第五話 哀れなゴブリン
ゴブリンの巣窟 前編です
お待ちかね、主人公の狂気の片鱗をご覧下さい。
視界には、五匹程のゴブリンが居る。
どうやら、本当の情報だったみたいだね。
◆◆◆◆
今朝、席についてご飯を食べていると、僕の背後から、イル姉がこんなことを囁いた。
『出勤する際に、番兵さんからお聞きしたのですが、西の森で大量にゴブリンが確認されたそうですよ? 近くに巣でもあるんですかね? アル君』
その時は思わず、食事の手が止まっちゃったけど慌てて取り繕った。
『何が目的?』
勿論、イル姉が僕にその情報を教える義務はない。
その情報の信憑性は皆無だ。
もし、迂闊にその場所へ向かってしまえば、何か危険な罠に巻き込まれるかもしれない。
『ん。何がです? 私は、アル君が危険な事をしないように釘を刺したつもりですが、好意って奴ですよ?』
よくも、いけしゃあしゃあと。
だって、イル姉だよ?
ただ、僕のために好意で教えたなんてことは絶対ない。
その裏には、必ず別の理由が潜んでる。
まあ、フラストレーションが溜まってるのも事実だし、ここは素直に好意とやらに乗っかろうと思った。
◆◆◆◆
で、半信半疑でここまで来たんだけど、早々に当たりを引いたみたいだ。
ここら辺の地形はよく知ってるから、ゴブリンが巣にしそうな所も大体、見当は付いてた。
まあ、僕の目的をシンプルに言えば、溜まったフラストレーションをゴブリン共で解消したい。
これだけ。
昨日、殺人衝動を抑制出来なかった為に、今、僕は早く殺戮を繰り広げたくてたまらない。
見張りのゴブリン達の数を見るに、巣の中に居るゴブリンの数は相当に多い事が伺える。
小さい巣なら、五人で外の警戒なんかするはずないしね。
この巣を蹂躙すれば、二日間は殺人衝動を抑えることが出来ると思う。
「さてと、ゴブリンと戦うとなると、久しぶりにアレが必要かな? 【再現】」
ゴブリンは、雑魚だという認識が強いが、そうでもない。
魔物・魔獣には、ステータスに危険度という項目が追記されているらしい。
ゴブリンは危険度Eの魔物だ。
ただ、この評価はあまり適切じゃない。
彼らは、低級の魔物でありながら、知恵を持ち、集団で群れをなし、仲間同士で連携をこなす。
また、繁殖能力、成長速度に秀でている為に、ゴブリンの進化個体──ソルジャーやメイジなどの上位種が群れの中にかなり紛れている事がある。
また、種族的に強姦を好むために、女性はこいつらに一人で相対してはいけないとまで言われる。
上記の事から、群れ全体での危険度を考えれば”C”だと判断できる。
僕の総合ランクは”D”よって、僅かに力不足だ。
そこで、僕が再現したのは補助魔法【身体強化】だ。
体が軽くなるのを感じる。
問題なく発動したみたいだね。
爪先を地面でトントンする。
うん。
問題なし。
「アハッ♪ どれ位、楽しめるかな~?」
もう待ちきれないや。
大量のオヤツを前にして我慢できる程、僕は大人じゃないんだ。
一呼吸してから、僕は茂みから飛び出した。
「グギォ?」
「ガギャ!!」
「ギャギャギャ!!」
「ンキャオ!!」
あ、二、三匹がこっちに向かってくる。
と、同時に何かが僕の頬を掠める。
「レンジャーがいるのか……♪」
この時点で、上位種に遭遇するなんて!
