表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

1.「おつかれさま!」


 森の服屋は、ハリネズミとシマリスの二人が営んでいます。

 ハリネズミは、縫い物も編み物も大好きです。

 シマリスは、ボタン作りや刺しゅうが大好きです。

 店番をしながら、二人は仲良く並んで服を作っていました。


 でも、ここ数日、店の中はハリネズミ一人きりでした。

 シマリスが、熱を出して寝込んでしまったからです。

 ハリネズミは毎日お見舞いに行きたいのですが、それはシマリスに断られてしまいました。

 大事な仕事があるのに、ハリネズミに風邪を移すわけにはいかないと、そう言われました。


 店の奥で、ハリネズミはせっせと赤い毛糸を編んでいます。

 でも、時々手を止めては、ふう、とため息をつきました。


 ハリネズミは、赤いポンチョを14着注文されています。

 けれど、壁にかかっているポンチョは、まだ5着です。


 いつもなら、ハリネズミ一人でも、約束の日までに間に合うでしょう。

 でも、今、ハリネズミはとっても元気がありません。

 お熱のあるシマリスの分も、自分ががんばらなくてはいけないのに、ちっとも編み棒が進みません。


 ハリネズミは、隣のイスを振り返りました。

 いつもにこにこ笑ってくれるシマリスは、そこにいません。

 お家で寝込んでいます。


 ハリネズミは、台所を振り返りました。

 いつも温かいホットミルクを作ってくれるシマリスは、そこにいません。

 お家で寝込んでいます。


 ハリネズミがしょんぼりしていると、ぐーっとおなかが鳴りました。


 ***


 ハリネズミはエダツノ屋へ出かけました。

 台所に、ジャムやピクルスしかなかったからです。


 エダツノ屋には、野菜も魚もたくさん売っています。

 でも、ハリネズミはご飯を自分で作る元気もなかったので、クラッカーだけ買って帰ることにしました。


 カウンターへ来ると、シカのおばさんが言いました。


「ハリネズミさん、おいしいキャンディを仕入れたの。良かったら、どう?」

「キャンディ?」


 ハリネズミは、甘いものが大好きです。

 興味をひかれてお菓子の棚へ来ると、見慣れない袋がありました。


「ハニーミルク?」


 シマリスがいつも作ってくれるホットミルクにも、ハチミツが入っています。

 ハリネズミは、そのキャンディも買って行くことにしました。


 ハリネズミは、店を出ると、さっそくキャンディを一粒食べてみました。

 ミルクの優しさとハチミツの甘さが広がって、胸が少し暖かくなりました。


 ***


 ハリネズミが服屋に戻ってくると、丁度若いイノシシがやって来ました。

 引いている荷車に、「イノシシ園芸店」と書かれています。

 イノシシがぺこりと頭を下げて、低い声で言いました。


「ご注文のものを、届けに来ました。」

「え? わたし、何も頼んでないよ?」


 ハリネズミが首をかしげると、イノシシはちょっと笑いました。


「いえ、シマリスさんです。寝込む前に。」

「シマリスが?」


 イノシシが荷車から下ろしたのは、ピンクのシクラメンでした。

 ハリネズミがドアを開けると、イノシシはシクラメンの鉢を窓際に置いてくれました。


 窓からの日差しを浴びて、花が光って見えます。

 ゆれる花を見ていると、シマリスが応援してくれているような、そんな気持ちになりました。

 ハリネズミは、胸の奥から元気が湧いてきました。


「イノシシくん、イノシシくんっ。」


 ハリネズミは、外へ戻ろうとしているイノシシを呼び止めました。


「お花、届けてくれて、ありがとうっ。」


 そう言って、イノシシの大きな手に、キャンディを5つ握らせました。


「気をつけて帰ってね。」


 ぺこりと頭を下げて、イノシシが荷車を出発させます。

 遠ざかって行く背中が木々に隠れるまで、ハリネズミは手を振って見送りました。


「よし! がんばろう!」


 店の奥へ戻り、テーブルに放っていたポンチョを手に取りました。

 その瞬間、


 ぐーっ!!


 っと大きな音が鳴りました。

 まず、ご飯を食べなくてはいけません。



 →

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