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二人称版:魔法学園の新入生の貴方は……

異世界ファンタジーによくある魔法学園だと思って読み進めてくださいね。


 片付けに手間取り、一人遅れて教室から出た貴方。まったく、生徒使いの荒い教師だと思いながら貴方は次の召喚術の教室へと足を進める。

 友人たちは薄情者で、手伝いに指名された貴方に「がんばれー」と言ってさっさと教室を移動してしまったのだ。次の授業はすでに始まっている時間、廊下に貴方以外の生徒はいない。


 季節は春。学園の廊下から見える景色は柔らかな萌黄に満ちていて、麗らかな日差しのもと鮮やかに輝いてすら見えた。

 貴方は空気の爽やかさに少しばかり気分を良くして廊下を行く。


 その時、貴方の視線の先で、白い髪をした小柄な生徒が数名の上級生に囲まれて空き教室に引きずり込まれた。中庭を挟んだ向かい側の廊下で行われたそれを、見ていたのは恐らく貴方だけだろう。


 確かあの白い髪をした彼はクラスメイトだったはず、と思った貴方は衝動的に駆け出した。

 教師を呼べばいいのに、と貴方はどこかで思ったが、その間に彼が何をされるか考えたら居ても立ってもいられなくなった。あの上級生たちは貴方を含む新入生の間ですら有名な不良生徒であったからだ。


 貴方は走るのが得意でない。けれど必死に足を動かして、やっとその空き教室にたどり着く。辺りはしんと静まっていたが中の物音は聞こえない。

 ゆっくりこっそり扉を開ける貴方。勿論不良の上級生への恐怖心はあったが、それ以上に、あの華奢で儚げなクラスメイトの方が心配だったのだろう。


 開けた扉の向こうに広がっていた光景に貴方は言葉を失った。


「え……?」


 薄暗い空き教室の中で五人の上級生が床に転がって呻いていた。

 その真ん中に貴方が助けようと思った白い髪の少年が立っている。彼は足下に転がる男子生徒の胸に小さな片足を乗せ、長すぎる袖から黒い杖を覗かせて「はーぁ」と溜め息を吐いた。


「偉ぶってるからそれに見合う魔力持ってると思ったのに、こんなかっすい魔力しか持ってないなんてねぇ……」


 彼は貴方に気づいていないようだ。二筋だけ長い髪を揺らして、少年は鈴を振る様な声で「ダサい」と呟く。

 それに対して足下の上級生が何やら呻き声で言った。貴方の耳には届かなかったが少年には聞こえた様で彼はすぐさまクスクスと笑い始め、やがて堪えきれないと言うふうに大きな声で笑った。


「あは、あははははっ、何それ笑える。被害者は僕だもん。許されるよ、正当防衛ってやつだからね」


 蔑みの色の濃いその声は、貴方が教室で耳にしていた彼の声の印象とは真逆で、からかう様な邪悪さを帯びていた。貴方はそのことに混乱して動けず、そこに立ち竦んでいるしかない。


「何をしたか、って? そりゃあ今の自分の状態で分かるでしょ。分かんないくらいバカなの? 君たちのしょっぼい魔力抜いたんだよ。根こそぎね」


 そんな魔法が、と貴方は思わず両手を握り締めた。聞いたこともない。恐らくただの一年生には使えない高等魔法だ。


 彼は何者なのだろうと思って、貴方はゾッとするような、興味を引かれるような、不思議な感情を覚えてごくりと唾を飲む。


「まだ喋るつもり? 僕、授業に遅れちゃうから早く行きたいんだよね。だからさぁ……――もう黙れよ」


 濃密な魔力を含んだ低い声が周囲の気温を下げた。ひやり、と肌を撫でたそれに貴方は鳥肌が立つのを感じて、じりっと一歩後退する。


 その時、足下の上級生を見下ろしている少年の死角に倒れていた上級生がふらふらと立ち上がり、握り拳を構えて少年に襲い掛かった。


「っ、危ない!!」


 貴方は思わず声を上げる。その声に、少年が振り返った。暗がりで燦然と煌めく紅い瞳が貴方を確かに捉えた。





 次の瞬間には、拳を振り上げていた上級生の顔に少年の魔法で生み出された鉄球がめり込んでいた。飛び散る赤色に貴方は呆然としたが、ゆらりと近づいてくる二つの紅色が貴方の意識をはっきりさせる。


「君だぁれ?」


「あっ、えと……」


「うーん? 同じクラスの人だよね」


「う、うん」


 事態を呑み込みきれずにいる貴方の顔を覗き込んだ少年は、にっこりと笑って小首を傾げた。


「ね、今の見てた?」


「あ、え、うん……」


「ふぅん。で、君はどうして空き教室(ここ)へ来たの?」


「き、君が引きずり込まれるのが、廊下から見えて……」


 貴方がそう答えると、少年は紅の双眸を丸くして何度か瞬きをする。言い様のない緊張感に汗が滲むのを感じながら、貴方は彼の瞳を見つめていた。


「じゃ、助けに来てくれたんだ。ありがとぉ」


 三日月形に細められた目に少しゾッとした貴方は言葉に詰まって頷くだけにとどめる。


 全身に冷や汗がじわじわと滲む様な短い沈黙のあと、少年はおもむろに貴方からスッと距離をとって、また可愛らしく微笑んだ。


「僕はニエール・チュニチオール。よろしくねぇ、同じクラスの人~」


「あっ、な、名前っ……」


 自分の名前を伝えようとした貴方の脇をするりと抜けて、少年――ニエールは空き教室を出ていった。

 あとには貴方と、床に転がって呻く五人の上級生だけが残された。


 貴方はしばらくそこで呆然と立ち竦んでいたが、やがてすでに次の授業が始まっていることを思い出し、慌てて駆け出した。





 教室にたどり着いた貴方を、どうやら先にやって来たニエールから事情を聞いたらしい教師は責めず「早く席へ」とだけ言って授業を続けた。

 クラスメイトたちからの視線を浴びた貴方は一度引っ込んだ冷や汗が再び出るのを感じた。しかし、窓側の一番良い席に座っていたニエールと目があって微笑まれ、先程のことを思い返し、結局少しぼんやりして授業を受けることになった。


 授業終わり、遅れによって生じた疑問を教師にぶつけようと一人教室に残った貴方の横を軽やかに通ったニエールが耳元へ囁く。


「あの事は、僕と君だけの秘密だよ」


 いいね、と低い声で念を押されてしまえば貴方には頷くという選択肢しか残されていないのであった。


正直、何が正解かすら分からない作者。次は三人称版です。

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