乱戦!
広場は混戦の様相を呈していた。
最初、順当にいけば距離はそれなりにあれど、セイカと対面している大幹部〝青の薔薇〟(+ザッソー兵達)との戦闘になると思われた。だが斜め左から放たれた光弾が〝青の薔薇〟の足を止め、両手でDブラスターを構えたディヴァースゴールドがすかさず間合いを詰める。
「なんだ貴様は!」
「ユーの相手はこのディヴァースゴールドが引き受けた。ヨロシク、青薔薇の君!」
〝青の薔薇〟が振り下ろした剣を二挺のDブラスターで受け止めたディヴァースゴールドは、強化スーツで見えないがきっと彼に向けてウインクしているに違いない。
ガンマンであるディヴァースゴールドが接近戦に持ち込んだのでセイカは驚いたが。
「ところでユー、好きなものは?」
「はぁ!? 貴様、なにを言っている!」
「だから、好きなものさ。花でも食べ物でも本でもなんでも。ああ、趣味でもいいぜ?」
「なぜ貴様にそんなことを教えねばならん!」
「決まってるじゃないか。ユーのことが知りたいからさ」
またウインクしてるな、とセイカは確信した。
ディヴァースゴールドは片方のDブラスターで〝青の薔薇〟の剣を往なし、もう片方のDブラスターで周囲のザッソー兵を片付ける。そしてその間も〝青の薔薇〟を口説くという、器用なマネをしている。流石はディヴァースⅤに選ばれし、マカロニの星から来た男。
〝青の薔薇〟が気に入ったのなら彼に任せよう。そうセイカが呆れてザッソー兵を適当に片付けていると、
「そこの貴女、わたくしとお話しない?」
と言う美しい声と共に、ひらひらした紫の布に隠れた黒いヒールが目の前を掠めた。
危なかった! 反射的に身を退かなかったらモロに顎に入っていた!
いつの間にか接近していた〝紫の百合〟が、外した攻撃の勢いのままくるりと回り、今度は姿勢を低くして足払いを掛けてくる。
それを跳んで避けたセイカは、話をしたいのならなぜに不意をついた最初、気絶する足技を仕掛けてきたのか? と疑問に首を傾げた。
そこに割って入ってきたのはディヴァースオレンジだ。
「ねーねーお姉さん! ボクと仲良しになってよ!」
猫獣人らしく身軽に空中で一回転して着地し、〝紫の百合〟に拳で向かっていく。……猫拳?
「ちょっとあなた、邪魔しないでくれるかしら」
「えー邪魔じゃないよ! お姉さんと親しくなりたいだけだよ?」
「乙女以外に興味はないわ」
「ボクって性別を超越してカワイイを極めてるから問題ないよ!」
会話をしながら足技と猫拳の攻防を繰りひろげている。ディヴァースオレンジの自信も凄いが、白い足首が時々見えるくらいで済んでいる〝紫の百合〟の黒いハイヒールを履いた足捌きが巧みすぎる。黒の喪服に見えたドレスは一色ではなく裾にいくほど紫色になっていて、薄い布が何枚も重ねられているようだ。
「ああでもこのカッコじゃボクの可愛さが分からないよね。今度デートしない?」
「……だからオスに用はないのよ!」
ユニコーンの獣人なのでセイカを狙い、ハイヒールでも余裕の足技(馬は爪先立ち・馬種によっては後ろに立つと蹴られる危険性大)を展開し、ゆめかわいいデザイナーもしているディヴァースオレンジに目をつけられたという状況なのか。
馬に、いやこの場合、猫に? 蹴られたくはないので、セイカはその場をそっと離れることにした。デイヴァースオレンジの攻めが激しいので気付かれはしないだろう。
『ソーッッッ!!』
ザッソー兵が大量にやられる声が聞こえてきた。目をやれば、ディヴァースシルヴァーが縄で緊縛した〝緑の指〟を右足で踏みつけており、長い鞭で周囲のザッソー兵を一掃したところだった。きちんと円になって小さな爆発も起こっている。芸が細かい。
そしてまた粉塵が消える前に新たなザッソー兵がディヴァースシルヴァーに向かっていき、ぐるりと鞭で打たれて円形に小さな爆発が起こる。この繰り返し。
どうもザッソー兵達は自分で小さな爆発物を持っていき、鞭で攻撃される前に足元に置いているみたいだ。ドMがいっぱいすぎる。
大幹部の一人なのに簡単に捕縛され足蹴にされている〝緑の指〟は、もがくたびに踏む力をかけられるのか「ぐっ」とか「くそっ……!」などと呻いている。彼はドMではないようだ。
ま、まあ伝説の初代レッドも主な武器が白い鞭だったし……ディヴァースシルヴァーも問題なく戦っているということで。どちらが悪役か分からない所業だけど。
「くっ……! 水中戦なら楽勝なんですがっ」
三人の戦士がそれぞれ大幹部に積極的なので、楽なのか呆れていいのか判断に困りつつDソードでザッソー兵の相手をしていたら、ディヴァースアクアの悔しそうな呟きが耳に届いた。
彼はDブラスターで周囲から次々と攻撃してくるザッソー兵をなんとか倒している。
「アクア、大丈夫ですか!?」
ザッソー兵の半分を引き受けるべくセイカは素早くディヴァースアクアの背後についた。
「レッド、済みません。助かります」
「お互い様です。石に偽装した爆発物が近くにあるので、足元に気をつけてください」
セイカはDソードで、ディヴァースアクアはDブラスターでザッソー兵を片付けていく。時々あちらこちらで爆発が起こる。
こうなるともう映画規模の戦場だ。初戦だからって〝悪ノ華〟、張り切りすぎでは?
