わたしの部屋
その後、セイカがこちらの世界に来た時、向こうは夕方だったと知ったシャーリー司令官は、夕食をとって早めに自室で休むよう指示した。どうやら時差が三、四時間ほどあるらしい。
またもや新顔の隊員に案内されて着いた食堂は、アメリカのルート66にあるダイナーそのもので、オシャレだった。壁には様々な看板やネオンサインが飾られ、ジュークボックスがあり、銀色のテーブルに水色のソファー、白黒の市松模様の床。携帯食と飲料の自動販売機がそれぞれ違和感ないデザインで置いてある。食事だけじゃなく休憩もできるそうだ。
前作のキラキラしい戦隊の基地にあった休憩(待機?)スペースもダイナー的だったけど……セーフ?
ダイナーって、レトロでもあり未来的でもあるから不思議だ。
これで見たこともない宇宙食が出てきたらそれはそれで面白かったかもしれないが、キッチンで頼めたのは元の世界と同じ料理が大半だった。宇宙時代になっても食事情は変わらないのが日本だなぁと、妙に感心してしまった。
結局セイカは今日のオススメだという『アジフライ定食』を頼んだ。アジフライはカリッとふわっとで美味しく、赤出しつきなのが嬉しかった。(あ、司令室──六角テーブルのある部屋──で出されたジュースについていたマンゴーはちゃんと食べてきました)
時間がズレていたので他には二、三人が離れた席で休憩していた。入れ替わり立ち替わり通りかかるには頻繁すぎる隊員達は、もしかして『純血の日本人』のセイカを見に来ていたのか、『レッド』になったセイカを確認しに来ていたのか──どちらもな気がする。
食事が済むとまたまた別の女性隊員が(そんなにセイカが珍しいのか?)、部屋に案内してくれた。宇宙時代っぽい内装で司令室と同じ白色の通路を歩いて着いた先、ドアの横にあるパネルには、もうセイカのフルネームが表記されていた。
言われたとおりパネルの一部分に手を翳すとドアが横に開き、部屋の中と使い方などをざっと説明される。
「え? ここですか?」
「はい。隣はノルトヴェルガー少佐で、向かいは撫子司令官の部屋になっております」
いや、そういう問題じゃない。
「御用の際はこれで申しつけください」
部屋の中のドアの横にもパネルがあり、女性隊員はそれを手で示すと、「失礼します」と敬礼して退出した。
一人残されたセイカは、暫し立ち尽くしていた。
通路に繋がるドアが唯一あるこの部屋は、説明によると、リビングルーム兼応接室だそうだ。全てロココ調の高級そうなソファーとセンターテーブルとキャビネット、シャンデリアとテーブルランプで、絨毯はフカフカ。壁に張りついているテレビだけが無機質で、ロココ調に額装されてなくて安堵した。キャビネットの横の壁には小型冷蔵庫が内蔵されていて、飲み物が数種類入っている。
次の部屋は寝室で、通路側に歩いていくと扉はないが透明のアクリル板(?)でできたタンス代わりの収納で仕切られており、その向こう側にはこれまた高そうなロココ調の大きなベッドとサイドテーブル、リビングにあったものとお揃いのテーブルランプとシャンデリア、ベッドの足元の隅にチェストがある。サイドテーブルは中が改造してあり、こちらも飲料が数種類入った小型冷蔵庫になっていた。収納の上段にはヴァリーリアンが着ていた隊服のセイカサイズ(多分)が数着掛けられており、中段に学生鞄と小物が、下段には軍靴が二足置かれている。
次も通路側に扉一枚分の幅の出入り口があり、トイレ、洗面所と洗濯機のある脱衣所、最奥にはバスルームがあった。
ちょっと待ってほしい。これって佐官か将官クラスの部屋じゃないの!? とにかく待遇がおかしい。
家具はシャーリー司令官の趣味っぽいが、他の仲間達の部屋はどうなっているのだろうか。……知らないほうがいいこともあるかもしれない。深く考えるのはやめよう。
一般人のセイカには縁がないと思っていたけれど、ロココ調は可愛いし、実は憧れの高級家具だ。鏡と洗面台もロココ調で、猫脚バスタブ以外はSFっぽい。
掃除は昼間の任務でいない時に専門の女性が二人組体制でやってくれるそうだ。制服や靴などの洗いや仕上げが特殊な物は指定の場所に置いておけばその人達が持ち出して、仕上がったら収納棚に戻してくれるという。だからその人達が部屋に入るのは了承してくださいとのこと。
毎日新しいシーツでベッドが整えられているとか、洗ってアイロンがかけられた服が戻っているとか、ここはホテルのスイートルームか。
士官学校を出ていない軍人なんて最初は大部屋で、自分で整えたシーツに少〜しシワがあっただけで上官にベッドを外に放り投げられるというのに。
「ストレッチをして、早めに寝よ」
きっと経験豊富な司令官の判断は正しい。この部屋もありがたく使わせてもらおう。
セイカは脱衣所で少し迷った末、高校の制服と靴を洗い物を頼む場所に掛けて&置いておく。他の服や下着は洗濯機に入れて、洗いのボタンを押す。なんとこの時代の洗濯機、洗いから畳んで収納まで、自動でやってくれるのだ! さっきいった洗いや仕上げが難しい物(も洗える洗濯機もあるが、この部屋には入りきらない大きさらしい)や、洗剤の補充は部屋を整えてくれる人達にお任せだが、その他の洗濯物はまさしく全自動! 洗面台の反対側、壁一面が洗濯機で、寝室の隅にあったロココ調チェストの背面が改造されており、洗い終わった洗濯物は畳まれてそこに種類別に収納までしてくれるという。
元の世界にも畳みまでやってくれる洗濯機があったけどこんなに高性能じゃなかったし、めちゃくちゃ高かった。この世界では一般家庭にも当たり前に設置されているのだそう。凄い!
