16話:池田君の奥さんが家を出て行った!
2000年5月3日に夢想善一が実家に帰って来て父の世之介に相談があると言い、世之介の書斎に入ると、彼女が妊娠したと告白した。何ヶ月だと聞くと、もう少しで5ヶ月と言った。もちろん結婚する気があるのだろと聞くと、もちろんですと言った。彼女の両親に何て言ったら良いのかと聞かれ、できたのだから、正直に話して結婚を宣言して、彼女の体調と子供の成育を見て、一段落したら結婚式を挙げるというしかないだろうと告げた。やっぱり、それしかないよなと納得した。
出産予定日はと聞くと2000年10月3日と言った。最初に奥さんの実家に電話して奥さんの体調を見て訪問したいと話したら良いと言った。その後6月18日、N証券の池田から電話が入り、ちょっと相談したいことがあるから会って欲しいと連絡が入った。橫浜駅で11時に待ち合わせスカイビルの寿司屋に入り個室に入った。そして夢想がどうしたと聞くと3年前に同じN証券で20年一緒に住んでいた奥さんと別れたと話し始めた。
あの頃、ネットバブルの走りで証券会社でも忙しかった。その時、奥さんが2度目の流産をして、その日も忙しくて病院を見舞ってやれなかったと言った。彼女は精神的にも疲れ切って会社に退職願を出して、一緒に住んでいたマンションに、置き手紙があり、あなたの優しさが欲しかった。でも、忙しくて、無理なんでしょうとと書いてあり、もう、これ以上、一緒にいることができなくなりました。静かに出て行きますので探さないで下さいと書いてあったと話した。
彼女も証券会社で活躍して、金も貯めていたので、金に不自由することもないが、7年前に実家の両親が亡くなってから、帰る所もなくなったと、ぼやくようになったと言った。これが、きっかけで、俺は、いままで、何やってきたのか反省を始めたと言い、今年のの冬のボーナスをもらったら、N証券も退職しようかと思っていると言った。金の方は億以上手に入れたので心配ないが、残りの人生をゆっくりと、人の本当にやりたい事を探し始めよと思うと、しおらしく言った。
そして、夢想、どう思うと聞いた。夢想が私とあなたでは性格も生まれ育ちも違うのコメントできないと言った。ただ、奥さんの気持ちは良くわかる気がすると言った。結婚して可愛い子供の顔も見たいと無理して2度も流産して、それでも、うまくいかなくなって、現状から逃げたいと思ったのだろうねと、静かに言った。僕も、基本的に君みたいな強者ではなく、弱者の部類に入る人間だから、その気持ちが非常に良くわかるとしみじみと言った。
人間は、おごっちゃダメだ!、常に冷静に、いつ、何時、何が起こるかわからない。だから、君が、今迄、何やってきたのだろうと自問自答する気持ちは素直な気持ちだと思う。それだけ、余裕がなく、他人に指示されたとおりに動く、兵士だった。そこで、武勇を揚げて、出世して、名誉、地位、富を得たのだろう。しかし、会社という怪物に時間を決められて動いていたので、他の人を見る余裕がなかったのだと思う。
そう言う、企業戦士で日本は成り立っているでも、人生のうちで、その時間がどれだけの割合を占めるか計算してみると大卒で22歳、定年60歳、その間38年。人生76年と仮定しても半分でしかない。君みたいな優秀に人間は、自分の頭で物を考えて、生きて行くべきで、世の中で間違っていると思う事には反対して、場合によって実力行使したり、仲間を作ったりして、活躍する時代に入ったと考えれば良いのではないかと、夢想が進言した。
それを聞いていた、池田君が目を潤ませて、今迄の自分の行動を思い出してるようだった。そして13年前、彼女と結婚して、彼女が早く子供が欲しいと言い、子供が出来たら、会社やめても良いでしょと行っていた時を思いだしたと言うと、ハンカチで涙をふきだした。その時、そんな事、自分でで考えろと言ってしまった。すると、彼女は涙を流して、冷たい人と怒ったと思い出したと回想した。それか1年して、彼女が子供が出来たらしいのと、うれしそうに言った。
その時、そりゃ良かったと他人事のように言った。でも、彼女はえらく喜んでいたっけ。しかし、3ケ月後、今度、会社から帰ってきたとき、自殺しそうな暗い顔して、流産しちゃったと泣き崩れていた、その時はさすが、肩をさすって、また、チャンスはあるよと慰めた。それから3年後、密かに不妊外来に通っていたようで、また、赤ちゃんが出来たみたいと明るい声で言ったとき、無理しないで会社休んで、ゆっくりしてと声をかけた。
彼女は、大喜びしてはしゃいでいた。しかし、数ヶ月後、会社から帰ると、能面のような顔をして、泣きながら、また、流産したと言い、先生から、あなたは流産しやすい体質なので、子供は諦めた方が良いと言われたと、ずっと泣いていた。それでも数ヶ月して、私は子供を産めない、だから、いっぱい金を稼いで、贅沢な暮らしでもするしかないんだと働き出した。そうすると、自分は仕事にのめり込んで、お客さんとの接待など、飲み会で午前様になったり外泊するようになった。
すると奥さんは他人のように冷たくなったと言った。そして会話も少なくなり置き手紙を置いて出て言ったと今迄の流れを説明した。これを聞いていた夢想が、それじゃー、当然の帰結じゃないか。自業自得って奴さと吐き捨てるように言った。これで話は終わりだ、残りの人生、ゆっくりのいろんな勉強をするしかないねと答えた。
わかった、ありがとうと言って食事代を精算してくれ、外に出た。まー橫浜の海でも見て帰れよと、夢想が言い、それだけでも癒やされるぞと言った。すると、わかった、そうすると言い2人は無言で橫浜の海を眺めながら歩いた。やがて暑い夏になりエアコンをかけて買い出を控えて9月、少し涼しい朝晩で買い物や散歩に出だした。




