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時間屋  作者: 深澤雅海
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振り子時計 2

 何百年も生きた大木が切り倒され、分けられ、各地へ渡り、そのうちの一つが振り子時計となりました。

 その時計はある時計店の店主が息子の誕生日に長寿を願い購入し、居間に置かれました。


 ツクモガミというものはご存知ですか? 物質に宿ると言われる精霊です。

 その振り子時計は何百年も生きた大木から作られたからでしょうか。店主の息子が五歳になるころには、はっきりとではありませんが意識がありました。微睡んでいる感覚……半覚醒状態といったところでしょうか。しっかりと精霊にならなかったのは、時計に作り替えられたからだそうです。

 そんな状態でその時計は店主の家族を見ていました。


 店主の息子の名前はジョージ。どこにでもいる普通の少年でした。

 ただ、怪我の多い子でした。一見おとなしそうでしたが、カッとなると我を忘れてしまうそうで、両親はよく「自分を大切にしろ」とジョージに繰り返していました。

 それでも高校生になっても怪我が多いのは変わりませんでした。腕や首に包帯を巻く姿は痛々しいものでした。


 店主はジョージを振り子時計の前に連れてきてこう言いました。

「この時計は、ジョージが生まれた日に買ってきたものだ。だから、双子の兄弟みたいなものだろう。この時計に恥じないように生きなさい」


 生物ではない時計に対して恥じないように、というのは無理があるのでは? と思いましたが、ジョージには彼の言いたいことが伝わったようで、時計を大切にするようになりました。


 食事の代わりにネジを巻き、風呂の代わりに布で拭く。

 時々時計に話しかけていました。

「いつも同じ繰り返しで嫌にならないか?」

「毎日ネジを巻かれるのを本当に望んでいる?」

 と、ネガティブなものが多かったですが、以前より怪我は減ったようでした。

 時計に話しかけることによって、自分の心の整理が出来、落ち着くようになったのかもしれません。


 しかし完全に怪我が減るわけではなく、大学生になっても、卒業して父親の経営する時計店で働くようになっても、結婚しても妻に「自分を大切に」と言われている男でした。

 ジョージはいつも「自分はダメな人間だ」と繰り返していました。


 ジョージの両親が死に、ジョージが時計店を継いでも、彼は変わりませんでした。


 ジョージには子供がふたりいました。

 長男はジョージとは仲が悪く、大学を卒業すると家を出て冠婚葬祭と正月以外は帰ってきませんでした。

 次男は時計店を継ぐために、日々ジョージのもとで勉強していました。

 

 居間から見る家族は、特に問題があるようには見えませんでした。

 妻も子も、仕事も大切に。そのように見えました。

 ジョージも年を取り、次男に店を任せ、孫が生まれました。


 ジョージが90歳になる頃、居間の振り子時計にも変化が訪れていました。

 と、言っても目に見える変化ではありません。

 100年経てば時計に精霊が宿り、半覚醒の状態からしっかりとした意思を持つことができる。

 時計自身がそう確信していました。


 しかし事件は起きました。

 ジョージは自分の99回目の誕生日に、斧を振り回し時計を壊しました。

 あと一年。

 あと一年で時計は自分を持てる(・・・・・・)と期待していました。

 それは叶いませんでした。

 ジョージは時計を粉々にすると、自分にも斧を刺し死にました。


 粉々になった時計の前に現れたのは「時を統べる神」でした。

 神は時計の悲しみと悔しさを知っていました。そして手を差し伸べたのです。

 一年分の人間の幸福を集めれば精霊にしてやろう、と。

 神は時計に人の姿を与えました。

 人の姿を与えられたところで、時計は何も持っていませんでした。

 身一つで時計店の前に立つ時計に声をかけたのは、通夜に来たジョージの長男でした。


 何も持たない時計に様々なものを与えたのは、その長男でした。

 時計は長男から様々なものを貰い、様々なことを学びました。

 時計が知らない、居間以外のジョージのことを教えてくれたのも長男でした。


 

 時計はジョージの店で人として生きることにしました。

 人として生きながら、人間の幸福を集め続けるのでした。




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