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人格破綻者の異世界放浪記  作者: テケテケさん
一章 クラム編
9/22

第七話 狂気に染まる

少し空きました。


前半 主人公


後半 少女


視点でお送りします。


 「怪我はない?」

 

 心から心配したような表情を顔に貼り付けて、囚われた少女に歩み寄る。

 

 「っ!!」

 「ん? どうしたの?」

 

 僕が近づくと、少女が顔を伏せ、身を震わせる。

 まあ、さっきの一部始終を見てたら、こういう反応になるのも仕方ないかもね

 周りの景色だってトラウマものだと思う。


 「い、いえ! け、怪我なら大丈夫です!」

 「そう、なら良かったよ。……立てるかな?」


 傷物ではないことが確認できた。

 今日はついてるね♪

 僕は、少女を拘束しているロープを解いて、両手を自由にする。


 「っ!! ス、スミマセン!! 腰が抜けてて、今はとても…」


 すると、自由になった両手で、破れたワンピースの裾を引っ張り、股下を抑える少女。

 僅かにだけど、床が血以外の液体で濡れているのが見えた。


 なるほど、おおかた恐怖のあまりに失禁して、それが知られるのが恥ずかしいって事かな?

 こういう時は、そっと触れないでおいてあげるのが吉だ。

 何か、気を紛らわせてあげよう。

 事を起こすなら、ある程度気を許してくれてからの方が、ずっと良い。


 「いや、いいよ。えっと…」


 「あっ、すみません! セ、セラって呼んで下さい」


 「わかったよ。セラ。年は幾つ?」

 「ヒャウン!」


 ……ヒャウン?

 そんな歳あったっけ?

 いや、今のは名前の所に反応したような…?

 

 「えと、今のは違うんです! えと! 歳は六才です!!」


 え、六才?

 僕より年下じゃないか!

 全然そんな風に見えない、良くて一つ上の年齢かと…。

 というか、六才にしては一つ一つの所作が、女性らしく完成している。

 雰囲気が大人びていて、気品が感じ取れるし……。

 何処かの貴族のご令嬢だろうか?

 ミリィとは大違いだ。

 

 「ん~。 セラは貴族なの?」

 「…え? えと……。はい! そうです!」


 だとしたら、ここで彼女を殺ってしまうのは得策じゃないかも。

 一貴族のご令嬢が、ゴブリンの巣で無惨な死を遂げたことにでもなったら、大規模な調査が行われることになるかもしれない。

 足が付くような事はないだろうけど、この森で活動・・しにくくなっちゃうな。


 「あ、あの…」

 「ん? 何かな?」


 僕が考えごとをしているのを好機とみたのか、今度はセラから声をかけてくる。

 

 「貴方様は──」


 頭を上げるセラ、彼女の顔はまだ子供とは思えないほどに綺麗だった。

 松明に照らされ、髪色がエメラルドグリーンだとわかる。

 大人びた印象も相まって、子供の体ながらにその容姿は、とても艶やかだった。

 ホントに子供?

 少なからず、衝撃を受けていると、更なる衝撃の一言が彼女から飛び出る。

 


 「貴方様は──私の騎士様でしょうか?」

 「……は?」


 何を言ってるんだ?

 この娘は?

 

 「えっと、どうしてそう思ったのかな?」

 「ああ、やっぱり! 貴方は私の騎士様なんですね!!」


 ダメだ。

 会話になってない。

 というか決定された。

 どうしてそういう結論に至るの?

 自分で言うのもアレだけどさ。

 普通、嬉々として魔物を惨殺して、挙げ句の果てに血を浴びてアヘってる姿を見たら、ヤバい奴だと思うんじゃない?

 どうして騎士なの?

 この世界の騎士って僕みたいな狂った奴ばっかなんだろうか?