思わず頬が緩む。
「どんどん撃ってくるといいよ!!」
その言葉に応えるように、数十本の矢が飛んでくる。
その全てを躱わしながら、僕は一匹目のゴブリンと相対する。
「ギャオ!!」
「わっと!」
彼の持つ短剣が横なぎに振るわれるが、難なく躱す。
短剣を剣みたいに振ってちゃ世話ないね。
「違う、違うよ。ゴブリン君? 正しくは──こう!!」
飛んでくる矢と振るわれる短剣を避けながら、目の前のゴブリン君へ、再現した短剣を逆手に持って脳天を突き刺す。
仕方ないから、受講料は君の”命”って事で。
「アギャ…」
お、まだちょっと息があるっぽい。
二本足で、倒れまいと踏ん張るゴブリン君。
と、そこに僕目がけて矢が複数本飛んでくる。
丁度いいや♪
僕は、ゴブリン君(瀕死)を僕と被るように短剣を引っ張って移動させる。
結果──
「ゴギャ、ガ、ギャギャ、アグッ……、ッ」ドサッ
全矢命中、身を呈して僕の肉壁となってくれたゴブリン君は、力なく、地面に横たわる。
なー無。
「あーあ、可哀想に」
仲間を自分の手で殺してしまったレンジャーの表情は、悲壮感で溢れている。
「アハッ♪」
そういう、人間みたいな反応をしてくれるところ!
それが欲しいんだよ! 僕は!!
昨日殺した魔獣じゃ、こうはならない。
奴らの反応は淡泊すぎてつまらない。
ゴブリン達の、魔物のくせに、妙に仲間意識が高い所もプラス点だ。
レンジャーは、悲壮感を漂わせながら、次の矢をつがえ──
「あ、もう君の役目は終わりね」
─ることが出来なかった。
レンジャーの頭部には、僕の投擲した短剣が深々と刺さっている。
力なく、後ろに倒れ込むレンジャー。
「ギャオ!!」
「「ギャギャギャ!」」
そして、レンジャーが倒されたのを見たゴブリン達の行動は早かった。
一匹は仲間を呼びにUターン、他の二匹は怒りを露わに、それぞれ剣と槍を持って向かってくる。
対処に困るけど、取り合えずは……。
「行かせるわけないよね?」
接近してきたゴブリン君達の攻撃を短剣で捌いてから、捌いた短剣をゴブリンUへ向かって投じる。
強化された体から放たれた短剣は、数百メートルの距離をゆうにとんで、見事ゴブリンUの足に突き刺さる。
「イギャー!」
倒れ込むゴブリンU、足へ刺さった短剣が貫通して地面にも刺さったため、身動きが取れないみたいだ。
痛みに醜い顔を更に歪めて必死に短剣を抜こうとしてるけど、ビクともしない。
彼は、最期にじっくり料理される権利を得た。
僕は、目の前の二匹のゴブリンへ視線を向ける。
なかなかの剣と槍捌き、お互いに異なる間合いから流れるような連携を繰り出してくる。
とても、ゴブリンがなせる技だとは思えないな。
「君達は仲が良いみたいだね!」
お互いの呼吸が合わないとこうはならないし。
というか、どうも姿形が似通ってる気がする。
双子かな?
よし、右から攻撃してくるゴブリン君をライト、左のゴブリン君をレフトと命名しよう!
僕は、ライトの剣をしゃがんで躱し、先程投げた短剣の代わりに長剣を手元に再現。
しゃがんだ状態のまま、レフトの両足を斬り飛ばす。
「ア?」
「ギャギガオ!!!」
自分の身に何が起きたか理解出来ぬまま、地面に転がるレフト。
レフトの足を見て怒りが再燃したライトの鋭い斬り降ろしをバックステップで避ける。
「仲が良い、君達にはっと!!」
「ギャァ!」
そして、立ち幅跳びの要領で思いっきり跳躍して、ライトの顔を踏みつける。
顔を踏まれてバランスを崩し、レフトの上に覆い被さるライト。
踏みつけた反動で、宙へ浮き上がる僕。
空中で長剣を構える。
「仲良く一緒に、ゴートゥーヘブン!!」
そのまま、重力に従って落下。
「「グッギャアアアアアア!!!」」
哀れな二匹のゴブリンは、それぞれ頭とお腹を長剣で貫かれて、仲良く地獄へと旅立った。
「はあ、臓物を纏めて貫く感覚、たまには長剣もいいなぁ♪」
普段は、その取り回しの良さと扱い易さ、斬りつけた時の僅かな肉の抵抗がダイレクトに伝わる短剣を愛用してるけど、たまには違う武器も良い物だと思い直すなぁ。
「…うん。壮観なり!」
一通り、自分の作り上げた亡骸に酔いしれた後、遠くで身動きが取れなくなってる、哀れなゴブリンUの元へ向かう。
「ヒッ…アアッ」
僕が近づくと、ゴブリンUは足に刺さった短剣を抜き取る事を諦めて震え始める。
そんな、悪魔を見るような目をしなくても良いじゃないか。
こんなにキュートな子供に怯えてちゃダメだと思うよ?
