『お嬢ちゃん』って誰のこと!?
「来たのは!?」
「誰っ!?」
全員が六角テーブルの天板から浮かぶ映像を注視する。
『ハーハッハッハ! 慄け慄け! 地球人ども!』
「ピーマンだな」
「ピーマンですね。しかも三体目にしてビルドアップしてきましたか」
今のところ映っているのは頭部と手足の先がピーマンに、ボディと腕・脚は金属製っぽい、古風なゆるキャラから脱却し人型になって動きやすくなった、悪い顔のプラントロイドである。
「ちょっと! 今週の怪人とかザッソー兵とかはどうでもいいよ! 率いているのが誰か映してよ!」
いや、どうでもよくはない。ヒーローのセリフとしてはダメダメだ。
しかし週末の夕食代が賭かっているイクシアは、手を握って地団駄踏んでいる。
『ピーマンロイド、やれ!』
『おう! 任せとけ!』
やっと全体像が分かるカメラに切り替わり、指揮棒で前方を指して命令した人物が映った。
「やったワ! 〝緑の指〟よ!」
シャーリー司令官は両手を合わせて喜んだ。
「うそ〜っ!!!」
「まさか、出てくるとは。まあプラントロイドが緑色の野菜の時点で、そうではないかと思ってはいましたがね」
「仕方ない。潔く夕飯代は出す」
イクシアは上半身から作業台に倒れ込んで脱力し、ヴァリーリアンは予想が外れた割に冷静に分析、ロメロはカウボーイハットを被って起き上がった。
「…………」
腕を組んだ少佐はいつの間にか立っており、浮かぶ映像のなか、おそらく〝緑の指〟をじっと見ている。
不穏なオーラが出ている気がするが……本当に、二人の間に何があったのだろう。
「シア、ダレてる場合じゃないわヨ!」
今回〝悪ノ華〟が現れたのは、一般人が多くいる商業施設の円形になった吹き抜け部分──ロケ地で使われる、セイカにはお馴染みの場所だ。
「皆さんを助けないと! ですね!」
「そういうコト! 特虹戦隊ディヴァースⅤ、出動ヨ!」
『了解!』
憮然として猫耳を外側に倒し脱力していたイクシアもすぐに切り替えて、敬礼の輪に加わっていた。
「食らえ食らえー!」
「きゃあああっ」
「なに!? なにコレーッ!?」
セイカ達が現場に着いた時、モールの広場では逃げ遅れた人々が餌食になっていた。
といっても、頭がピーマンに──親切にも顔の部分が楕円に空いた、緑色のピーマンの被り物をつけられているだけなのだが。
「大丈夫ですか!?」
「とりあえず避難して!」
「はっ、はいっ」
ザッソー兵を蹴散らして、捕らえられた人やピーマン頭になった人達をこの場から遠ざける。
「来たか! 特虹戦隊ディヴァースⅤ!」
ピーマンロイドがザッソー兵を従えて偉そうに対峙する。
〝緑の指〟が見当たらない。どこへ行った?
「遅かったな、お嬢ちゃん」
声が上から聞こえてきた。視線をやれば、広場に面した二階の通路に〝緑の指〟はいた。自分だけ安全な場所で、高みの見物か。
いや、それより彼は今、誰を見て何を言った?
「余所見をしている暇はないぞ! 食らえ! ピーマン弾!」
ピーマンロイドが腕をこちらに向けて、そこについている大きさと同じピーマンを発射してくる。
「うわっ! 邪魔!」
イクシアは避けながら本音を叫んだ。それはエフェドラ以外の仲間達の心を代弁していた。
最初、〝緑の指〟はセイカに声をかけたと誰もが思った。セイカは〝白の廃園〟に「お嬢さん」とよく呼ばれているからだ。けれどもその時の〝緑の指〟の視線は、エフェドラに向いていた。
そしてエフェドラはといえば、二階にいる〝緑の指〟を睨んだままピーマン弾を見もせずに鞭で破壊している。
「ザッソー兵!」
『サー!』
〝緑の指〟の一声で、ザッソー兵達もかかってきた。
「だからっ! 邪魔だってっ!」
ピーマンロイドがピーマン弾も撃ってくるなか、ザッソー兵を倒してゆく。
「うわっ」
「援護する」
「ヴァリーさんは一般の人達の避難誘導を!」
「分かりました!」
イクシアは容赦なく暴れまわり、二丁拳銃を構えたロメロと徒手空拳のセイカはヴァリーリアンのフォローする。
エフェドラは変わらず〝緑の指〟を見ているのに、周囲の敵を鞭で一掃している。
決して怒気を孕んでいない。むしろ、あんなに目立つ存在なのに気配がない。腕利きの暗殺者か。
なんとも恐ろしく、近寄り難い存在だ。向かっていけるザッソー兵達の神経を疑う。
そして、そんな状態の超絶美形の隻眼を真っ直ぐ見下ろしている〝緑の指〟の度胸も凄い。
「エフェドラ・RD・ノルトヴェルガー」
口火を切ったのは、その〝緑の指〟の方だった。
絶対に何かがあると読んで、優れた身体能力を発揮してピーマン弾を避けつつザッソー兵を倒しまくっていたイクシアと、一般人の避難も終えてそこに加わっていたセイカ、ヴァリーリアン、ロメロは、戦闘は続けてはいるが聞き耳を立てまくり状態だ。
「君の父上は英雄だった。俺も尊敬していたものだが……」
不遜にもエフェドラをフルネームで呼んだ〝緑の指〟は、指揮棒を持っていない方の掌にゆっくり何度も打ちつけて勿体ぶった挙句、
「今の君を見たら、お父上は何と言うかな? お嬢ちゃん」
と、現在の立ち位置同様、明らかに心情的にも見下した態度でニヤリと嗤った。
『!!!!!』
広場全体が震撼する。
やっぱり聞き間違いじゃなかった。
『あの少佐』を『お嬢ちゃん』と呼ぶなんて!
そしてそれとは別に、〝緑の指〟が全力で地雷を踏み抜いたことも分かった。
「なんなのあのヒト、死にたいの!?」
全員が、やられて倒れている役割をしているザッソー兵達でさえも、イクシアの叫びに心の中で同意した。唯一解っておらず、この場の異様な雰囲気にハテナマークを浮かべているのはピーマンロイドだけだ。
そんな僅かの間に、エフェドラは鞭を手摺りの支柱に巻きつけて二階に飛び上がり、〝緑の指〟の近くにすんなり降り立った。そして鞭をしまって短鞭取り出し攻撃する。
指揮棒で応戦する〝緑の指〟は押され気味で後ろに退がっていってはいるが、未だ不敵な笑みを浮かべている。
まずい……とセイカは本能的に感じた。
「皆さん、いきますよ!」
「分かった!」
「O.K.」
「それがベストでしょうねっ」
生き残ったザッソー兵を倒しピーマン弾を避けながら言った言葉が、エフェドラ以外の仲間には通じたようだ。ピーマンロイドは四人で倒そうということが。
『ディヴァースチェンジ!』
掛け声が揃って、四人は強化スーツに変身した。




