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時間屋  作者: 深澤雅海
17/25

振り子時計 1

 五丁目の端の緑に囲まれた中にある時計店。

 客が誰もいない時の店内は秒針の音が響いている。デジタル時計でさえ音を発していそうだ。


 そんな店の扉がゆっくりと開いた。この店唯一の常連客、早乙女だ。

 店に入った途端立ち止まり、怪訝な顔で店内を見回してからこちらを見る。


「いらっしゃいませ」

 声をかけるとぎこちない笑みを浮かべながらカウンター席に座った。

「早乙女様」

「内藤さん」

 私が話すのを遮るように早乙女は口を開いた。

「……この店について、教えてくれないか?」

 落ち着かない様子で店内を見回しながらそう言った。

「この店についてですか? もう何百回もご来店いただいているのに?」

「そんなには来てないだろ!」

 冗談に対応する余裕はあるらしい。


「当店は様々な時計を販売、加工、修理する時計専門店でございます。お探しの時計がございましたら、当店に無い場合でも取り寄せることが可能です」

「結構昔から営業しているのか?」

「私で三……いえ、四代目になります。創業は……せいぜい150年ほどではないでしょうか」

「150年でも長いけど……親から代々受け継いできた店なのか?」

「先代までと血縁関係はありませんね。私は初代店主に買われて来たんです」

「買われて?」

「ええ。すでに亡くなられています。彼もその息子も孫も」

「家族経営じゃないのか」

 会話をしたことによって大分落ち着いてきたようだ。


 それでも、いつものように目の前の席に座ったのに、いつものように視線を合わせてこない。

 気付いているのに気付いていないふりをするのは彼の特技なのか、癖なのか。


「一緒に住んでいたこともございますので、全くの他人というわけではございません」

「じゃあ、先代店主に気に入られて店を引き継いだのか」

「いいえ」

 肯定されると思っていたのだろう。否定の言葉に、やっと視線が合う。


 彼はいつだって傷つくことを恐れている。いや、すでに傷ついているのに、自分は傷ついていない、気付いていないと思い込もうとしているのだ。

 気付かなければ、気付かないふりをしていれば、先に進む必要はない。

 踏み込む必要はない。

 真実に触れることはない。


「早乙女様」

 それでも決めるのは彼だ。

「昔話をしましょうか。それほど、昔の話ではございません」


 いつだって、決めるのは私ではない。彼らなのだ。

 

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