わたしの服とフリースペース
「ボクが作ったセイカの私服だよ! 着てみて!」
朝六時に目覚めたセイカは、あると聞いていたトレーニングルームで自分の運動神経を確認するため、視聴と妄想で培ったアクションを一通りこなし、問題がないと判るとホッとして自室でシャワーを浴びた。そして朝ご飯を食べようと部屋を出た途端、イクシアが突撃してきてそう言った。
彼がセイカの目の前に突きつけているのは、赤いネクタイがついた赤いライン入りのセーラーブラウスに、赤色チェック柄のジャケットと二段プリーツスカート。その全てにフリルやレースがついた、ロリータファッションだ。
「セイカの制服姿を見てピンときたんだよね! ネクタイとハイソックスにはワンポイントにディヴァースⅤのロゴを刺繍して、時間がなくて靴は既製品だけど、服に合う物を選んできたよ!」
ハイソックスは白色だったがロゴの刺繍はネクタイと同じ金色で、赤色の靴はリボンとレースが付いている。
いやこれ、素顔で着たらいけないヤツだよね。髪も巻き巻きしたり。
「セイカはカワイイから素顔でオーケーだよ! 髪も今じゃ珍しい黒色だし、ストレートで大丈夫!」
驚いたセイカの表情を読んでか、テンション高くぐいぐい推してくる。
「ありがとうございます。後で着させてもらいますね」
「後っていつ!? ねえ、いつ着てくれるの!?」
「おいおいシア、セイカが困ってるじゃねえか」
そこに通りかかったのは、射撃の鍛練を終えてきたロメロだ。秘密基地には射撃場もある。
「すまんな、セイカ。コイツ、徹夜したんでこんなテンションなんだ。それは受け取ってやってくれ」
「ちょっとバカロメロ! なにするんだよ!?」
セイカが服一式を抱えると、ロメロは小柄なイクシアを担いだ。
「ごめんなさい、シア。初出動は全員ディヴァースⅤの制服で揃えたいんです。誰を敵にまわしているのか、最初にはっきりと分かるようにしたいので」
実は昨晩、セイカは寝る前にそれを思いついて、ディヴァースブレスでシャーリー司令官に相談していた。彼女は大賛成し、皆に伝えておくと言っていたが……。
「と、いうことだ。ヤツらが攻めてきたら起こしてやるから、それまで寝ていろ」
「そんな〜」
猫耳を引き攣らせてロメロの背中をグーでポコポコ叩いていたイクシアは、途端にぐでっと身体から力を抜いた。
「でも明日は必ず着ますから!」
気が抜けて眠くなったらしいイクシアは尻尾を垂らし、大人しくロメロに連れられていく。セイカは慌てて声をかけた。
「約束だよ〜。私服は全部ボクが作るから〜変なの買っちゃダメだからね〜。セイカのカワイさはボクが際立たせてやるんだ〜」
米俵よろしく運ばれてゆくイクシアは、独り言のように呟いている。
セイカは貰った服をそっと胸に抱いた。徹夜をして私服を作ってくれていたなんて、彼には悪いことをした。任務にあたるには部屋にあった軍服を着るものだと思い込んでいた。他に必要なのはトレーニングウエアと部屋着くらいで、それも収納棚とキャビネットにある。
部屋に戻ったセイカは透明の収納棚の一番上、余りに余っているハンガーにイクシアが作ってくれた服を掛け、ハイソックスは丸めて中段の引き出しに入れ、靴は下段に置いた。
イクシアはこれからこの仕切り収納棚がいっぱいになるくらい、服を作ってくれるのだろうか。ほぼ持ち物のないセイカにとって宝物が増えていく、それは大層嬉しいことだ。自分に似合っているかどうかはともかく、偶然にも(?)ロココ調の家具にはピッタリだし。
ダイナーで朝食を摂って一番早く司令室に入り、暫くして現れた今日もショッキングピンクが目に優しくないシャーリー司令官にイクシアの話をしたら、