「…………ふう」
全てを洗い流すようにシャワーを浴び、バスタブで温まり、バスルームから出て日課のストレッチをしながら──いつもなら戦隊シリーズの音楽をBGMにしてやるのだが、今は脳内再生に頼るしかない──思う。
この世界で行き場のないセイカを、こんな好待遇で受け入れてくれた。ただただ感謝だ。
サイドテーブルに置いた変身ブレス──『ディヴァースブレス』を見る。
まさか運動神経が良くなって『素顔の戦士』まで兼任することになろうとは……しかも、もう軍人である。人生、何が起こるか分からない。
元の世界は大丈夫だろうか。夕暮れの公園で、目撃者も多かったから、大騒ぎしていないといいが。
叔母はもちろん家族も楽観的だから問題ないだろう。むしろ運動神経が普通以上(?)になったと知ったら全力で「帰ってくるな!!」と言うに違いない。
でもどこに召喚されてどうなっているのか知りようがない、心配させていることに変わりはないから、寝込んでいるらしい大幹部には後できっちり責任をとってもらう。
「……これとこれを入れてっと」
ベッドルームのサイドテーブルの横、壁の中にこちらは小さめの金庫があり、大事な物はここに入れておいてくださいと説明された。学生鞄は革製だし、初心を忘れたくないから、スケルトンな収納棚にそのまま置いておく。でも金庫に入れる物が何もないのは悲しい気がするので、大した物を身につけていなかったセイカの唯一自分を証明できるソレと財布(貨幣が異なるので使えない)を入れておくことにした。
「よし、寝よう」
任務初日に寝不足だったり寝過ごしたりしたら最悪である。相手の組織はちょっと変わっているけれど、だからこそいつ何をしてくるのか予測不能だ。体調は万全に整えておかねば。
変身後の詳細も知りたいし、仲間や敵の情報ももっと頭に入れておきたい。早寝早起きだ。
「…………」
それにしても──と、ふかふかのベッドに横になったセイカは回想する。
まさかの異世界召喚からの戦隊ヒーロー・レッド就任。宇宙時代に宇宙人。未だ現実感が薄い。
そういえば、あの人……華流イケオジな美丈夫は、高圧的な美青年に「ジイ」と呼ばれていた。二十歳くらいの美青年がどう高く見積っても四十代前半の美丈夫に、その呼び方は普通はない。会話もしたけれど、全然敵っぽくなかったし。どうなっているのか、やっぱり情報収集が必要だ。
うん、これからの戦いに必要なだけであって、個人的に知りたいとかいうわけでは決してな……いこともない。
「……ダメだ、眠れなくなる。別のこと、別のこと……」
そうだ。ダイナーで見た多くの隊員も、案内してくれた隊員二人も、獣人・鳥人・魚人・その他、一部分に特徴が出ている隊員、頭部自体がそのものの隊員、下半身がそのものの隊員、人以外の姿をした隊員、色んな隊員いたが、黒髪黒目はいなかった。みんなカラフルだった。少佐の黒髪が珍しく思えるほどだ、セイカがもっと珍しがられても仕方ないと納得してしまった。
彼等と打ち解けられるといいな……。そう願いながらセイカは眠りに落ちていった。




