振り子時計 3
「それは……内藤さんの話なのか?」
「さようでございます」
「長男、じゃ、ないよな?」
「さようでございます」
「……時計なのか…? その時計店はこの時計店なのか?」
「さようでございます」
「この店、居住部分なんてなさそうだけど…いや、取り壊したのか」
「以前、他に誰がいるのかとお尋ねになられましたね。時間移動は私の力ではありません。私が幸福を集められるように神の力をお借りしているのです。しかし自由に借りられるわけではございません。神が時間移動をするべきだと判断されれば、人は時間移動できるのです」
「でも、ジョージさん…そんな事件がこの辺であったなんて聞いたことないけど」
「もちろん、長男はそんな事件があったことを隠しましたし、もう何十年も前の事でございます。とても……悲惨な事件でした」
「何十年も、幸福を集めているのか」
「人は、そう簡単に幸福にならないのです」
今までたくさんの人を過去や未来に送り届けてきた。
皆あれほど行きたいと願い、脅してまで行きたがる人もいたのに、現在に帰ってくるとそれほど幸せを感じていない。
また来る、また行きたいと口にして店を出て行くのに、皆それきりだ。
「内藤さんは四代目って言ってたよな。ジョージさんの親父さんが一代目、ジョージさんが二代目、ジョージさんの次男が三代目か。次男から店を継いだのか」
「次男はジョージを止めに入り殺されたので、彼本人から継いだわけではございません」
「そうか……壊している物音を聞いて家族が起きないわけないもんな」
「長男はこの店を継ぐつもりはなく、私は行く場所がありませんでした。慈悲と哀れみと、軽蔑により、私はこの店を得ました」
「軽蔑?」
「長男にも私が時計だったことを話しましたが、全く信じませんでした」
あの別れは今でもはっきり覚えている。
長男はありとあらゆる手続きを行い、私に全て説明し、もう二度とここに来ることはないと冷たい目で言った。
ジョージが死んで三か月後の事だった。
三か月。
その間に彼は私に様々なことを教えてくれた。
見るだけでは分からなかった人間の生活。考え方。
時計の作りは分かっていてもそれ以外のことを全く知らない私を、彼は記憶喪失だと思い箸の持ち方から道の歩き方、時計の仕入れや経理も教えてくれた。
テレビや新聞、本や雑誌で情報を得られること、政治や社会、世界情勢についても。
彼には感謝しかない。
今でも彼の顔は思い出せる。
もう彼も、この世にはいない。
早乙女は長い溜息をついて顔を両手で顔を押さえた。
私は紅茶を出すべきか迷った。
いや、彼はもう違うのだ。
自分の迷いに内心笑った。
唯一の常連客、早乙女。
彼に親しみを感じている。
彼だってもう、この店に来ることはないだろう。
「ジョージさんはどうして時計を壊したんだろうな」
「それは、あなたなら分かっているのでは」
「……どうしてそう思うんだ?」
「神と共にいる私が、あなたの能力に気付かないとでもお思いですか?」
彼とは友達になれた気がした。
彼とは、友達でいたいと思っていた。
店内の9つの時計が鳴り出した。30分だ。
16時30分。
早乙女がこの店に来たのが16時過ぎだったから、私の話は約三十分だったということになる。
「さて、早乙女様」
「待った、心の準備が出来てない」
「お手伝いしましょう。あなたはなぜ、どこに行きたいのですか? 皆さん、心の準備のため自ら語られてから時間移動いたします。あなたの番です。どうぞ」
「なるほど、人に話すと整理されるっていう説もあるもんな」
早乙女は椅子に深く座り直してから、ゆっくりと息を吐いた。
「じゃあ語るよ。僕のことを。笑わずに聞いてくれ」




