振り子時計 1
五丁目の端の緑に囲まれた中にある時計店。
客が誰もいない時の店内は秒針の音が響いている。デジタル時計でさえ音を発していそうだ。
そんな店の扉がゆっくりと開いた。この店唯一の常連客、早乙女だ。
店に入った途端立ち止まり、怪訝な顔で店内を見回してからこちらを見る。
「いらっしゃいませ」
声をかけるとぎこちない笑みを浮かべながらカウンター席に座った。
「早乙女様」
「内藤さん」
私が話すのを遮るように早乙女は口を開いた。
「……この店について、教えてくれないか?」
落ち着かない様子で店内を見回しながらそう言った。
「この店についてですか? もう何百回もご来店いただいているのに?」
「そんなには来てないだろ!」
冗談に対応する余裕はあるらしい。
「当店は様々な時計を販売、加工、修理する時計専門店でございます。お探しの時計がございましたら、当店に無い場合でも取り寄せることが可能です」
「結構昔から営業しているのか?」
「私で三……いえ、四代目になります。創業は……せいぜい150年ほどではないでしょうか」
「150年でも長いけど……親から代々受け継いできた店なのか?」
「先代までと血縁関係はありませんね。私は初代店主に買われて来たんです」
「買われて?」
「ええ。すでに亡くなられています。彼もその息子も孫も」
「家族経営じゃないのか」
会話をしたことによって大分落ち着いてきたようだ。
それでも、いつものように目の前の席に座ったのに、いつものように視線を合わせてこない。
気付いているのに気付いていないふりをするのは彼の特技なのか、癖なのか。
「一緒に住んでいたこともございますので、全くの他人というわけではございません」
「じゃあ、先代店主に気に入られて店を引き継いだのか」
「いいえ」
肯定されると思っていたのだろう。否定の言葉に、やっと視線が合う。
彼はいつだって傷つくことを恐れている。いや、すでに傷ついているのに、自分は傷ついていない、気付いていないと思い込もうとしているのだ。
気付かなければ、気付かないふりをしていれば、先に進む必要はない。
踏み込む必要はない。
真実に触れることはない。
「早乙女様」
それでも決めるのは彼だ。
「昔話をしましょうか。それほど、昔の話ではございません」
いつだって、決めるのは私ではない。彼らなのだ。




