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時間屋  作者: 深澤雅海
19/25

振り子時計 3


「それは……内藤さんの話なのか?」

「さようでございます」

「長男、じゃ、ないよな?」

「さようでございます」

「……時計なのか…? その時計店はこの時計店なのか?」

「さようでございます」

「この店、居住部分なんてなさそうだけど…いや、取り壊したのか」


「以前、他に誰がいるのかとお尋ねになられましたね。時間移動は私の力ではありません。私が幸福を集められるように神の力をお借りしているのです。しかし自由に借りられるわけではございません。神が時間移動をするべきだと判断されれば、人は時間移動できるのです」

「でも、ジョージさん…そんな事件がこの辺であったなんて聞いたことないけど」

「もちろん、長男はそんな事件があったことを隠しましたし、もう何十年も前の事でございます。とても……悲惨な事件でした」

「何十年も、幸福を集めているのか」

「人は、そう簡単に幸福にならないのです」


 今までたくさんの人を過去や未来に送り届けてきた。

 皆あれほど行きたいと願い、脅してまで行きたがる人もいたのに、現在に帰ってくるとそれほど幸せを感じていない。

 また来る、また行きたいと口にして店を出て行くのに、皆それきりだ。

 

「内藤さんは四代目って言ってたよな。ジョージさんの親父さんが一代目、ジョージさんが二代目、ジョージさんの次男が三代目か。次男から店を継いだのか」

「次男はジョージを止めに入り殺されたので、彼本人から継いだわけではございません」

「そうか……壊している物音を聞いて家族が起きないわけないもんな」

「長男はこの店を継ぐつもりはなく、私は行く場所がありませんでした。慈悲と哀れみと、軽蔑により、私はこの店を得ました」

「軽蔑?」

「長男にも私が時計だったことを話しましたが、全く信じませんでした」


 あの別れは今でもはっきり覚えている。

 長男はありとあらゆる手続きを行い、私に全て説明し、もう二度とここに来ることはないと冷たい目で言った。

 ジョージが死んで三か月後の事だった。

 

 三か月。

 その間に彼は私に様々なことを教えてくれた。

 見るだけでは分からなかった人間の生活。考え方。

 時計の作りは分かっていてもそれ以外のことを全く知らない私を、彼は記憶喪失だと思い箸の持ち方から道の歩き方、時計の仕入れや経理も教えてくれた。

 テレビや新聞、本や雑誌で情報を得られること、政治や社会、世界情勢についても。

 彼には感謝しかない。

 今でも彼の顔は思い出せる。

 もう彼も、この世にはいない。


 早乙女は長い溜息をついて顔を両手で顔を押さえた。

 私は紅茶を出すべきか迷った。

 いや、彼はもう違うのだ。

 自分の迷いに内心笑った。

 唯一の常連客、早乙女。

 彼に親しみを感じている。


 彼だってもう、この店に来ることはないだろう。


「ジョージさんはどうして時計を壊したんだろうな」

「それは、あなたなら分かっているのでは」

「……どうしてそう思うんだ?」


「神と共にいる私が、あなたの能力に気付かないとでもお思いですか?」



 彼とは友達になれた気がした。

 彼とは、友達でいたいと思っていた。


 店内の9つの時計が鳴り出した。30分だ。

 16時30分。

 早乙女がこの店に来たのが16時過ぎだったから、私の話は約三十分だったということになる。


「さて、早乙女様」

「待った、心の準備が出来てない」

「お手伝いしましょう。あなたはなぜ、どこに行きたいのですか? 皆さん、心の準備のため自ら語られてから時間移動いたします。あなたの番です。どうぞ」

「なるほど、人に話すと整理されるっていう説もあるもんな」

 早乙女は椅子に深く座り直してから、ゆっくりと息を吐いた。


「じゃあ語るよ。僕のことを。笑わずに聞いてくれ」



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