振り子時計 5
削ったら削りすぎた感……
「早乙女様は未来で自分が幸せになっているのを見て安心したいというわけですね」
「そう」
「もしかして、映画はネタバレされていた方が安心して観られるタイプですか?」
「え? 映画のネタバレはダメだろ。ブルースウィルスは生きてるし」
「今の話の流れだと、早乙女様は冒頭の時点で秘密が分かっているわけですよね?」
「その通りだよ」
ミステリーもサスペンスも、犯人はすぐ分かってしまう。
僕にとっては全て答え合わせだ。
「では早速、移動いたしますか。場所と時間はどちらがよろしいでしょうか」
内藤がタブレットを取り出す。覗き込むと地図だった。
「思っていたより現実的なアイテムが出てきたな」
「人間の意識に頼るのは大変危険ですのでこのようにしました」
小説や映画の様にもっと目に見えない意識的なもので移動するのかと思っていた。確かに人間の感覚に頼るのは危険だ。
人間は嘘つきだし、記憶はあいまいだし、すぐ迷う。
地図はこの店の辺りを示していたので、そこから移動させて僕の家を中央に示す。
「いつがよろしいですか?」
「5年後……いや、7年後で。日付は今日以降一カ月以内のいつか」
「そんな適当でよろしいのですか?」
「行くべきだと判断されたなら、行くべき場所に連れて行ってくれるだろう? わざわざ客に効くのは納得させるため。正解だろ?」
「ではさっさと目を閉じてください」
「正解してても不安なんだけど、不安を緩和してはくれないんだな」
「目を閉じてください。開けると酔いますよ」
内藤がにっこり笑顔から目が笑ってない笑顔になったので慌てて目を閉じる。
酔うってなんだ? と思っていたら浮遊感を感じた。エレベーターの下りのような。思わず目を開けてしまう。
目の前には変わらず内藤がいた。俺を見て目を丸くしている。
その内藤の後ろに人影があった。顔はよく見えない、逆光のように影になっていて、でも目が合った気がした。
その瞬間、周囲が光り、眩しさに目を閉じた。
落ちた。
椅子から転げ落ちた。文字通り転げた。ぐるぐる体が回転して目が回る。
目を開けると目の前はアスファルトだった。眩しくて顔をかばっていたおかげで顔を怪我しなくてよかったが、わりと全身痛い。
顔を上げるとすぐ横に趣味の悪い靴があり……すげぇな! 黄色地にソールが紫で靴紐が赤なんですけど! 今日のスーツは濃いグレーじゃん。こいつのセンスどうなってんだよ!
「早乙女様? 目が焼き切れました? 脳みそ飛び出ました?」
「出てない! 生きてる!」
お前の靴に驚き呆れてたんだよ、というのは飲み込んで立ち上がる。
見回すと見慣れた場所、自宅のすぐ横の道だった。すぐ近くで人の声が聞こえる。
「7年後?」
「さようでございます」
「で、ここが僕の家だな」
すぐ横の建物を指す。
ここからは塀で見えないがそれほど大きくない一戸建てだ。
横長の作りで正面向かって右側に玄関、その左側に小さいが庭がある。洗濯物を干したり、息子が小さい時は三輪車を走らせたり夏はビニールプールを広げたりした。
その庭が見える所まで歩く。塀は庭の前だけ垣根にしているから表に回れば庭の様子が隙間から覗ける。
内藤が無言でついてくるのを確認しながら覗くと、妻と成長した息子と……堂本がいた。三人でBBQをしていた。とても楽しそうだ。
十数秒見た後、門の入口まで歩く。
表札は「堂本」
そうか、結婚するのか。
内藤を見ると少し寂し気に笑っていた。
「もういいよ。帰ろう」
「……」
「内藤?」
内藤の眉毛が八の字に下がった。おお、こんな表情もするんだな。
「申し訳ございませんが、自発的に帰る方法は存じ上げておりません」
「言い切ったな。他の使用者は今までどうしてたんだ」
「到着後3分で帰ろうとするお客様は今までいらっしゃいませんでした」
困ったやつだ、みたいな顔されたんだが別にそれは僕の勝手だろう。
「大体何分くらいで帰るんだ?」
「そのお客様によって変わりますが、おおよそ5分以上10分未満ですね」
「短いな! いや、分かった。こっちだ」
正解が分かったのでさっさと歩く。これ以上ここにいる理由がない。
内藤も素直についてくる。
ゴミ収集所だ。
収集所と言っても低い塀に囲まれて生ごみの上に掛けるアミがあるだけで、小屋の様にはなっていない。
「この辺の住宅のゴミはここに出すことになっているんだ」
だから来た時点で見えていた。燃えないゴミ専用の袋の中に詰められたたくさんの時計。
僕が内藤の家で買った時計が全て入っていた。
僕は腰を下ろし袋を開けてひとつ取り出す。
「お買い上げいただいた振り子時計ですね」
「この振り子は電池で動く飾りだけどな」
立ち上がろうとした瞬間にめまいがした。そのままぐるぐると視界が回り続ける。
やっぱりな。
なあ神様。
正解を引き当てた僕に、ご褒美はないのかい?




