申し訳ない」
「…………」
憧れのヒーローにやられるためなら犯罪者にもなる。
誇り高き『下っ端の矜持』を持って。
新しい職場の同僚は、そーゆー危険なドMの集まりだったっす。
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