懐中時計 1
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家の近くのバス停からバスに乗って、5つ目のバス停で降りる。
すぐ横にある細い道に入って、そのまま真っ直ぐ、ずっとずっと歩いていくと見えてくる、白い壁に茶色いドアのお店。
ママと一緒に来たことがある時計屋さんだ。
休まずに歩いてきたせいで少し息が苦しい。
本当は飛んできた方が早いんだけど、飛ぶと具合が悪くなる。
今日ここに来るのは誰にも内緒だから、具合が悪くなってはマズイ。
息がいつも通りになるのを待ってから、茶色いドアを開けた。
「いらっしゃいませ」
部屋いっぱいの時計。
ママはワクワクすると言っていたけど、わたしは怖いと思った。今もそう思う。
そんな中にたった一人立っているお店のお兄さん。すごくきれいな人だ。
前に見たときと同じ優しい顔で私を見た。
「何かお探しですか?」
ちょっと嬉しかったので、わたしは大きな声でこんにちは、と言った。
ママと離れてひとりでお店に入ると、大体みんな「どこから来たの?」「お母さんは?」と初めに言ってくる。
来年はもう中学生なのに、子供扱いしてくるんだ。
このお兄さんは大人扱いしてくれた。嬉しい。
「すみません、タイムマシンありますか?」
「時間移動をご希望でしょうか。どうぞお掛け下さい」
おかけ下さいって何だろうと思ったけど、お兄さんが手の平で椅子を指したので、座れってことかな、と椅子に近付く。
大人扱いされるのは嬉しいけど、これはイジワルだ。
目の前にある椅子は高くて簡単に座れない。
悔しいから鉄棒に上るのと同じように体を両手で持ち上げてのぼり、椅子の上で体の向きを変える。ちょっとお行儀が悪い。でもしょーがないよね。
「どのようなご事情かお伺いしてもよろしいですか?」
「ごじじょう? おうかがい?」
お兄さんは難しい言葉ばかりだ。
「失礼しました。どこに行きたいのかお聞かせいただけますか?」
首を傾げたら言い直してくれた。
「三週間後の水曜日に行きたいです!」
「三週間後でございますね。かしこまりました。場所はどちらでしょう」
かしこまりました、は分かりましたを難しく言ったやつだ。
つまり、未来に行けるのだ。
「あの、本当に、未来に行けるんですか?」
「はい。お客様が行くべきだと判断されれば可能でございます」
ちょっと難しい。
お兄さんはニコニコしながら話を続けた。
「ご注意がございます。まず、日付と行く場所は指定できますが、細かい時間指定、何時に行きたい、ということを叶えることはできません。行った先、未来にどれくらいいられるかも分かりません。未来で行動することにより、未来や過去が変わる場合もございます。全てのことに関して、私たちは責任を取りません。よろしいですか?」
ゆっくりと言ってくれたけどよく分からない。
どうしよう。わたしはどうしても三週間後に行かなくちゃいけない。
私の力で未来に飛べたらいいのに。
どうしようどうしようと考えていたら涙が出てきた。
知らない人の前で泣いてもしょうがない。零れ落ちないように目に力を入れた。
「ごめんなさい、あの、よくわかんないです。でも、どうしてもわたし、どうしても今日、三週間後に行きたいんです」
「それでは……どうして未来に行きたいのか、お聞かせいただけますか?」
お兄さんは優しい顔でそう言った。
そうだ、全部話して、ダメなのか大丈夫なのかお兄さんに教えてもらおう。
わたしは目をごしごし擦ってから、話し始めた。