立っているザッソー兵が少なくなってきたから、もうちょっとで終わるかな。
ディヴァースアクアが苦戦していたザッソー兵を倒したセイカは、全体の様子を眺める。と、遠くで一人佇む美丈夫の姿が目に留まり、ドキリとした。
〝白の廃園〟と名乗ったその人は、後ろ手にして立っており、『若』と読んだ〝青の薔薇〟の方を見ている。『お目付け役』と言っていたとおり、『若』に何かない限り、参戦しない方針なのか。初めて会った昨日も召喚時に受け止めてくれただけで、攻撃はしてこなかったし。
やがて全てのザッソー兵が倒れ、まだ戦える状態なのは〝紫の百合〟と〝青の薔薇〟の二人のみになった。爆発物も使い切ったと見て取った〝青の薔薇〟は、
「チッ、今日はここまでにしてやる!」
と捨て台詞を吐き、昨日とは異なる大型の空飛ぶ円盤で、サッと通ると全員を回収して去っていくという、近年の戦隊モノお決まりの謎退場をした。
ディヴァースシルヴァーの足元にいた〝緑の指〟も漏れなく回収されている。
宇宙時代ともなると、ああいった去り方も現実で可能になるらしい。
「あ〜あ、行っちゃった〜」
「まだデートの約束をしてないぜ?」
宇宙船が去った空を見上げて、頭の後ろで手を組んだディヴァースオレンジが残念そうな声を出し、ディヴァースゴールドは二挺のDブラスターを腰の左右のホルスターにくるりと回して収める。
二人はそれぞれ目をつけた大幹部が去ったことを惜しんでいるが、セイカとしては「え? これで終わり? 怪人は? 巨大化は?」である。街中での戦闘は現実的ではないのでフラグが立たないよう、敢えてディヴァースロボとかあるのかないのか聞いてこなかった。自然破壊も良くないが、ここは人里離れた宙を飛ぶ車もいない場所なので。
「どうかしたのか? リーダーどの」
変身を解いたエフェドラが、セイカにだけ異変を感じて歩いてくる。他の三人も〝悪ノ華〟が去った方角を見上げているのに、鋭い。
「いいえ。皆さん怪我はありませんか?」
セイカは大したことではないと首を横に振り、変身を解除する。
「はぁ、はー、つ、疲れました」
「ヴァリー体力なさすぎ! もうちょっと鍛えなよ」
「セイカみたいに朝練から始めたらどうだ?」
変身を解いて膝に手をつき息の上がったヴァリーリアンに、同じく素顔の戦士に戻ったイクシアとロメロがダメ出しする。
映画並みの人数の敵と爆発だったが、どうやら皆無事のようだ。
「そ、そうですか。昨日の今日でセイカさんが朝練を……」
「いえあのどれだけ自分が動けるのか確認したかったのでっ」
だからそんな尊敬した眼差しを向けられても困る。
「と、とにかく帰りましょう。シャーリー司令官も待ってらっしゃるでしょうし」
「だな。基地に戻るか」
いつの間にかタイミング良く夕陽が辺りを赤く照らしだした。番組ならここでBGMが流れること間違いない。
──こうして特虹戦隊ディヴァースⅤの初陣は無事に幕を閉じた。




