1-1 成長と旅立ち
兄弟がこの村を出ていった日からさらに5年の月日が経っていた。
母はルドの使っていた物をそのままにしており最初の1,2年はずっと落ち込んでいたが父の献身により今では昔のように笑ってくれている。しかしルドの事をたびたび思い出しては悲しそうな顔をしている。
父はダメージが少ないと思っていたがそうでもなかった。酒の量は増え、毎晩一人でルドの事を思い出し落ち込んでいる。ある意味母さんよりダメージがでかかったのかもしれない。
そして俺は…
「はぁぁぁぁああああああ!!」
毎日のように森に入り、村からは音の聞こえないような場所で魔法の修行をしていた。
「混沌の黒き力よ すべてを飲み込み すべてを吐き出せ」
これは詠唱
使う魔法によっては1日かかる場合もある。
俺はこれを短くし、最終的に何も詠唱せず発動する研究をしていた
しかし今のところ既存の魔法を無詠唱で発動出来た試しはなく…
「ブラックホール!!」
発動までに3詠唱するしかない
「これが限界だな」
俺は1日かかる魔法を無詠唱にしたかったのだが無理だったらしい。
大体半日かかる魔法を2詠唱で。そこまで長く無い魔法や通常魔法は1詠唱必要となってしまう。
「なんとか無詠唱にしたかったのだがな…」
目の前のブラックホールを消す。ちなみにほとんどの魔法は発動できても消すことは出来ない。これは俺のオリジナル魔法のディスペル。魔法の効果をなくすことの出来る魔法だ。ちなみに詠唱はない。
「ディスペルを完成させた時に行けると思ったのだが。無駄だったか。」
いや諦めるのは早い。何かしら条件があるのかもしれない。
「もう一度…はぁぁぁあああああ!!」
俺の魔力で森がざわめく。魔力の発動は出来ても魔法陣を描くときにどうしても詠唱しなければ陣を書けない。そして
「森の精霊よ わが呼び声に応えよ」
発言と共に魔法陣が現れる。
「リーフストーム!!」
そして形となって出現する……どうしても口に出さないといけないのか。目の前の嵐を消す
「だめか」
そろそろ戻らないと母さんが心配するな…あの一軒以来少しでも時間がずれると母さんはパニックになる。早めに戻らなくては
「回復せよ ワイドヒール」
魔法の実験に使っていた場所の痕跡を消し家に急ぐ。おっと、忘れてはいけない。
「隠匿せよ オプティカル・カムフラージュ」
角を隠さなければ
俺の角はこの5年で大きくなっていた。魔法で隠さなければ目立ってしまうほどに。
俺は仕留めた獲物を背負い家に帰った
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「ただいま」
「おかえり、今日はどうだった?」
「ん、デカめのボアとキノコ狩って来た。外で血抜きしてるからちょっと待っててくれ」
「あら、今日は少なめね?まあ他のうちにおすそ分けする分が出来ないから助かるけど」
「まあね」
いつもはもう1匹くらいデカめのやつを狩ってくる、しかし今日は母さんの顔色が悪いため少なめにしといた
「解体して持ってくるから母さんは他のお願い」
「キノコね、こんなに捕まえたのね?まさか気を使ってくれた?」
「それ食べて元気になってな」
「ありがと」
キノコはとても体にいい、軽い症状の病気なら食べて寝てしまえば治ってしまうほどに。ただ毎日捕まえてこいと言われたら少し難しい。キノコは足が速く小さいため俺でも捕まえるのに苦労する。
「じゃあ先にスープ作っちゃうわね」
「おう」
「おとーさん畑にいるはずだから呼んできてくれる?」
「わかった」
俺は言われた通り畑に向かった
「おーい父さん。そろそろ切り上げよう!」
「はいよーきりがいいとこで上がるよ!」
畑作業をしている父さんに声をかけ俺はボアの解体を始めた
明日……明日で俺は18……村を出て許される歳だ
この村には18になるまで村から出てはいけないと定められている
森の仕事は出てしまっているが仕事なので良しとされていた
そして俺たちが拾われてから明日で18年…
やっと迎えに行ける。どこかにいるはずのルドを探しに。
しかし。父さんと母さんは村を出ることを許してくれないだろう。だからと言って黙って出ていけば今度こそ二人とも廃人になってしまうかもしれない。
「ごり押しになるかもな。」
たとえやめろと言われてもいい。それでも俺は…
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「ご馳走様」
食事を終え食器を洗う…二人がそろっている今の内に話さなければな…
「レット、ちょっとそこに座りなさい」
「ん?なんだ?」
父さんが俺を呼んだ
俺は食器を置き、席に座る。何やら二人とも真剣な顔をしている。チャンスだ、二人の話しが終わったら村から出て行く事を話そう。
「明日で2人とも18だな」
「え、ああ、そうだな」
「………」
母さんは黙ったまま俺を見つめている。
「………行くのか?」
「…………え?」
行くのか?ってまさか…
「ルドを探しに行くのだろう?」
「………」
父さんは真剣にこちらを見、母さんは目じりに涙を浮かべながらなおもこちらを見ている。
まさか………分かってたなんて
「ああ、行くよ」
「…………そう……か」
「……っ」
母さんの嗚咽が聞こえる、父さんも目じりに涙が浮かび始めた。テーブルの上に灯してある魔法の光が二人の目の輝きを反射している。
「いくな、と言いたい」
「ああ」
「離れないでくれと言いたい」
「ああ」
俺は父さんの言葉一つ一つに目を見てうなずきながら答えた
「だけどお前は行くんだよな?」
「…ああ」
そうか、そうだよな。二人とも俺の家族だもんな
どこかでそんな事を考えている俺を察したのだろう
「なら行ってこい!!お前が納得するまで!!」
「あぁ」
「……っ!気を付けてねっ!」
「……あぁ」
二人の顔が見えなくなる。ちくしょう邪魔だ!!二人の顔を見せてくれ!
「俺もいきたい、しかし母さんを守らないといけない。だからお前に任せる!みんなで一緒に母さんの得意なシチューをたべよう!!」
「……ああ!」
父さんも母さんも涙で顔がぐちゃぐちゃだ、それでも必死に笑顔を浮かべてくれている。俺が行きやすいように。俺が何の心配もなく村を離れられるように。
必ずルドを連れて帰ってくるから。それまで元気で待っていてくれ!
3日後。親の顔を見て決心が揺らがないように、朝早くに家を出た
「おい」
しかし二人は起きて俺を見送ってくれた
「病気に気を付けてな」
「大丈夫だよ、父さんもお酒の飲みすぎには注意しろよ?」
「ケガしないようにね?」
「ああ、母さんもな」
俺は振り向かずに手を振った
「行ってきます」
「「いってらっしゃい」」
こうして俺のルド探しの冒険が始まった。
みんなで一緒に笑うために。
作者です
この話は書いていて泣いてしまいました。
特に家族のシーンは力を入れたつもりです。
誤字とかあったら最悪だな
ではまた
※次回更新25日の23時