表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

2.「ごめんな。」


 森の花屋は、イノシシの一家が営んでいます。

 お父さんとお母さんが、花を育てています。

 お姉さんが店で花を売って、妹がそれを手伝っています。

 お兄さんである若イノシシは、頼まれた花をお客さんに配達しています。


 今日の配達が終わると、若イノシシは空の荷車を引いて、急いで花屋に戻りました。

 今日は、”特別なツリー”を移動させる日なのです。


 ”特別なツリー”は、大きなモミの木で、店の裏に植えられています。

 毎日、お父さんが大事に世話をしています。


 若イノシシが荷車と店の裏に行くと、お父さんがもう、モミの木の根本を半分くらい掘り出していました。

 若イノシシも手伝います。

 根っこを傷つけないように、優しく掘ります。

 モミの木が倒れないように、お姉さんが支えてくれます。


 そうして、根っこが全部出てくると、若イノシシとお父さんは、モミの木を抱えて持ち上げました。

 根っこを大事に布で包んで、荷車に載せます。

 さらに、大きな鉢と、膨らんだ麻袋と、二つのカゴも載せました。


 若イノシシが荷車を引いて出発します。

 後からお父さんがついて来て、モミの木を支えてくれました。


 ***


 イノシシ達は、森の真ん中にある広場にやって来ました。

 広場では、三人のリスと、一人のクマが待っていました。


 若イノシシが、大きな鉢を広場の一角に下ろします。

 モミの木を下ろすお父さんを、クマが手伝ってくれました。

 麻袋には土が詰めてありました。

 クマにモミの木を支えてもらって、鉢に植え換えます。


 こうして、広場に大きなツリーが立ちました。

 学校が終わったのでしょう、広場には森の子ども達が集まって来ていました。

 ツリーを見て、子ども達やリス達が歓声をあげます。


 若イノシシは、荷車の二つのカゴをリス達に渡しました。

 リスの一人が、カゴからピカピカの赤い木の実、青い木の実、黄色い木の実を取り出して、子ども達に配りました。

 もう一人のリスは、カゴから白い花を取り出して、子ども達に配りました。


 子ども達が大喜びでツリーを囲みます。

 目をつけた枝に、木の実や花を引っかけていきます。

 中には、自分で持ってきた松ぼっくりを飾る子もいました。

 高い所にかけたい子は、クマに抱き上げてもらいました。

 リスの一人も、上の方の飾りつけを手伝います。


 はしゃいだ声を背に、イノシシ達は、ツリーを植えるのに使ったものを片づけていました。

 そこに、声が飛んできます。


「お兄ちゃーんっ!」


 弾丸のように、一人のうり坊が駆けてきました。

 妹イノシシです。

 他の子ども達のように、ツリーの飾りつけに来たのでしょうか。


 うり坊は、若イノシシの足下でぴょんぴょん跳ねます。


「お兄ちゃんっお兄ちゃんっ。髪飾りは?」


 若イノシシは、何の話か分からなくて首をかしげました。

 うり坊が焦った声で繰り返します。


「髪飾りだよっ。ハリネズミさんの所で買ってきてねって、頼んだでしょ?」


 若イノシシは思わず目を見開きました。


 そうでした。

 朝、うり坊に頼まれたのでした。

 赤いチェックのリボンを買ってきて欲しいと。

 学校に行っている間に売り切れないよう、配達のついでに買ってきて欲しいと。


 若イノシシは、そのことをすっかり忘れていました。

 ”特別なツリー”のことで頭がいっぱいだったのです。


「あー……その、すまん。」


 若イノシシが頭を下げると、うり坊の目にうるっと涙がにじみました。


「買ってこなかったの?」

「うん。すまん。……そうだ。これ、ハリネズミさんにもらったんだが……。」


 何とか泣かせずに済ませないものかと、若イノシシはキャンディを差し出しました。


 しかし、うり坊は小さな手でそれをはじいてしまいました。

 わんわん泣き出します。

 その声にびっくりしたのでしょう。

 ツリーの周りにいたみんなが、目をまん丸にしてこちらを振り返りました。


 若イノシシは困って頭をかきました。

 飛ばされたキャンディを拾ったお父さんが、うり坊の頭をなでました。


「今すぐ、父さんと買いに行こう。な?」


 ***


 お店に、赤いリボンはもうありませんでした。

 自分が悪いわけでもないのに、ペコペコ頭を下げるハリネズミさんを困らせるわけにはいきません。

 若イノシシとお父さんは、涙ぐむうり坊を急いで連れ帰りました。


 うり坊にもう一度キャンディを渡すと、今度はちゃんと受け取ってくれました。

 むっつり黙ったまま、キャンディをなめ始めます。

 さっき拾ったキャンディを、お父さんが自分の口に入れました。

 それを見て、若イノシシもキャンディを一つ食べました。


 家に着くまでの間、うり坊のほほが膨らんでいたのは、キャンディを口に含んでいるからだけではありませんでした。



 →

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