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このお話はフィクションです

作者: 霧島

「……つまんない」

 溜め息混じりにそう言って、彼女は僕を見た。僕は思わず顔を伏せる。

(はあ、またか……)

 心の中でそっと呟いて、テーブルに置かれた数十枚にもなる原稿を見やる。

 これで、四回目。

 もちろん、僕の原稿を読んで、彼女が心底つまらなそうな顔で溜め息を吐いた回数だ。そう考えると泣きたくなってくる。そんな僕に向かって、彼女はさらに追い討ちをかける。

「ちゃんと話の構成考えてる? ぐだぐだすぎて笑うにも笑えないわ」

「ごめん」

「別に謝らなくてもいいわ。あたしのことじゃないし」

 僕は彼女に気付かれないように溜め息を吐く。気付かれたら、どんな文句を言われるかわからない。

 それにしても、相変わらずきつい言い方だ。以前、「もうちょっとやさしく言ってくれてもいいじゃないか」、と抗議したときに、「それじゃ練習にならないわ」などと一蹴されてしまったことを思い出した。

「あと、人物描写が甘いんじゃない? 誰が誰だかわからないわよ。それとね……」

 時折、ただ僕のことを罵倒したいだけじゃないのだろうかとも思うこともあるが、そんなことを聞いたらなにを言われるかわからない。第一、彼女の指摘は的を射ているものばかりだし、罵倒に聞こえるアドバイスも彼女の善意であるならば、この場に居づらくなるだけである。

 そういえば、どうして付き合ってもいない彼女が、僕にここまでしてくれるのだろう。例えば、僕と彼女が付き合っているなら何の疑問もないのだが、僕らは中学時代の同級生だ。それ以上でもそれ以下でもない。

 ともすれば、彼女は僕に気があるのかもしれない。考えてから、すぐ、そんなわけはない、と否定する。もし本当にそうだとするなら、思いを伝えるタイミングなんていくらでもあったのだ。言わないわけがない……と思う。

「……ねえ、聞いてる?」

 ハッと我に返ると、彼女が不機嫌そうな目で僕を見ている。

「あ、ご、ごめん」

「そんなだからちっとも上達しないのよ」

「……ごめん」

「だから、謝んなくていいって。そろそろ鬱陶しい」

 彼女はそう言って睨みつけてくる。僕は、再び口から出そうになった謝罪を飲み込んで、ふと思いついた言葉を声にした。

「ちょっと聞きたいんだけどさ」

「なに?」

「……好きな人とか、いるの?」

 時間が止まった気がした。

 そんなにまずいことを聞いただろうか?

 一瞬の沈黙の後。

「ばっ、馬鹿!」

 彼女が真っ赤な顔をして叫んだ。

「え……なにが?」

「そろそろ気付きなさいよ! 馬鹿っ!」

 そう言ってそっぽを向いてしまった。もう何がなんだかわからない。

 とりあえず、落ち着いて頭の中を整理することにした。なんで彼女が叫んだのか、何を気付いて欲しかったのか。少し考えて、一つの結論にたどり着く。

「もしかして」

 僕の妄想とも言うべき仮定が当たっていた……?

 それならば全て説明はつくのだが、どうにも腑に落ちない。何せ態度があれである。それを正当化する理由もあるにはあるが……

「ツンデレ?」

「うっ、うるさい!」

 なるほど、次からはもう少し楽しい時間になりそうだ。



***


「で、今日のはどうかな?」

 僕は笑いをこらえながら、原稿をテーブルに置いた彼女に尋ねる。すると、彼女は初めて見るような笑顔で、

「す、すっごく、面白いよ」

 と、だけ言った。

 心なしか、何かのオーラをまとっているような彼女を見て、僕は反射的につかみかかってくるだろう手から逃れようとしたが、その抵抗もむなしく、あえなく撃沈した。

(やはり、あの話はタブーだったか……)

 朦朧とする意識の中、それだけは確かに頭の中に刻み付けた。

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