「あのコ、集中すると周りの音を一切遮断しちゃうの。あんな大きな猫耳なのにネ」
と、昨日セイカが退出した後の司令室での様子を教えてくれた。
そんな話をしていたら次々とメンバーが集まってくる。少佐とロメロは雰囲気が打って変わってディヴァースⅤの制服姿だ。
「エフィがいつもの軍服姿じゃないって、宇宙中のドMどもが騒ぐわネ」
ディヴァースⅤの制服は紺色でデザインも全く違うし、記章は肩章と袖章、ワッペンくらい。制帽と飾緒や記章だらけの上着と羽織ったコート、手袋が無くなった分、少佐のヤバさが少しは消えた。少しは。
「ロメロはそういう格好でも真面目に見えません」
「放っとけ!」
窮屈なのが苦手なのか、ともすれば気崩そうとするロメロは喉元を緩めている。
「それはそうと。セイカちゃん、よく眠れたかしら?」
「はい。あんなに素敵な部屋を用意してくださり、ありがとうございます」
セイカは立ち上がって一礼し、着席する。もうざわり…とはしない。
「気に入ってくれて良かったワ。見れば分かるでしょうけれど、この司令室の今座っている背後、赤色の床の部分もセイカちゃんのフリースペースだから、好きに使ってちょうだい」
「司令室に詰めていることが大半ですから、仮眠をとったり寛げるよう整えるといいですよ」
と言われても、既にロココ調のソファーやローテーブルが置いてあり、天井からはシャンデリアが。ソファーにはクッションがいくつかあり、横になれるほどの大きさだ。空きスペースはまだあるが、これ以上必要な物が今は思いつかない。
昨日は何も置いてなかったよね? いつの間に用意したんだろう。
「経費で落ちるから、遠慮しなくてもいいのヨ?」
人差し指を顎に添えて首を傾げるシャーリー司令官の、頭に一本だけある孔雀の目玉のような飾り羽がひょこんと揺れる。
いやいや、経費だからこそ無駄遣いはダメでしょう。
「ちなみに時計回りに、少佐はゴシック調、イクシアはゆめかわ工房、セイカさんはロココ調、僕は宇宙人類学研究所、ロメロは西部開拓時代風ですね」
横になれるソファーとローテーブルがあるのは共通だけど、見事に雰囲気が全員違う。銀色の床にゴシック調の重厚感あふれる家具類、石の壁にステンドグラスを模した窓が描かれた空間は、『魔王城』っぽくて少佐にお似合いだ。隣のイクシアの工房はガラリとテーマが変わり、ゆめかわいいを象徴するユニコーンの絵がメインの壁、今はセイカの服を作っていた跡が見て取れ、ソファーやローテーブルにも布やなんかがあふれている。セイカのスペースを飛ばして、水色の床のヴァリーリアンのスペースは、現代のデザインと思われる家具類、研究所というが背の低い本棚がいくつかと机にキーボードと複数のディスプレイがあるだけで、整然とした印象だ。その隣はまた世界が変わって西部劇のセットのようで、茶色い革のソファーには私服と同じ白黒まだらの牛革が背面から座面にかけて敷かれており、立てたワイン樽があったり某有名な炭酸飲料の瓶を入れる木箱が積まれていたり、柱サボテンの巨大なオブジェが生えている。金色の床は砂地にも見え、壁は荒野と青い空の絵だ。
「シャーリー司令官のフリースペースは無いのですか?」
「アタシ? アタシは司令官だからアレで十分ヨ」
彼女は後方の出入り口の方を手で示した。左右に開く自動ドアの横のちょっとしたスペースに、ロココ調のカウチソファーとサイドテーブルがあった。
司令官、やっぱりあなたの趣味ですか。
セイカの部屋がアレなのも。赤色のフリースペースがアレなのも。
きっとシャーリー司令官の部屋にはセイカの部屋にはない、凄い鏡台とかガラス製キャビネットとか諸々あるに違いない。




