たがための剣か
いろんな批評を期待してます
陰謀と偶然
キャンプの炎は勢いよく燃えていた。狩猟組合から依頼されたヴォイクの群れの討伐成功を祝して、油肉を焼いたためだ。
ヴォイクは交易品や通行人を襲う中型の肉食二足歩行竜である。四半期前ほどから個体数の増加とともに被害が大きくなっていたため、討伐隊が4部隊ほど組合によって招集されたのだ。手練れのハンター達にとってヴォイクは敵ではない。ヴォイクの強さは群れによるもので、個としては脅威ではないのだ。ハンターたちが複数に固まって向かえば、例えヴォイクが群れていたとしても、後ろを向けて引き下がる臆病さだ。ハンターはただ後ろから矢を射かけて、弱ったヴォイクにとどめを刺せばよいだけである。加えて、今回の組合の依頼は、ヴォイクの個体数を減らすことだ。つまり、群れているヴォイクの成体だけではなく、巣の中いるであろうヴォイクの幼体をも間引かなくてはならないということだ。
「腕は大丈夫か?」
口火を切ったのは討伐大のリーダーで中距離攻撃担当の射手とは言ってももちろん前衛も務めるニッチ・ジノール・エルダリーフだ。彼女の判断は的確で、決断力があるので仲間からの信頼も厚い。もちろんこのバンドの創設も、メンバーの勧誘も彼女が行ったのだ。
チームは組合も推奨するように1チーム8メンバーのオーソドックスだ。前衛4人、近接攻撃2人、中、遠距離攻撃が各1人、応急回復、救護が1人という構成だ。
「ええ、全く問題ないですよ。レザーを着ていたので噛み跡がついたくらいですよ」
軽く右腕を振って問題ないジェスチャ―をしているのは近接攻撃担当のコール・アクリーだ。ヴォイクの幼体を始末するときに執拗な母親によって噛みつかれたそうだ。
元気そうな素振りに一同が、微笑する。
キャンプを取り囲みながら、ヴォイクの堅い肉を食いつくした後、食事中から顔を曇らせていた遠距離担当のメイ・ジェフリーが疑問を口にした。
「狩猟組合は、本当にこのエルダーペイン大森林を調査して、ヴォイクの個体数が増加したと判断したのでしょうか。」
「ああ、私も気になっていた」
リーダーのニッチもうなずく。
「私は2半期前にもこの大森林で動植物の個体数調査を行っていましたが、その時にはこれほど多くのヴォイクはいませんでした」
メイは続ける。
「何が言いたいんだ?俺たちは増えすぎたヴォイクのためにここにやってきてるんだろ?」
理解に苦しむ前衛のミハイル・レルラントがメイに問いただそうとするが同じく前衛のハインリヒ・マッケネンに肩を軽くたたかれ制止された。
「この街道は西側の王国と東側のエルダーペイン大森林を切り分けるがごとく走っている。俺たちが担当する南部街道でもこんなに多くはなかったんだよな?」
「ええ、ヴォイクの生息域は王国から見て南東部ですが、いくらヴォイクが大繁殖しようと、この数カ月の間で街道沿いにこれほどの数の群れと巣を形成できるはずがありません。」
メイは補足する。
「つまり、ここにいる多くのヴォイクは南東部の生息地から追い立てられてこの街道沿いにやってきた。ということなのですか?」
同じく前衛のイヴァン・マクセルスが発言した。
「ええ、恐らく。であれば、いくら肉食のヴォイクでここで殺すことは、個体数の減少に追い打ちをかけるようなもので、大森林の生態系に少なくない影響を与えるのではないでしょうか。」
これがメイの不安だった。
リーダーのニッチはメイの話を深くうなずきながら聴いていた。
「あり得る。組合も商人たちの被害報告ばかりで、実地調査を怠っているせいも考えられるしな。もしそうなら、例えヴォイクが肉食だとしても、個体数を減らすことは相対的に草食種の個体数を増やし、大森林を疲弊させるに違いない。」
ニッチはさらに確認に言葉を足した後に、ローブに身を包み、目深にフードを被る近接担当の女剣士が口を開いた。
