懐中時計 3
後日少し削って短くするかもしれません。
(長いなって思って削ったけどまだ長い)
「お客様は三週間後の叔父様に会いたいということでございますね」
お兄さんの言葉に「そうです」と言う。年上の人には礼儀正しくってママが言ってたし。
「三週間後は可能でございますが、どこの場所か、も決めていただく必要がございます。海外でも可能です」
どこの場所……
わたしはおじさんが外国に行っていることは知っているけど、どこかまでは知らなかった。
日本にいた時もおじさんの家がどこにあるのか知らなかった。
「場所……分かりません。分からないとダメですか? おじさんに会えませんか?」
どうしよう、やっぱりできないのかな。会えないのかな。
息をするのが苦しくなってきたので、お医者さんに言われた通りにゆっくり息をするように気を付ける。
ゆっくり数を数えるんだ。いち……に……
「未来への移動でしたら、いくらでも指定が可能でございます。お客様から叔父様にどこに来て欲しいとお願いすれば良いかと存じます」
10まで数えた所でお兄さんはそう言った。
「わたしからおじさんに? 今から?」
「今からではなくても、三週間より前でしたら問題ございません」
お兄さんはそういうと、きれいなペンをひとつテーブルの上に置いた。
「ここが本日、三週間後がここだとしますと、明日はどこになりますか?」
そのペンから離れた所に真っ白なメモ帳を置く。
ええと、時間のお話だよね。私はペンのすぐ横を指さす。
「正解です。では明日は?」
私は指をちょっとだけ横に動かす。お兄さんの言いたいことが分かった。
「指が三週間後にいくまでってことですか?」
「さようでございます」
お兄さんはにっこりわらって頷いた。そうですよってことだよね。
「今日、おうちに帰ってから叔父さんにどこに来てって言えば間に合う?」
「さようでございます」
よかった! 帰ったらママにお願いして電話をかけよう。
「場所はどちらがよろしいですか? どこでお会いになりますか?」
お兄さんの言葉に、私はうーんと考える。
三週間後、わたしは病院にいる。
ママがいるところにはママが嫌がるからおじさんはきてくれないかもしれない。
だからママがいるかもしれない病院と家はダメだ。
病院からもおうちからも離れていて、おじさんも来てくれるところ。
「7丁目のさんかく公園!」
おうちから駅までバスで行くと、途中にさんかくの公園がある。
病院とは反対方向だからママには分からないと思う。
お兄さんはガサガサと紙を広げた。これ知ってる。生活の授業で見た。町の地図だ。
「7丁目の、ということはこちらでございますね?」
地図にある三角を指さす。地図の見かたはだいたい分かる。
駅の場所とおうちの場所をお兄さんと確認して、公園の場所も確認した。
「三週間後の三角公園に行く、ということでよろしいですか? お昼前とお昼の後、どちらがよろしいですか?」
「あとがいいです!」
いつもおじさんが遊びに来るのはお昼ごはんが終わってからだった。
「では、準備はよろしいですか?」
「はい!」
「椅子に座ったまま目を閉じてください。目的地に着くと椅子は消えますので、転ばないようにご注意ください」
「は、はい」
わたしは目を閉じて足を下に伸ばして力を入れる。
急に気持ち悪くなって体を丸めるとおしりの下の椅子が消えた。
あっと思った時には遅かった。どしんとしりもちをついた。後ろにごろんと転がりそうになったのが途中で止まった。
「お怪我はございませんか?」
お店のお兄さんだった。リュックを持って立たせてくれる。
「ありがとう、ござ、います……」
しっかりお礼が言えなかったのは周りのうるささにびっくりしていたからだ。
そこはちゃんとさんかく公園だった。
ただ、ものすごく人がたくさんいた。大人も子供もデパートのようにたくさんいて、立っているだけでも誰かとぶつかった。
見回すと夏祭りでよく見る屋台や、テーブルを広げてお店をやっている人もいる。
いつものさんかく公園ではこんなことはやっていない。
びっくりしてお兄さんに掴まると、お兄さんは入口の方を指さした。
「ゴールデンウィークのイベントのようですね」
入口の所に横長の旗があった。「さんかくフリーマーケット」と書いてある。
そうだ、三週間後はゴールデンウイークだった!
