プラントロイド
この世界にセイカが来て一週間が経った。もうそろそろ〝悪ノ華〟の次の襲撃があるはず、と思っていたら。
「────!」
緊急警報が鳴り響いた。シャーリー司令官と五人の戦士は六角テーブルに集まって、中央に映し出される映像に注視する。
「なにアレ」
その姿を目にしたイクシアが、全員の心の声を代弁して呆れた。
セイカがいた世界で近年の特撮のロケ地として定番になっていた広場の一角、白いテーブルセットで寛いでいただろう人々が逃げ惑うその向こうに、ザッソー兵を率いている〝紫の百合〟と異形の姿をしたモノが見える。
「ついに出ましたか、『プラントロイド』が」
ヴァリーリアンがキーボードを操り、異形のモノ──『プラントロイド』の3D画面をライヴ映像の横に表示させた。
〝悪ノ華〟にはエフェドラの部下が数人、ザッソー兵として潜入しており、怪人の情報も得てはいた。それは『植物』と『機械』を融合させた『プラントロイド』だという。
「ニンジンロイド……まんまじゃん!」
「初のプラントロイドがアレなのか?」
「失敗したゆるキャラみたいネ」
イクシアのツッコミが炸裂し、ロメロがカウボーイハットを浮かして目を見張る。シャーリー司令官は「アラアラ」と困った様子で右肘を左手で支え、右手を頬に添えて首を傾げた。
このSF時代の世界にも『ゆるキャラ』っているんだ、と新たな情報をゲットしたセイカはプラントロイドのデータを見上げる。
ゆっくり横回転する3D画像のプラントロイドは、どこからどう見ても葉がついたニンジンだ。人間大の逆三角形ボディには手足が生えており、上部にある顔は悪そうな表情をしている。非常にシンプルというか、中に人が入っていそう感が強い。背中にファスナーは無いが。機械らしいところは手足の付け根の接合部分が金属の輪になっているのと、関節部分、靴(?)くらいだ。
「ともかく出動しましょう。市民の憩いの場を取り戻すのヨ!」
『了解!』
この一週間で調べた限り、特撮で有名なロケ地は全て都内にあった。砂浜や岸壁もである。急行しやすいし、そういう世界なのだとセイカは納得しておくことにした。
「きゃーッ!」
「や、やめてくれっっ」
「ハッハッハ! 食え食えー!!」
「お残しは許さなくってよ!」
広場に着くと、逃げ遅れた人々がザッソー兵に捕まり、ニンジンロイドに口にニンジンスティックを入れられそうになっていたり、既に五、六本詰められ呻いていたりしていた。〝紫の百合〟は全体を眺めて品の良い命令を下している。
「待ちなさい!」
「無理強いは駄目です!」
素早くセイカ達はザッソー兵を蹴散らし、助けに入る。
「さあ、避難して!」
「は、はいっ」
「ふがフゴッッ」
「ありがとうございますっ」
「おっと、礼はいらないぜ?」
イクシアの高い声で人々はなんとか足を動かし、エフェドラは口いっぱいにニンジンスティックを詰め込まれていた男性の後頭部に手刀を入れて吐き出させ、ロメロはキザにウインクして皆を見送る。
「来たな〜ディヴァースⅤ!」
ニンジンロイドは両手を前方に向け、第一関節をパカリと開き、指の中からニンジンスティックを飛ばしてきた。五人が各々避ければ、それが当たったテーブルセットや地面に小さな爆発が起こる。
「危なっ!」
「あなた達! こんな危険な物を人々に食べさせようとしていたのですか!?」
受け身をとって構えるセイカが厳しく咎めれば、
「いえ、それはこちらの物でして」
と、丸みのあるカゴを腕に掛けた昭和の買い物をする奥様風ザッソー兵──割烹着は着ていない──が近寄り、小瓶を差し出した。
近くにいたヴァリーリアンが眼鏡のブリッジを押し上げながら問う。
「これは?」
「酢漬けのニンジンスティックです」
「普通に食べられます」
ジャムなどで見かける蓋がしてある寸胴の小瓶は僅かに色のついた液体で満たされ、ニンジンスティックが何本も入っている。カゴの中には同じ様な小瓶が何個か見受けられた。
「おいおい、食えるからって無理強いは頂けないな」
「それも人参ばっかり」
「わ、わたくしの好物ではなくってよ! 馬と一緒にしないでくださる!?」
「お姉さん……」
「馬をディスるのも良くないぜ」
〝紫の百合〟はニンジンが好きらしい。
「ええい、ニンジンは栄養価が高いのだ! なのにみんな嫌いやがって!」
ニンジンロイドは悔しげに叫んだ。
「え、わたしは好きですけど」
「なに!?」
「ボクも嫌いじゃないよ」
「ぬね!?」
「僕もです」
「no────!?」
肯定されてニンジンロイドは叫ぶのに忙しい。
「でも苦手な人に無理やり食べさせては、余計に苦手になるだけですよ」
「正論!」
「恐怖に晒されては、好きなものも嫌いになるな」
「またまた正論っ」
「という訳で、倒させてもらいます」
ツッコミに忙しいニンジンロイドは置いておき、五人は変身ブレスを構えた。
『ディヴァースチェンジ!』




