侵略者
暗闇に、巨大スクリーンが浮かんでいる。
『召喚は上手くいったようだね』
スクリーンの中の一人が、赤色の液体が入ったグラスをゆったりと回しながら、満足そうに言った。
「はっ。万事、恙無く」
発光するスクリーンの前、一段下がったところに、三人の男女が跪き頭を垂れている。
答えたのは右端の、一見地味だが狡猾な表情をした男だ。
『アレが純血の日本人なんだな』
『驚いたよ』
『まさか女の子が出てくるとは』
『学生みたいだったね』
『まあ、条件付けは完璧だと言っていたから、問題ないだろう』
高級な椅子に凭れた顔の映っていない数人が、スクリーンの向こうで他人事のように喋っている。
『じゃあ次は、いよいよ全員揃っての宣戦布告だね』
明日の天気の話でもしているかのような軽い口調で、ワイングラスを揺らした男がこちらに向けて言った。
頭を垂れた三人に緊張が走る。
だがスクリーンの中からは相変わらず、『やっとか』『意外に時間がかかったな』などと無責任な声が聞こえてくる。
『初めて君達の見せ場になるのだから、派手にいかなきゃね』
『華々しく登場するように』
『期待しているよ』
『ああ、愉しみだ』
『金はどれだけ使っても構わないから、存分にやるといい。その代わり、私達を満足させることが出来なかったら……解っているね?』
最後にワイングラスの男が釘を刺してきた。
左端の美しい髪を垂らした女と、先刻地球で任務を終え戻ってきた中央の美青年は、従順な姿勢をずっと保ちつつもスクリーンの中の者達に気取られないように、震えた拳を握る。
二人にとってそれは、脅し以外の何物でもなかった。
そして、その姿をスクリーンの光が届かない部屋の片隅で見ていた美丈夫も、込み上げる感情をぐっと堪えていた。
彼が見守る青年は、本来ならば人に傅かれる立場の人間だ。決してあの様に他人に──それも犯罪者たちに、頭を下げる人間ではない。
自分ではどうしようもないこととは分かっていても、憐れで胸が押し潰されそうだった。