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時間屋  作者: 深澤雅海
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腕時計 2


 私の仕事はフリーライター。依頼があればどこでも行くし、ジャンルも問わず色々書く。

 趣味と特技を生かせるから子供の頃からの夢だった。

 趣味は旅行。どこへでもひとりで行ける。

 友達とワイワイ楽しく旅行するもの好きだけど、自由に好き勝手なスケジュールで行動できるのはとても楽しい。仕事で誰かと一緒に行動するのも正直面倒だと思う。


 弟は普通の会社員で、趣味は山登り。装備をちゃんと揃えて本格的に登っているようだけれども、山を制覇する! とか、より高い山に挑戦! とかはなく、気楽に登りたい時に登りたい山に登っているらしい。


 社会人になって私は家を出て家族とは別に住んでいるけれど、私たち姉弟は結構仲が良い。私が仕事で出掛けた近くの山に弟が登っていたりすると、待ち合わせて食事をするくらいに。

 SNSでお互い繋がっているので、写真をアップした途端メッセージが飛んできて、一緒にご飯食べて別れたり、一緒に観光したり、実家の事や近況を話したり、友人に珍しがられるくらい仲良しだ。


 そんな弟が先週、山で事故に遭った。

 私に連絡があったのは事故の次の日だった。父からのメールで知った。事故当日は母がパニックを起こして連絡どころじゃなかったらしい。


 弟は展望台から落ちた、という事だった。

 落ちたと言っても5mほど下の少し平らになっている所に落下し、打撲と骨折だけで命に別状はない。

 しばらく意識がなかったけれど、その日の夜には目が覚めたらしい。

 私が病院に着いた時には眠っていたし、起きているのが辛いらしくすぐ眠ってしまうと母が言っていた。

 

 事故のことは父から聞いた。父も詳しくは知らないとのことだった。

 それほど有名じゃない山の、それほど高くない展望台。

 弟は展望台を囲う柵の所まで行き、背負っていた荷物を足元に下ろしていたらしい。それを見ていた人はいた。

 でも、当時その場にいた人は数人で、弟が落ちる瞬間を見た人はいなかった。

 ちゃんと警察や消防に連絡してくれて救助されたけど、連絡してくれた人はその後行方不明。隊員から電話は男の人からだとは伝え聞いていた。

 落ちてすぐ連絡してくれたから、そこから転がり落ちる前に助けられた、間に合ったとも聞いた。

 でも、


 どうして落ちたのか、が分かってない。


 連絡してくれた人が、行方不明。


 怪しくない…?


 そこで私は自分の特技を使うことにした。

 特技に関しては、多分、信じてもらえないと思う。


 その特技は、 

 物に触れるとその「物に宿った記憶」を見ることができる能力。


 サイコメトリーってやつ。映画や漫画みたいに事件を解決するようなことはしたことないけど、取材先でなかなか打ち解けてくれない人へのきっかけを知ったり、嘘を見抜けたりと少しだけ便利。

 物に触れると、その持ち主がその物を持ったり身に着けたりしていた時の記憶が断片的だけど見ることができる。

 

 弟の持ち物は全て病院に届けられていた。

 落ちた時も身に着けていた腕時計。私が入社祝いにプレゼントした登山用の腕時計だった。

 気圧、高度、方位も分かるそのちょっと高価い時計は、事故に遭っても壊れずに時を刻んでいた。


 触れた瞬間に浮かんだ情景は、


 弟の笑顔、青い空、落下する体、見上げた先に誰かの手。


 そう、展望台の柵から伸びる誰かの手だ。

 見える「記憶」は一瞬だ。それも一回きり。

 その中で見えた誰かの手。

 

 誰かに落とされたんじゃないの!? そう思った。


 弟が誰かに恨まれ殺されるような人間には思えなかった。

 それでも私が知らない部分もあるだろうし、逆恨みということもある。

 目撃者はいない。私が警察に訴えたとしても、その場にいなかった人間が何を言っても耳を貸さないだろう。

 私が探すしかない。弟を突き落とした犯人を。


 どうやって探すか。警察も探しているというのにまだ見つかっていない。

 と考えた時に思い出したのが不思議な噂のある時計店だった。

 弟へのプレゼントを買った、昔からある時計店。

 過去へも未来へも好きなところへ行けるという話。


 過去に行って現場を押さえられたら一番いいんじゃないか。

 落下する体。

 見上げた先の誰かの手。


 その手は赤く、血が滲んでいた。





 

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