その後の〝緑の指〟は
変身した四人はザッソー兵を全員片付けると、ピーマンロイドを『ファイナルDブラスターショット』で倒した。するとお約束で、被害に遭った人々のピーマン型被り物も消えた。
ゆっくりしてはいられない。プラントロイドはすぐに巨大化する。〝緑の指〟を弓形に吊るしあげて短鞭を振るっているエフェドラに、現実に戻ってきてもらう必要があった。
「少佐! 変身してください! バトルフィールドを張りますよ!」
「…………解った。
命拾いしたな、ユーリィ」
「くっ…………!」
ああああ〝緑の指〟のことを誰も覚えてない、似合わないファーストネームで呼ぶとか、まだそこで気になるやりとりしてる!
セイカはいろいろとハラハラしながらエフェドラの変身を待って、バトルフィールドを展開した。そしてディヴァースロボに全員で搭乗、巨大ピーマンロイドのピーマン弾を避けつつ必殺技『スーパーレインボービーム』で決着をつける。
実はこの時、セイカはピーマン弾をくらって、ピーマンの被り物をしたディヴァースロボを見たいとちょこっと思ったが、操作に異常をきたすといけないのでぐっと我慢した。
ちなみに巨大ピーマンロイドの最期のセリフは「パプリカばっかり好んでないで緑のピーマンも食べてくれよ────ッ!!」だった。
その後、気になっているであろうエフェドラのためにモールの広場に戻ったら、複雑に縛られ吊るされていた〝緑の指〟はザッソー兵達が救出したのだろう、姿はもうなかった。特虹戦隊の隊員は沢山いるから確認は彼らに任せておけばよいのだが、セイカだったら自分の目でしたいので。
それを見てもエフェドラはいつもと変わらず泰然としていたし、家族連れのショッピングモールにあってはいけない状態の男が無事にいなくなっていたしで、セイカ達は二重の意味でホッとした。
「いや〜、緑の旦那のこと、見直したっすよ」
「大幹部の地位は伊達じゃないっすね〜」
〝悪ノ華〟のアジトにて。
今日のラウンジでは、セイカと〝白の廃園〟のいる地球に面したコの字になったソファーと、その周辺のコの字ソファーに素顔のザッソー兵達(全員イケメン)が集まって、先日の〝緑の指〟の暴挙を話し合っていた。
「ノルトヴェルガー少佐を『お嬢ちゃん』って、有り得ないっす」
「俺は凍りついたね」
「そもそも幻聴だったんじゃ?」
「確かに。『全宇宙の極悪人どもをも恐れさす、拷問のスペシャリスト』だからなー」
「鬼畜なドS眼帯軍人を全力で挑発とか、ドMのオレらでも流石にできないわー」
セイカはストローでジュースを飲みながら、素顔のザッソー兵達の話を聞く。
なにそのキャッチコピー。犯罪者の間では常識なのかな。それとも軍公認? 懸命にヴァリーリアンは誤魔化していたのに、はっきり『拷問』って言っちゃってるし。
「あの少佐を子供扱いなうえ、因縁ありまくりな発言っしょ」
「父親は尊敬してたけどその子供のお前はどうだ、とかいう感じだっけ?」
「腹立つわー。男脳の傾向が強いヤツは腹立つわーソレ」
脳にも性別がある。それも複雑で、部分部分で性別が異なったりする。
この世界は当然進んだ考え方をしていて、身体の性別だけでなく、脳の性別も重視される。普通に。
セイカも軍に保護された初日、脳の性別を調べるためのテストを受けさせられた。
「つまり、男脳の人ほど父親を越えたがるってことでしょうか」
「そうそう。なのに並ぶどころかそれ以下だ、とか言われたら……」
「う〜〜〜こわ!」
「ソレをあの少佐に向かって言って、おまけに嗤って見下したんだぞ!?」
「自殺行為だ、アリエナイ!」
セイカが質問すると、素顔のザッソー兵達は親切に答えてくれた。最後の人が叫べば、あちらこちらで自分自身を抱きしめて震える人が続出した。