「メイ、お前のその前提は確かなのか?だとしたら、ヴォイクを追いやったその存在こそこの王国にとっての脅威といえるな」
よそよそしく言うが彼女は志願者で、リーダーのニッチ、前衛のミハイルが直に腕試しをしてその実力を認めるほどの腕を持つ筋金の入った盾を持たない長剣剣士だ。皆は彼女のことを女剣士と呼んでいるが、人を寄せ付けない性格か、彼女はめったに口を開かない。
「確かなこと言えないわ、でもヴォイクの街道沿いの個体数の増加は、何らかの外的要因があるはずだわ。」
「ああ、そうだな。だったらどうする?」
女剣士の達観して見下す態度にメイは顔を陰らせた。
「だったら、南東部にあるヴォイクの生息地を調査しようじゃないか。ヴォイクが別種に圧迫されているならば、組合に報告するというのはどうだ」
リーダーニッチの提案だ。
「きっと私たちの討伐隊が最も早く討伐目標数を達成したに違いない。すぐに帰れば、組合の報酬金割り当てが30%になるにちがいないでしょうに!」
4人目の前衛のクーパー・グレイスは悲鳴じみた声をあげる。このまま王国へ戻って早く報酬を受け取りたそうで、これ以上の調査は御免被るといった態度だ。
「クーパー。気持ちはわかるが、王国の国富の3割が交易だ。これに被害が広がれば、王国の民は不況にあえぐだろう。もし、ヴォイクが別種に圧迫されているなら、今回の討伐だけにすまず、場合によっては早急に南東部のヴォイクの生息地に組合による調査団を派遣しなけらばならないかもしれないのだ。」
ニッチは不満なクーパーを王国の危機を使って説得する。
「それでは反対意見のある者はいるか?」
ひと時の沈黙の後に一声上がった。
「反対はないのですが、このままさらに南東部に行くとなると、諸々の物資が不足すると思いますが、補給はいつおこなうのですか?」
救護担当らしい発言をリン・メアリノードはした。
「そうだな。補給は欠かせない。では、リンとクーパーで王国の組合所で報酬の確定と追加の補給を受けてきてくれるか?」
「もちろんです」
ニッチの言葉にうれしそうなクーパーにリンは逆だった。
「応急処置技術を持つ者を欠いたまま南東部へ行くのは危険です。私の代わりにほかのだれかを!」
「心配ない。沼地を一回りしてくるだけだ。何かあったらすぐ逃げるさ」
前衛の3人は笑いあいながら誰が最初の腰抜けになるかの賭けをするといっている。
「そいうことだ。心配ない」
リーダーの一声にリンは逆らえなかった。
「わかりました。では、何かあった時は、南部のウル・ハル・ハイ遺跡で落ち合いましょう。補給物資もそこへ運びます。」
「わかった。みんな今日はご苦労だった」
キャンプの炎は皆が深く寝静まっても消えなかった。
エルダーペイン大森林は3つの活火山とその後ろにそびえる巨大な連山山脈の眼前に広がっている。土壌には火山灰を多分にふくみ多種多様で巨大な樹木を成長させる。この自然の山脈と森林は王国の東側にそびえたち、王国の西側の海からもたらされる暖かな湿った空気が王国から見て、活火山の背後、巨大山脈の手前に雲を形成し、豪雨を降らせる。これは王国にとっての貴重な水源ともなっている。とくに豪雨と霧の発生が多い南東部は沼地と化している。
その沼地の奥には凍える雪山の山脈がそびえたっている。その雪山を闊歩し、普段は洞窟に巣くう食物連鎖の長がいた。ヤギの如き角と足を持つ赤眼の猿人だ。猿人といっても普段の歴史書で目にするものとは全く違って体長は5メートルにも及ぶ。上半身は異常に筋力と骨格が発達しており、ヤギのような下半身とはアンバランスなほどで、両腕の太さは胴体に匹敵する程である。体毛は黒に薄暗い紅が縞模様に生えていて、燃え上がる闘志のあまりに周囲の雪を一瞬にして水蒸気へと昇華してしまうほどの熱を発している。その火山の如き容姿と闘志から炎怒覇と呼ばれている。