「ホイ♪」
──グサッグサッグサッ!
「ギャァア!」
短剣を三本投げて、ゴブリンUの四肢を固定する。
既に、どう殺すかは決めてある。
ゴブリンUの顔へ手をかざす。
「楽しんでね♪ 【再現】」
瞬間、彼の目が小さな炎に包まれた。
「ッ!! ギャ、ギャギィヤアヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
およそ、目を焼かれるという、希少な体験を心から味わい、狂喜するゴブリンU。
目に灯された炎を消そうと、必死に顔を振るが、全く意味がない。
「そんなに嬉しいのかい? でも、これからだよ?」
徐々に、目に灯る炎は勢力を増していく。
顔を炎に包まれ、首に燃え移り、短剣で地面に固定された四肢へと伝う。
生きながら、炎にゆっくりと焼かれていく体験に、体をのたうち回らして喜ぶゴブリンU。
ちょっと悲鳴が五月蝿いかな?
傍にしゃがみ込んで、手をかざす。
うん。
良い火加減だね
目を伝って、脳まで焼かれ始めたのか、徐々に言語がおかしくなる。
「フヵbッジュフイエhッッッァアア#※・⇧@@&*フドb!!!──────」
そうして、全身が炎に包まれる頃には、物言わぬ屍と成りはてた。
炎が消えるのを確認してから、僕は立ち上がる。
ゴブリンUに再現した魔法は、生活魔法の一つ【着火】。
料理する時や、焚き火を起こしたり、湯を沸かすときに使う魔法だ。
本当は、炎属性の下級魔法とかでも使えたら良かったんだけど、僕の魔力値じゃ無理だったからね。
仕方なくこちらで代用した。
で、感想としては今一だった。
「んん~。殺し方は良かった気がするけど、試す相手を間違えたかな?」
生きたまま焼き殺すっていう発想はなかなかだったけど、なにぶんゴブリンの苦しむ声は汚いからな~。
それ程、そそられはしなかったね。
楽しかったけど。
殺人狂の僕にとって、殺人は食事をとることと同義だ。
そこには勿論、食事と同じように、殺す相手にも好き嫌いはある。
分かりやすく図で表すと……。
女性>子供>男性>魔物>魔獣>虫>霊体
大まかには、こんな感じだ。
そりゃ、僕だって男の子だもの。
女性の血飛沫を見たり、断末魔を聞いた方がそそられるし、興奮する。
その点では、ゴブリンの巣はとても好条件な狩場といえるんだよね。
ゴブリンは、非常に繁殖力が高くて、年中発情状態で、強姦が大好きだ。
そこに、種族の壁は無い。
そして、ゴブリンは、捕獲した女性は巣に連れ帰ってから、美味しく頂戴する習慣がある。
つまり、ゴブリンの巣には運が良ければ、人間の女性が捕らわれている可能性があるんだよ。
あ、勘違いしないでよ?
別に、その女性を助けようとか思ってるわけじゃない。
ただ単に、もしその女性が生きてたとして、この場でその人を殺しても、それはゴブリン達へ罪をなすりつける事が可能って事だ。
こんなに美味しい話があるだろうか。
いや、無い。
今日、上手く行けば今世で初めて人を殺せるかもしれない。
「アァァァ♪ 楽しみだなぁ……」
期待に胸を躍らせて、僕は洞穴へと足を踏み入れた。
主人公は異世界初心者ですが、前世の生い立ちから、戦闘センスは抜群です。
魔物を殺すのを躊躇う、殺した後に嫌悪感に陥る
あり得ません。
描いてて思います。
この主人公、序盤から魔物相手にヒャッハーしすぎ