ちょっと恍惚の表情をしているのは、彼らがドMだからだろう。気にしたら負けだ。
「あのヒト、変わった髪型で個性を出してるだけの、ただの地味キャラじゃなかったんだな」
「他の二人が突っ走るタイプだろ? おれは上との調整役だと思ってた。あ、白の旦那、すみません」
「いいのですよ。我が君は若さゆえに先走るところがおありですからね」
〝白の廃園〟は今日もセイカの斜め右前に座り、紅茶を嗜んでいる。
彼の主の〝青の薔薇〟はといえば、少し離れたコの字ソファーで同じく今日もロメロと楽しく話しているようだ。時々立ち上がって喚いたり、ロメロを指差して叫んだり……忙しくしているが、〝ハートブレイカー〟の掌の上で転がされているのがありありと分かる。
「俺ら、素顔じゃなくても少佐の挑発なんてできないからなー」
「素面で少佐と対峙するとか、無理だわー」
「恥ずかしすぎる!」
「解ります。素顔は恥ずかしいですよね」
素顔のザッソー兵達の言葉に、セイカもうんうん頷いた。
「お、レッドさん、解ります?」
「もちろんです。わたしはスーツアクターになりたかったので」
こちらの世界で戦隊シリーズはフィクションではなく現実として存在しているが、特撮作品は沢山あったので『スーツアクター』という職業もある。
それについてわいわい話していたら、〝白の廃園〟は音もなくティーカップをソーサーに置き、
「ザッソー兵の皆さんと仲がいいですね、セイカさん」
と、口を挟んできた。
セイカは「え?」と思って彼を見る。
「少し妬けますね」
えええええ!
続けて苦笑気味に言われ、セイカは胸中で絶叫した。
「か、揶揄うのはよくないです」
セイカはコップの中身を氷を避けてストロー飲む。
本日のジュースはジンジャーエールである。
「揶揄ってなど……。〝緑の指〟の話題ばかりですし、そんなに彼が気になるのですか?」
大の大人が首を傾げ、真に不思議そうに尋ねてきた。
その様は「あ、ちょっと可愛い」と、セイカのハートを撃ち抜いた。
「いえいえ、今までの聞いてて解りますよね!? 大体、〝緑の指〟は少佐のものですよ!」
先日の戦いの様子をライヴ映像で見ていたと言っていたのに、興味はないのだろうか。もしくは〝緑の指〟の驚愕の言動について〝悪ノ華〟ではどうとらえているのか、探っているのがバレたのか?
まさか構ってもらえなくて面白くない、なんてことはない……よね?
だとしたら、めちゃくちゃ可愛いんですけど! すっごく年上の! 美丈夫が!
セイカが〝白の廃園〟に萌え萌えしていたそこに、
「誰がアレのものだ! お前らまた来ているのか! 早く帰れ!」
と、反論の声が降ってきた。
「やや。緑の旦那」
「タイムリーっすね」
「残念ですが、少佐は来ていませんよ」
申し訳なく思って、セイカは殊勝に事実を告げる。
「ばっ…、べべべ別にっ、残念なんかじゃないっ!」
〝緑の指〟は吃りまくってそう言うと、さっさとラウンジから出て行ってしまった。
「ありゃ期待してたっすね」
「けどノルトヴェルガー少佐が来たら、最後だって気がしねえ?」
「だな。終わりだ終わり」
素顔のザッソー兵達は口々に噂する。
「なのにあれだけのことをして、今日いるか見に来るとか」
「度胸ありすぎ」
「オレなら怖くて顔も出せないね」
という訳で、〝緑の指〟は地味キャラのイメージを払拭し、悪の大幹部らしく一段階上のドMと宇宙中で目されることとなった。
本人は「MでもドMでもない!」と主張していたと〝悪ノ華〟に潜入している少佐の部下から報告があったが、敵も味方も、誰も取り合わなかった。