そのエンヌハが今は雪山ではなく沼地に降りてきている。つまり、エンヌハはもはや雪山の長ではなくなったということだ。唸り声をあげながら近づくエンヌハの足元の草木は瞬時に発火したが、湿気によってすぐに消火されていた。そのエンヌハの煮えたぎる赤眼には屈強な男の姿が映されていた。
エンヌハは鋭い方向は沼地全体、あるいはそれ以上広い範囲を震わせた。水は波を立てていて、
男の耳からは鮮血が流れている。目を合わせたのを合図にエンヌハは四足歩行で突進してくる。一走り、二走り、三,四,五走り。男とエンヌハとの間はそれほど空いていない。距離を縮めたエンヌハは、最後の二走りで大きく跳躍して男に噛みつこうとする。
だが現実はエンヌハの想像を超えていた。自分の体はまるで壁に激突したかのように止まったのである。眼前の敵に一瞬動揺を気取られたのではないかと勘繰るより早く、エンヌハの立派な剛角はへし折られ、その角で顔面を強打された。顔面を強打されたエンヌハは後ろに一転したが、すぐに起き上がった。
「・・・っ貴様!・・・よくも俺の角を!」
エンヌハは怒りのあまりに逆立てた毛先を焦がし、目と口からは液体が噴出し、それが空気と触れて発火している。
「お前は俺より強いのかもしれない・・・だが俺の角の代償は払わせてやる!」
エンヌハは羊の如き足で地面の土砂を蹴り上げた。だがあまりにも早いため蹴り上げられた土砂はまるで散弾丸のように男に降りかかる。男はエンヌハの角を前に出し、土砂を防いだが、直後に来たエンヌハの回し蹴りを直撃して20メートル先の大木に激突した。エンヌハ手を緩めることなく激突の瞬間にはすでに火球を飛ばしていた。
男はよけきれずに火球をまともに食らってしまう。
「ぐははあああ。俺の角の代償は重いぞ!」
放たれた火球の炎が背後の大木に燃え移り、火柱の業火を見ながら雄たけびをあげた。
「起き上がらないのか・・・?・・・ならそこで朽ちていけ」
しばらく眺めても起きる様子のないヒューマンを眺めて、エンヌハはよろめきながら立ち去っていった。
ニッチ率いる討伐隊はメンバーを6人、近接手2人、前衛3にん、中遠距離各1人で街道を南に下っていた。街道は南の都市国家との主要交易ルートで、ヴォイクからの警護も兼ねていた。
「あと数十キロで大森林に入る」
ニッチの声に一同が相槌をする。そのとき森からかすかな咆哮が聞こえてきた。皆が顔を合わせ幻聴ではないことを確かめあっている。
「みんな今の咆哮を聞いたか?」
一同がうなずく。
「こんな咆哮はきたことがない、南東部で何か起こっているのは間違いない」
ニッチが続けていう。
「やっぱり大型モンスターがヴォイクを追い立ててたんだわ」
「・・・だとしたら厄介だな。ボスローテ(巨大イノシシ)級なら俺たちでも対処できなくもないが、レジェンド級ならまず無理だ」
メイの後にイヴァンがつづいた。
「おいおい。こんなとこにレジェンド級なんていないだろ・・・」
「いや、いるだろ、ドフロトス火山の門衛のヴォスロ・ラ・ムル、しなやかに動く木炭の如き牡牛といわれているやつだ。」
ミハイルの無知をハインリヒが教育する。
「ありえないだろ。あいつはあの火口を少なくとも600年以上は守っているんだぞ。今さらどうしてこんな南の森をぶらつく必要があるんだ?それにあいつが咆哮するなんて聞いたことがない」
コールが反論する。
「とにかく調査を急いだほうがよさそうだ。場合によっては、王国が軍を派遣するかもしれない」
一同が沈黙する。それほどのモンスターが闊歩する森を調査すると身の危険をも伴うということにもなるからだ。中型肉食種のヴォイクが相手ではない。そう、レジェンド級ではないことを祈るばかりだ。ニッチの心に不安が募っていった。
キャラクター紹介
ニッチ・ジノール・エルダリーフ
