インターバル’
番外編です。読まなくても問題ないです。
時間移動せずおしゃべりしているだけです。
雑談しているだけなので続いているようで別に続いてはいない。(はず)
半分の期待と半分の諦め。
最近この店に来る時はその二つを実感している。
もう常連すぎて内藤のことは友達と呼んでいいんじゃないかと思い始めている。
人が殺せそうなくらいくそ重いドアを開けるとカウンターに人の気配。その時点で僕は100%諦めた。長く息を吐く。
「あなたが行くべきだと判断されれば、私はその手伝いをするまでです」
聞き慣れた内藤の声に顔を上げると、カウンターにいたのは……ツインテールの少女だった。
……
驚いた。
今までにない最年少だ。小学校高学年くらい。トレーナーにハーフパンツ、小さいリュックを背負っている。
思わず店内を見回すが、他に客の姿はない。少女ひとりで来たのだろうか。どうやってドアを開けたんだ?
少女は勢いよく椅子から飛び降り店内を横切って壁掛け時計が並ぶ壁を見上げた。
視線の先は、鳩時計だ。少女にとってはかなり上、僕の肩ぐらいの高さにある。
あと数分で10時だ。鳩を待っているのだろう。
内藤を見るといつもの笑顔で「いらっしゃいませ」と言われる。相変わらず美青年だ。
再び少女に視線を戻した瞬間、店の時計が一斉に鳴り始めた。10時になったのだ。
店に通い始めた当初はこの大合唱に驚いたものだが、今は全く気にならなくなってしまった。
少女は鳩時計に向かってジャンプしている。
僕は少女に歩み寄るとさっと抱き上げた。
少し驚いたようだが嫌がらず、飛び出る鳩をじっと見た。
いや、鳩の出てくる窓の奥を見ている様だった。時計本体を両手で掴み、覗き込む。
しかし10回は思ったより早く終わってしまった。下りる、と言うので下すとお礼を言われる。ちゃんとした子だ。
少女はパタパタ音を立ててドアに向かい、一度内藤を振り返ったが、何も言わず出て行った。
……普通に開けて行ったな。あのドアを。
鳩時計に何か思い入れでもあったのだろうか、と鳩時計を見ると、少女が掴んだせいか斜めになっていた。片手でそっと直した…と思った瞬間鳩時計が手前に倒れそうになって慌てて両手で押さえる。
「外れた!?」
「トメ様、商品で遊ぶのはご遠慮ください」
「どう見たら遊んでいるように見えるんだよ!」
思っていたよりも重く、どうやって壁にかかっていたのか分からず慌てて振り向くと、真後ろに内藤がいた。移動が速い!
それに驚いて落としそうになるのを内藤は冷静に受け取って壁にかけ直した。
「楽しそうで何よりです」
「いや全く楽しくないよ!?」
言い返すと内藤はくすくす笑いながらカウンターに戻って……
……
「内藤、思ったより派手な靴履いてるんだな……」
「何か問題でも?」
にっこりと返される。
今日の内藤は一見黒に見えるが光の加減で濃い茶色だと分かるスーツを着ていた。そして靴がメタリックシルバーである。ソール部分が金色。若干ヒールのある靴なので後ろから見るとゴールドの上にシルバーが乗っかっているという派手さである。上品なスーツを完全にぶち壊している。趣味悪ィ。
そういえば内藤がカウンターから出てくるのは初めて見た気がする。
カウンターの上にはビロードの敷かれたトレイがあった。黄色のビー玉が一つ乗っている。内藤はゆっくりとカウンター内にしまった。大切そうだ。ビー玉に見えたが違うのかもしれない。
もうタイムリープできる時計が使えないのは分かっているので雑談のためにカウンター前の椅子に座った。
「鳩時計って思っていたより重いんだな」
「そうですか?」
「あの子、中を覗いてたけど、からくり好きなのかな。確かにどういう仕組みで鳩が出てくるんだろうとか、中に何があるんだろうとか、気になるよな」
「真面目な答えとメルヘンな答えとどちらが良いですか?」
「じゃあ、メルヘンで」
「時計の中に鳩しかいないなんて誰が言いました?」
「むしろ怖えぇよ!」
内藤はちょっと楽しそうに笑った。
「隣にいる人が自分と同じものを見ているという証明は出来ないって言うよな。哲学だか生物学だかで」
内藤はそうですね、と言いつつカウンター内から恒例となった湯気の立つ紅茶を出した。
「角度や距離も違いますし、色がどのように見えているかは本人しか分からないものですし、瞳の色が違うと見えている色も違うのではないか、という説もありますね」
「視力によっても見え方が違うよな。うちの息子も視力悪くてさ。まだ小学生なんだけど」
「…それは不便ですね」
「まだ眼鏡かけるほどじゃないけどな。僕も妻も目は良い方だからどうしていいか分からなくてさ、堂本に相談してる」
「ああ、ご子息と味覚が一緒のご友人」
「そうそう。あいつは中学くらいから眼鏡だったらしいんだ。家族全員が眼鏡らしくって眼鏡族って呼ばれてたんだってさ」
「……」
「今のは笑うところだぞ」
まあ、内藤がこの程度で笑うとは思えないけど。
「トメ様はほぼ毎週ご来店いただいてますけど、ご家族でお出かけにはならないのですか?」
「最近はないかな。僕の仕事は忙しくて、平日は夜遅いから、土日はゆっくりしててって言ってくれるんだよ。妻と息子だけで出かけてるみたいだし……そんな顔しなくてもちゃんと家族で出かけることもあるよ。最近少ないだけで」
ものすごく可哀想なものを見る目で見られている。心外だ。
「トメ様から見る家族と、奥様が見る家族は違いが大きそうですね」
「夫婦円満だよ! 息子だって誕生日に似顔絵描いてくれたよ!」
「さようで、ございますか」
何か言いたいのを飲み込んだ、という顔である。
不服を表すために乱暴に紅茶を飲んだが、それをもったいないと思うほど美味しい紅茶だった。
「そういえばこの紅茶、いつ淹れたんだ」
「あなたが幼女を抱きしめている間に」
「言い方!」
困ったやつだな、みたいな顔をされたが、むしろ内藤が困ったやつだ。
内藤の表情も初めてこの店に来た時よりバリエーションが増えたと思う。
他の客がいる時はいつもの微笑かにっこり笑顔なので、常連となってしまった僕に対しての友情だと思いたい。
綺麗な顔立ちの内藤が、震えるほど美しい笑顔になったのは、今の所一回だけだった。
「……おかわりはないですよ?」
「前も同じことを言われたなぁ」
僕以外の奴だって内藤の顔が綺麗だと思うだろう。凝視されることはないのだろうか。
それとも僕が物欲しそうに見えるのだろうか。
「さっきの女の子もタイムリープしたんだよな?」
「申し訳ございませんが、他のお客様に関してはお答えいたしかねます」
「会話とかで分かってるんですけど?」
「察していただくのと、私が申し上げるのとでは意味が違います」
なるほど。
「ここに通い始めてもう半年なんだよな」
「ご愛顧いただきありがとうございます」
「それで、さ」
この店には多分、常連が僕しかいない。いつまでも用が済まないのは僕だけだろう。
「さっきの子にも言ってたけど、あなたが行くべきだと判断されれば、というのは誰に判断されればいいんだ?」
僕が時計を使えない理由を教えてくれ。
そう言ったつもりだったのに、内藤はまた美しい笑顔で僕を見た。
どうでもいい話ですが、内藤にはモデルがいます。(靴は普通です)