 もし、そうじゃなかったら、僕が騎士に見えるセラは、かなり狂ってる。

 僕が言えた立場じゃないけど……。


 「ああ!! 夢だったんです! 騎士様に危ない所を助けて貰うのは…」


 うん。

 この子、ヤバい子だね。

 どうしよう。

 対処に困るなぁ。

 

 人が変わったように、目を輝かせて言葉を捲したてるセラ。

 僕が適当に相槌を打ちながら、行動・・を起こすタイミングを伺っていると、僕がやって来た通路から人の声が聞こえてくる。


 どうやら、ゲームオーバみたいだ。


 「助けが来たみたいだね」

 「ですから! 私は騎士様と…え? あ、そうみたい…ですね……」


 落胆した様子のセラ。

 情報を漏らさないように釘でも刺しておこうか。


 「セラ、僕の事は誰にも言わないでくれるかな?」

 「え!? 何故ですか、騎士様!!」

 

 「お願い、このことは二人だけの秘密にしておきたいんだ」

 「二人、だけの秘密……! わ、分かりました!」


 その言葉を聞いて、一先ず安堵。

 なんか、セラが軽くトリップしてる。

 取り合えず、ここから出ないとね。

 入り口から脱出するのは無理そうだ。

 今、ここに向かってきてる人と鉢合わせることになる。

 

 身バレするのは避けたいし、見つかったらこの状況の説明をさせられるのは明白だ。

 出来れば、使いたくなかったけど、背に腹はかえられないな。


 「セラ、それじゃあね」

 「え、あの、どちらへ?」

 

 「大丈夫。またいつか会えるよ」


 ──【再現】、転移石。

 

 「あ、せめてお名前を──」


 再現した石へ魔力を込める。

 次の瞬間、僕の姿はその場から掻き消えた。


 


◆◆◆◆


 「あ、せめてお名前を教えてください!」


 咄嗟に声を上げましたが、その時には既に、騎士様の姿はありませんでした。

 

 「……行ってしまいした」


 助けて貰ったお礼もしていないのに……。

 

 胸が苦しい。

 何か、心に大きな穴が空いたみたいです。

 

 「姫様ーー!! ご無事ですか!? 姫様ーー!!」

 「隊長、道はこちらに繋がってます!」

 「姫様~。いらっしゃるならお返事を下さい!」


 この声は……騎士団の方達でしょうか。

 ああ、騎士様の声の余韻に浸りたいのに、もう少し静かにして貰いたいです。

 

 ──セラ


 「ハァウン!」


 あの声を、初めて異性の方に真名を呼ばれた時のことを思い出すだけで、お腹の下がキュンとなります。

 こんなの初めて……!


 「これは……あの時と同じ?」

 

 思い出されるのは、騎士様が醜悪なゴブリン達を嬉々として殺していくお姿。

 

 おびただしい数のゴブリンに囲まれ、自分の未来を悟って絶望していた時、突如として表れた彼。


 並み居るゴブリン達を相手に殺戮の限りを尽くし、周囲に屍を築いていくその姿は、とても残忍でそれでいて、とても美しかったです。

 彼が腕を振るうたびに飛び散るゴブリン達の血は、彼を彩る花弁のようで、響く断末魔は彼を引き立たせる音楽のようで……。

 今までの、血や他人が傷つくのが大嫌いな私なら、そのおぞましい光景に目を瞑り、じっと終わりが来るのを耐えたでしょう。


 ですが、私は彼が繰り広げる殺戮劇──から目を話すことが出来ませんでした。

 彼の、ゴブリンを一匹屠るたびに喜悦に染まるその表情を見てると、どうしようもなく、胸が昂ぶるのを感じました。

 お腹の下辺りから、何か熱いモノが溢れてしまったのはこの時でした。

 騎士様に見られてしまったかと思うと少し不安です。


 「これが、噂に聞く”恋”なのですね♪」


 王宮で平和な暮らしを続けてきた私に取って、彼の姿はとても新鮮で刺激的で、物語に出てくる騎士様。

 

 私が恋い焦がれた、退屈で、閉鎖的な日常から救い出してくれる騎士様その人でした。



 ああ、再び貴方に会えるのを、私は待ち続けます。


 そして──


 「今度こそ、私をこの退屈な日常から救い出してくださいね」


 



 

 ──この日、一人の少女が狂気に染まった。


少女は、英才教育を受けているので年齢に比べて、かなり達観してます。


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