王国より男爵の地位を与えられた父の3女で、決断力と行動力に関しては男勝りである。名前が一つ多いのは貴族のため。バンド(結束)を創設したのも、メンバーの勧誘もニッチが人一人説得してできあがった。名を名乗らない女剣士は例外。すでに交易事業で多額の資産を形成しており、父親からは長男を差し置いての跡取り使命を受けている。武装はショートソード、盾とボウ、中距離攻撃と近距離支援だが中距離攻撃がメイン。
ミハイル・レルラント
王国近衛兵第8隊長だったがニッチからヘッドハントされてバンドに加わった。理解力は乏しいが、槍撃が一流なのは間違いない。ハインリヒとは親友。武装はロングスピアにロングシールドの前衛である。
ハインリヒ・マッケネン
ミハイルと同じく王国近衛兵第5隊長だったがニッチにヘッドハントされる。知識量が豊富で、近衛の参謀補佐を務めていた。槍撃、剣撃ともに優秀。ミハイルとは親友でよく二人で話し合ったりする。武装はロングスピア、ロングシールドにロングソード。メインはロングスピアになる前衛である。
イヴァン・マクセルス
王国軍長官の副官の一人だったがニッチの行動力にほれ込み、バンドに加わった。物静かで柔和な人柄だが、人一倍の向上心を持つ、平民から王国軍の副官に上がったのも彼の向上心あってのことなのかもしれない。武装はロングソードにロングシールド。バンドを大きくするために日夜、ニッチと意見交換を行なったりしている。
メイ・ジェフリー
王国には珍しい女性レンジャー(森林保護観察員)である。一年の大半を森で過ごすため、サバイバルスキルや天候の移り変わりにも詳しい。その能力をニッチに買われてバンドに加わった。活発で真摯な態度が周囲からの好感を得ている。ブロンドヘアで緑眼の瞳を持つ。武装はロングクロスボウとショートソード。モンスターへの工作、誘導、罠の仕掛け、偵察なども行う。
リン・メアリノード
クレリック(聖職者)孤児院の子供。医術とヒール(回復術)を心得ている。料理や裁縫なども担当している。求職中にニッチに出会ってバンドに参加した。ブロンドに黒い瞳の穏やかな少女です。戦闘時は後方に待機していつでも処置できる体制を整えている。
名乗らない女剣士
自らバンドに入りたいと志願したが何が目的かはよくわからない。ロングソードの使い手で、ミハイルやハインリヒを軽く一ひねりするほどの実力者ゆえに、ニッチの許可が降りた。だが挑発的な発言と態度で周囲から疎まれている。普段はくらいローブにフードを目深にかぶり顔を隠そうとする。戦闘時にローブを脱ぐと、長い黒い髪を持ち、ボディプロポーションがよく整っていることがわかる。驚くことに彼女は四面体形の金属製両目眼帯をつけて戦闘行っており、能力の底が知れない。
コール・アクリー
元傭兵。対人戦闘に優れておりショートソードを主に扱う。体術も心得ている。ニッチの提示する破格の報酬につられてバンドに加わった。ニッチは彼の目利きの良さを高く評価している。
クーパー・グレイス
元王国軍剣士で求職中にニッチに出会った。前衛の穴を埋めるという分には問題ない腕というぐらいだ。金や酒に目が行きがちで自由行動が目立つ。武装はロングソードにロングシールド。
謎の男
人の形をした人でない生物。数トンの物体の衝突をたやすく受け止め反撃するほどの力を持つ。衣類などを着用しない文字通りの裸で、体毛が一切なく、頭髪も生えていない異次元の生物。
モンスター
エンヌハ
追加説明:エンヌハの飛ばす火球は正確には唾液である。唾液の中に発火物質が混じっているために空気中で発火する。
世界
王国
正式にはガリアノ王国。交易業、林業、鉱山採掘、で栄えているが食料の大部分は南の都市国家に依存しているため、依存からの脱却を模索している。
シリーズって言いますけどめどは全く皆無、政治、経済、軍事、産業、なんかも取り込んだ大きな話が作りたいから、別の話で書き直すかもしれないです。もちろん高貴な萌えが必要です。特に私は悲しい恋や結末、矛盾や葛藤(シンジは嫌い)がすきなのでそういう要素が多くなると思います。
コメントよろしくです。