「さて、お客様。いつまでここにいられるか分かりかねます。目的は覚えていらっしゃいますか?」
わたしは頷く。
「叔父様とどこで待ち合わせしていますか? どこで、待ち合わせを約束しますか?」
待ち合わせ。友達のようこちゃんと待ち合わせする時は、めだつものがある所にしてる。この公園で目立つもの。
「噴水かなぁ」
お兄さんの手を引いて噴水まで移動する。
噴水の周りは人でいっぱいだった。噴水のふちに腰かけて屋台の物を食べている人もいる。ぐるりと噴水の周りを一周してみたけど、おじさんはいなかった。
「いない……」
「他に想い出の物や思い入れのある物はございませんか?」
お兄さんが優しく言ってくれたけど、わたしには思いつかなかった。
「お兄さん、まだ時間ある?」
「どのくらいかは私には分かりかねます。すぐに戻ってしまうかもしれません」
「困る!」
叫んだ瞬間、わたしは力を使っていた。締め付けられるような胸の痛みに息ができなくなる。
立っていられなくなってしゃがみ込む。ぎゅっと目をつぶるとおじさんの顔が思い浮かんだ。
次に目を開けた時はおじさんが目の前にいた。
公園のはしっこにあるベンチに座っていた。
わたしが使える不思議な力、瞬間移動だ。
この力を使った後は体調が悪くなる。今も息が苦しい。
わたしは頑張っておじさんに駆け寄る。
「おじさん!」
おじさんはわたしを見ると目をまんまるにして驚いた。
「ゆいちゃん……!? え…そんな…君は先週……」
「来てくれてありがとう!」
おじさんは驚いた顔のまま動かない。その間にわたしはリュックから時計を取り出した。
ママがおじさんにあげるつもりで買った時計。懐中時計っていうらしい。
丸い時計に鎖が付いてる。
「これ、ママからおじさんにプレゼント!」
動かないおじさんに時計を握らせる。
「フタを開けると地球なんだよ」
おじさんの手の上でフタを開けた。
フタを閉じていると全体に銀色なのに、フタを開けた中は青色なんだ。
時計の真ん中に日本があって、そこから針が三本伸びてる。日本が真ん中にある地球儀になっていて、針が回るといろんな国を指しているように見える。そんな時計。
「日本とおじさんのいる国がつながっているみたいでしょ。これを持ってれば日本の事忘れないでしょ? ママは渡せないみたいだから、わたしが持ってきたの!」
「ママのために……来てくれたんだね……」
おじさんはボロボロと泣き始めた。わたしはびっくりしてどうしていいか分からなくなる。
「おじさん?」
おじさんは泣きながらわたしの手を握った。
「おじさん? どうして泣いてるの? おじさんとママのために持ってきたんだよ。ダメだった?」
怒られたら謝ればいいけど、こういうおじさんにはどうすればいいのか分からなかった。
「……ダメじゃないよ、ダメじゃない。ありがとう、ゆいちゃん……」
おじさんが泣きながら笑ったのでほっとした。
「おじさん、ママにも会いに来てね!」
そう言った時、目の前がぐらっと揺れた。
知ってる、これ、倒れる。めまいってやつだ。
ぐるぐる気持ち悪くて目をつぶる。おじさんの手を握ろうとしたけど失敗して、時計の鎖を握った感触がした。
「おじさん、ねえ、パパに」
パパになってよ、と言いたかったけど、ぐるぐるの気持ち悪さで声が出なかった。
前もって公園に来るように言われてても実際本人が病院にいたら公園には来ないよねってお話。
の、つもりなんだけどどうでしょうか。




