格納庫とミドリムシ
「司令官! ロボ戦なんて聞いてないんですけど!」
秘密基地の格納庫に戻ってD-マリンを降りた途端、五人を出迎えに来ていたシャーリー司令官にイクシアは駆け寄り抗議した。
「アラ、ヴァリーとエフィみたいに基地内を把握してないからいけないのヨ」
シャーリー司令官は人差し指を顎に添えて小首を傾げる。頭頂の一本だけある眼状紋の羽がひょこんと動いた。
わざと見つけないようにしていたセイカは気まずくて、視線を明後日の方に向けた。
「セイカちゃんなんか、ちゃんと遊戯室に置いてあるマシンで訓練してたわヨ?」
いやいや、それも単にゲームとして面白かったからである。訓練とは微塵も思っていなかった。セイカはますます明後日の方に目を向けた。
「遊戯室に訓練用のマシンが置いてあるの!?」
「そうヨ。ゲームセンターコーナーの中央に三体の乗り込み型マシンが鎮座してるでしょ」
確かにあった。セイカは飛行型にハマって偶然訓練になっていたが、その横には潜水艦型と戦車型ゲームがあって、一通りプレイはした。潜水艦型はD-マリン、戦車型はD-タンクの操縦席を模したものだったらしい。
「なんで訓練機が遊戯室にあるのさ!」
「遊びながら訓練もできるのヨ、一石二鳥ネ!」
「オレはビリヤードや格闘ゲームばかりやっていたぜ」
カウボーイハットを被り直しながらロメロはこちらへやって来る。
遊戯室の半分にはビリヤード台や卓球台、ダーツコーナーがあった。ロメロは〝ハートブレイカー〟だけあって、ビリヤードやダーツが得意だ。
「にしても、よく作ったなこんなモン。合体するとか、アニメか」
ロメロは合体を解いて帰還した三体のメカを見上げる。
こちらの世界でも、合体するメカは常識ではない。無駄が多く実用的ではないからだ。
「合体するロボットは日本人としては外せないわヨ! 宇宙に誇る文化ヨ! ネ、セイカちゃん!」
「そ、そうですね。日本人にはお馴染みです」
セイカがいた世界の戦隊シリーズでは第三作目からロボットが登場した。それ以来、変形・合体するロボットは必須である。スポンサーがどうとか野暮なことを言ってはいけない。
アニメで人気のロボットも原寸大で作成し、補助は必要だが動かしていた。あの情熱を持つ日本人ならば、千年もあればこちらの世界の科学力に追いつき、合体して自立歩行するロボットも作りそうだ。
「格納庫はバトルフィールド直通になっているんですか?」
セイカは気になっている部分を確認した。でないと秘密基地の場所が判ってしまう。
「そうヨ。格納庫を出るとバトルフィールドに入るよう、設定されているワ」
流石セイカちゃん、解っているわネ! とシャーリー司令官は褒めたが、正直、バトルフィールドとは何なのかとか、どう展開したりどう格納庫と通じていたりするのかとか疑問は尽きないけれど、説明されても解る気がしないので、それを聞いてホッとするだけに留めた。そういうのができちゃう科学力を持つ世界なんだ、で終わらせておく。
「コレも動力源はミドリムシか?」
ミドリムシ!?
「当然! 百パーセント、ミドリムシのバイオ燃料ヨ」
「百パーセント!? 凄いですね!」
親指で後ろのメカを指すロメロの質問に、シャーリー司令官はこともなげに答える。そこにセイカは食いついた。
「セイカちゃんの世界ではまだ珍しかったのだったかしら?」
「はい! ミドリムシのバイオ燃料は研究段階でした!」
「こちらの世界では宙を飛んでる自動車も鉄道車両も、航空機や海洋船や宇宙船も、燃料は全てミドリムシです。他には食品や飼料やプラスチックも作られていますね」
まだ教えていませんでしたか、とヴァリーリアンが眼鏡のブリッジを押し上げて簡単に解説してくれる。
「ちなみに、家庭やオフィスなどの建造物での電気は、屋根・壁・ガラスで太陽光発電をして賄っています」
「エコですね! それで空気が綺麗で景色がクリアだったんですね!」
セイカが魔法陣から落ちてきたその日、高層ビルの間を飛行型自動車があんなに行き交っているのに、排気ガスの匂いは皆無だったのを思い出す。風景も三百六十度、遠くまで見渡せた。
「セイカちゃんがミドリムシにこんなに喜ぶとは思わなかったワ。アタシ達には日常だから驚きはないんだけど」
「だって元の世界は地球温暖化で大変だったんです! それを解決した世界の姿が、ここにあるんですよ! もうホントに素晴らしいですっ!」
両手を握って感激しているセイカを、みな温かい目で見ている。
「おいおい嬢ちゃん、燃料に感心してるのはいいが、乗り心地はどうだったんだ?」




