ヤツは来るのか来ないのか
「ど〜お? 来ると思う?」
「さてな。ヤツは他の二人と毛色が違うからな」
「だよね〜。ボクの〝紫の百合〟みたいに優雅にして華麗で強くもないし、若さの勢いだけで先陣切って攻めてくる〝青の薔薇〟キャラでもないし」
「一見すると地味ですが、裏で糸を引くことを得意とする狡猾さが人相に表れています。前線で指揮を執るタイプではなく、ボスの下で小細工を任される感じでしょうか」
六角テーブルとその周辺でエフェドラを前にして、みな口々に言いたいことを言っている。事実なのだが、いいのだろうかとセイカは冷や冷やだ。
週が変わった。
秘密基地の司令室には珍しく、全員が集まっていた。
そう、忙しくて滅多にいないエフェドラが、週初めから毎日いるのである。その理由はもちろん、今週の〝悪ノ華〟の指揮官が〝緑の指〟である可能性が高いからだ。
しかし、ひとつ疑問があった。
〝緑の指〟は指揮官として現れるか、どうか。
宣戦布告の時は早々にエフェドラことディバースシルヴァーに緊縛され足の下にいたので、生身で闘う力は弱い。それに〝紫の百合〟や〝青の薔薇〟に比べると、『悪の大幹部』としてはいまいち地味だ(髪型は個性的だが)。データを見れば、最前線に出てくる性格でもない。
ゆえに、一応エフェドラは待機してはいるが、〝緑の指〟はアジトで令息達の指示を仰ぎ地球侵攻の計画を立てる担当で、〝紫の百合〟と〝青の薔薇〟が交互に一味を率いてやってくるという見解が強い。
「そもそも、なんでそのヒト〝悪ノ華〟にいるの?」
フリースペースで作業しているイクシアが疑問を投げかける。
「なぜでしょう。少佐の部下でも未だに探り出せていないのは、ちょっと不気味ですね」
ヴァリーリアンの眼鏡の両レンズにコンソールのモニターが写っている。
そうなのだ。ザッソー兵として潜り込ませているエフェドラの超優秀な部下達からは、その辺の報告が上がってこない。
それでも唯一はっきりしているのは、〝紫の百合〟や〝青の薔薇〟のように脅されて従っているのではないということだ。
「エフィはどう? 思いつかないの?」
今日も目に優しくないショッキングピンクのコートを着ているシャーリー司令官は、六角テーブルの上段に両腕で頬杖をつき頭頂部の飾り羽根をひょこんと揺らして、アイメイクもバッチリの目を左隣の銀色の椅子に座っているエフェドラに向ける。
他のメンバーも注目した。口数の少ないエフェドラが何と言うのか興味津々である。
制帽をテーブルに置き、羽織ったコートを上手く避けて椅子にかけているエフェドラは、長い腕と脚を組み、眼帯に隠されていない目を閉じている。
ずっとそうしてみんなの〝緑の指〟に対する忌憚ない意見を聞いていた。負のオーラは出ていないので怒ってはいないだろう。それよりただそこに存在しているだけで、人を超えた質量を感じるというか、なんというか……。やっぱり彼女の方が〝緑の指〟より何百倍も『悪の大幹部』に相応しいカリスマと貫禄がある。〝緑の指〟より七歳も若いのに。
「……理由は大方想像できる。が、想像でしかない」
「ふうん? エフィには思い当たるところがあるのネ」
「ああ。時期が来たら吐かす」
エフェドラはなぜかセイカを真っ直ぐ見てそう伝えてきた。
時期とは。吐かすの決定なのはなんでかな!?
疑問に思うがセイカは頷いた。きっとセイカがリーダーだから報告をということだろう。
片眼でも、銀の星が輝く不思議な瞳を持つ人を超越した美貌に見つめられると、物凄いダメージをくらう。
それが分かっているのか、シャーリー司令官以外のメンバーはツッコミはすまいと、遠くのあちらこちらに視線を向けた。
さっきまで言いたい放題だったのに、急に静かになった。
「オーケー。じゃ、〝緑の指〟はエフィに任せるワ!」
シャーリー司令官はそんな空気をものともせず、通常運転でそう言った。
流石は司令官、強い。
また目を閉じ椅子に凭れたエフェドラにホッとして、セイカは今一度、彼女と〝緑の指〟の経歴に目を通す。
エフェドラの種族ルシェール人は母星を寿命で失っているため、宇宙中に散らばって暮らしている。ゆえに数を減らす一方で、第一級絶滅危惧人種に指定されている。
それはともかくエフェドラの両親は、地球人を祖とする人間が暮らす然る惑星で彼女を産み育てた。その星は〝緑の指〟──ユーリィ・バートン・ハードハックの生まれ故郷でもあるので、人種は違えどエフェドラと出身を同じくする。そして調書によれば、ある事件がその惑星で起きた時、彼の活躍で危機は回避されたとある。当然みな彼を英雄と称えた。だが彼はそんな中、忽然と星から姿を消す。
そして久しぶりに存在を確認されたと思ったら、〝悪ノ華〟の大幹部になっていた。
故郷の英雄とみなされる彼が、今や悪の手先と化しているのが許せないのか。
経歴には同じ都市にいた時期があるので、その頃に二人の間に何かがあったのか。
中央情報局の本職から待避してきたと言ってはいるが、日頃の忙しくしているエフェドラを見る限り、こんな有閑令息の『お遊び』に付き合っている場合じゃないだろう。第一、『少佐』が一隊員として素人のセイカの下で戦っているのはおかしい。普通に考えたら、有り得ない。
余程の因縁があるとしか説明がつかない。
「で? 来るかどうか、賭けるか?」
今日も今日とて自身のフリースペースで、両手を頭の後ろに敷いてソファーの肘掛けを枕にし、もう片方の肘掛けに長い脚を組んで乗せ仰向けに寝転がっているロメロは、そう提案をしてきた。
「来ない方に、週末の夕食代!」
一番に元気よく声を上げたのはイクシアだ。
「よし、ソレでいくか。オレも来ない方だな」
「僕も来ない方に」
真面目に見えるヴァリーリアンも気軽に参加する。
最初は意見の違いから仲間でも対立したりする戦隊もあるけれど、この特虹戦隊は出会ってから変わらず居心地がいい。みんな大人だ。
「アラ、アタシは来ると思うわヨ」
六角テーブルから身体を起こしたシャーリー司令官は、右肘を左手で支え、右人差し指を顎に添えて言った。
「わたしも来る方に、です」
セイカも続いた。アジトへの初突撃訪問時に、エフェドラがいないと知った〝緑の指〟のガッカリ具合はまだ記憶に新しい。
「少佐! 少佐はどっち!?」
イクシアは作業台に両手をついてぴょんぴょん跳ねている。
さっきの緊張感は、一体? と思うほど、いつもの空気になってきた。
「…………来る」
エフェドラは身じろぎ一つしないまま、それだけ言った。
それだけだが、「来なければ承知しない」という意味が込められていると誰もが察した。恐ろしい。
その時。
「────!」
敵襲来の警報が鳴り響いた。
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