第一話 アルアイン・クラム
主人公の名前が決まりました。
やあ、久しぶり。
え? そんなに時間が経ってない?
いいじゃん。
こっちの世界では結構な時が経ったんだよ。
時間が経つのは早いよ?
僕がこの〔フォレスティア〕に生を受けて、はや九年になるかな。
今日は僕──”アルアイン・クラム”の十歳の誕生日だ。
「アル、お誕生日おめでとう」
僕の目の前に、年輪のような模様をした、ホールケーキが運ばれてくる。
そのケーキを運んできたのは、まだ十代だといっても通じるほどに若々しい容貌の女性。
僕の、今世の母親──”アイン・クラム”だ。
僕の髪は、彼女譲りの銀色だ。
「ありがとう! 母さん!」
運ばれてきたケーキに頬を綻ばせて、僕は四人家族用の木製のテーブルへ着く。
「今日で、お前も七歳か」
そう言って、テーブルを挟んで対面に座っているのは、僕と同じ金色の目を持った男性。
僕の父親──”カルロイ・クラム”だ。
「うん。そうだよ! 父さん」
僕は、運ばれてきたケーキに舌鼓を打ちながら両親と他愛のない会話をする。
この世界に来て十度目の誕生日パーティー。
いや、前世では一度だけ、誕生日を祝って貰ったから、僕にとって十一度目の誕生日パーティーかな。
僕が生まれたのは、『王都』と呼ばれる、首都の機能を擁した大都市から数百キロメートル離れた、『クラム』と呼ばれるへんぴな田舎町だ。
え? 僕の性と町の名前が一緒?
うん。
クラムは町の名前だよ。
この世界では、貴族や領主の家系にしか性が与えられないんだ。
要するに僕は領主の息子って事だ。
まあ、領主って言っても、形だけだよ?
別に偉いって訳じゃない。
へんぴな田舎町だから、街の人皆が家族みたいな関係だよ。
豪勢な待遇を受けている訳でもない。
お手伝いさんはいるけど。
住んでる家も、木造建築の一軒家だし。
ログハウスって言うのかな?
とにかく、良くも悪くも平凡な生活環境さ。
そして、僕がホールケーキの残りを両親に渡そうと立ち上がった時。
唐突に、僕の後ろのドアが、勢いよく開かれる。
「アルくーん!! お誕生日、おめでとぉおお!!」
そして、開け放たれた扉から飛び込んできた少女に、ハグ(タックル)という誕生日プレゼントを貰う。
「ぶふっ!!」
当然、少女の体重を脆に受けた僕の顔は、食べかけのケーキにダイブする。
そして、何事かと驚く両親だったが、僕に抱き付いている少女の姿を確認すると表情を緩める。
「あら、ミリィちゃん。いらっしゃい♪」
「ミリィ。アルの誕生日を祝いに来てくれたのかい?」
彼女は”ミリィ”
近所に住んでる同い年の女の子で、親同士の中がとても良い。
まあ端的に言えば幼馴染みって奴だね。
と、ちょっと息苦しくなってきた…。
テーブルに両手を付いて、ケーキから顔を上げる。
「ちょっと…。ミリィ? どいてくれるかな?」
「あ、アル君。ゴメンね?」
体が軽くなったので、体を起こす。
「誕生日おめでとう。アル君!」
「うん。ありがと」
母さんから濡れタオルを受け取って、クリームでベタベタの顔を拭く。
全く、毎朝元気だなぁ、この子は。
ニコニコと愛嬌のある笑顔を浮かべる彼女の顔を、クリームで汚れたタオルで包む。
「うひゃっ!! ベトベ…ムグゥ…ト……プハッ。アル君! 何するの!?」
「何って、お返しだよ。さっきの」
やられたらやり返すのが僕のモットーだよ?
「ヒドイよ~。ムグゥ…」
再び、タオルで包んでミリィの可愛らしい顔をベタベタにする。
母さんと父さんは僕等に、まるで子犬のじゃれ合いを見ているような、生暖かい目を向けている。
……女の子にするには少々ヒドイ事をしている自覚はあるんだけど?
この世界では何かしらのスキンシップに見えるんだろか。
僕等のスキンシップ(?)は、お手伝いさんが出勤してくるまで続いた。
◆◆◆◆
「アル、今年はミリィと家周りをしてくるか?」
「え、いつも父さんと周ってるのに?」
クリームを洗い落としたミリィの顔を、乾いたタオルで拭いていると、父さんが言った。
家周りとは、毎年僕の誕生日に行われる儀式のようなもので、その名の通り、各家庭を訪ねて挨拶をして周るのだ。
確か、一年間の成長と、無事に歳を重ねれた感謝を街の人達に伝えるとかそんな意味だったかな。
「ああ、今回は仕事の都合で、一緒に行けそうもない。幸い、お前も大きくなったし、子供同士で周ってみなさい」
「でも──」
「いいんですか!? おじさん!」
大人しくしていたミリィが、その話に食いつく。
挨拶に行った家からは、ささやかなオヤツが貰える。
それが狙いだろうね。
たぶん。
「ああ、二人で行ってきなさい。くれぐれも、失礼の無いようにな?」
「はい!!」
「…うん」
半ば強引に、ミリィの同伴が決定した。
◆◆◆◆
キャンキャン!!
家周りの途中、町中で犬の鳴き声が聞こえた。
「あ、ワンちゃんだ!」
ミリィが指差す方向に目を向けると、確かにいた。
道端の側溝から顔を覗かせた子犬が。
どうやら身動きが取れなくなったみたいだ……。
「本当だ。外に逃がしてくるよ」
ミリィにそこにいるように言ってから、子犬に近づいて拾いあげる。
「私、アル君のそういう所、好きだよぉ?」
「はいはい」
いつものやり取りを適当にあしらって、僕は子犬を抱えて門に駆けていった。
──数分後
「あ、お帰り~。ワンちゃん、どうだった?」
僕がミリィのもとに戻ると、彼女は道端で花を眺めていた。
「怪我は無かったよ。元気に走って行った」
無難に言葉を返す。
「良かったぁ。あ、アル君! 手に血が!? どうしたの!?」
「ん? ああ、元気な子犬だったからね。手を噛まれちゃって、たいしたことないよ」
「わ、私が舐めて綺麗に「いや、いい」─ケチ!!」
服の裏地で血を拭う。
「さ、バカなこと言ってないで、行くよ」
「あ、待ってよぉお!」
そう言って、僕等は家周りを再開した。
まだ、話の序盤はダーク要素少ないです。
徐々にダークにしていく感じですね。
感想・ブクマ、待ってますw