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人格破綻者の異世界放浪記  作者: テケテケさん
一章 クラム編
16/22

第十三話 『半魔』

更新おくれました!


スミマセン!!

 「あ? あのガキ殺る気だぜ?」

 

 短剣を構えた僕を見て、大柄な男が嘲笑する。

 まあ、普通なら子供の可愛い抵抗だと思うだろうね。


 僕は、構わず男に突進する。

 腰を低く落として、全体重を前方へ、数メートルの距離を詰めて、男の喉元目掛けて短剣を突き出した。


 「──んなっ!!」


 間一髪、男は手に持っていた大斧でこれを防いだ。

 防がれちゃったか、だけどね…これで終わりじゃないんだよ。


 「っ!! カハッ…」


 空いている手に二本目の短剣を再現し、斧に足をかけて男の頭上を越えるように宙返り、から両手の短剣を交差して男のうなじを切り飛ばした。


 これで、こいつは戦闘不能。

 

 やっぱり、いつもみたいな享楽的な感情は湧かないみたいだ。

 早く戦闘を終わらせて、ミリィの話を聞きたくてしょうがない。

 はあ、戦闘が二の次だなんて、僕らしくないなぁ。

 いかにスピーディーに相手を殺すか…。

 今はそれだけを考えてるよ。


 動かなくなった男を一瞥し、もう片方の男へと目を向ける。


 「…へえ」


 すると、もう一人の男はいつの間に現れたのか、数匹のゴブリンに囲まれていた。

 ただし、襲われているわけじゃない。

 逆だ。


 「少年、そこのバカは君の実力を見誤った。よって、悪いのは油断したそのバカだ。だが、そんな男でも私の相方だ。少し大人げないが、数で圧倒させて貰う。──悪く思わないでくれ」


 ゴブリン達は、男が僕に向かって駆け出すと同時に、向かってくる男に追従するように僕に襲いかかってくる。

 

 何かのスキルかな?

 魔物を従えてるのか、厄介だな。

 あの数じゃ、接近されたら袋叩きだ。

 てことで、接近される前に数を減らす。


 短剣を数十本程再現し、空中に投げ上げる。

 そして、落ちてくる短剣を片っ端から投げたり蹴り飛ばしたりして、男達へと攻撃する。


 「くっ! 器用な─!」


 「ギャ!」

 「グッヒィッ!」

 「グギャ!」

 「ギャガ!!」

 

 結果、ゴブリンは二匹を残して道半ばで屍と化し、男には少し動きが鈍くなる程度の損害を与えた。


 だけど、接近されたのも事実。

 二匹のゴブリンの攻撃を躱して、男と短剣を数度交える。

 交えた刃から伝わる、男の膂力。

 流れるような短剣捌き。

 やっぱり、手練れだ。


 「くっ! 少年、君は人外か? 凄まじい膂力だな」

 

 「貴方も強いですよ。短剣使いの模範囚ですね」


 いつもなら、もっと刃を交えたかった。

 久しぶりに、身長差があり、実力のある敵との戦い。

 もっと、頭上から繰り出される攻撃を短剣で受けて、その衝撃を体で感じたかった。

 でも、僕の後ろにはミリィがいる。

 出来るなら、この場は早く収めたいんだよね。

 だから──


 僕は右に持った短剣を手放し、空いた手で男が突き出した短剣を持つ右腕・・を掴んだ。

 

 「だから──死んで下さい♪」

 

 「っ!! 何を──」


 困惑する男。

 構わず僕は、【着火】を再現した。


 「っ!!!! ギャアァアアアアアアア!!!!! 目、目が!! メガァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 網膜の裏から目を焼かれる痛みに、思わず短剣を取り落として顔を上げる男。

 僕は、地面に落ちていた短剣をゆっくり拾い上げて、速やかに男の頚を刎ねた。


 「・・・」


 あまりに凄惨な光景に、動きを止めていた二匹のゴブリンを片手間に処理する。


 ふう…終わった……。

 あまりに呆気なかった。

 どんなに手練れでも、生命力の強い人間でも、強者だとしても…首を刎ねられればそこに待っているのは等しく”死”だ。

 僕が今正常なら、その”生死”の不条理さに歓喜し、手を合わせて拝みたい所だけど、やっぱり今はそんな気分じゃない。


 溜息をつこうと、気を抜きかけたその時だった。

 

 「アル君!!!」


 「っ!!」


 ミリィが出した警鐘こえに、即座にその場を飛び退く。

 直後、僕が立っていた場所を中心にドデカいクレーターが発生した。

 クレーターの中心に刺さっているのは、最初に殺した男が持っていた大斧……まさか…!


 「へへっ、今のを避けたか。くそガキ」


 「何故……生きてるんです?」


 僕の視線の先には、先程の大男が立っていた。

 あの攻撃を受けて立ってるなんて、すごい生命力だ。

 というか、ダメージが無いように見える。


 「あ? 単純な話だ。俺は人間じゃねえんだよ」


 僕の質問に、男はさも当然といった風に言葉を発した。


 「人間じゃない?」


 …何の冗談だろう?

 僕の攻撃によって切れとられたフードの下には、お世辞にも褒める事の出来ない豚顔が覗いているだけ。

 僕の目の前に居るのは、紛れもない人間だ。

 ん? 

 もしかして、自虐ネタかな?

 私の顔は醜くて、人間の顔ではありません。

 っていう。


 ちょっと、伯爵ブタを思い出した。

 あ、殺意が湧いた。

 あいつだと思えば、ちょっとは楽しめるかな?

 まずはその肉を削ぎ落として──。


 僕が馬鹿な考えをしていると、男は余裕を感じさせる歩みで、放った大斧へと近づきつつ、応える。


 「まあ、この言い方には語弊がある。半分はしっかり人間だしな。生まれは魔国だが……今、その話はいいか。オマエ、『半魔』って知ってるか?」


 大斧を回収した男は、ソレを肩に担ぎながら、僕に向かって問いかける。

 『半魔』勿論、そんな言葉は聞いたことない。


 「……知りません」


 「まあ、そうだろうな。『半魔』ってのはな。魔物と多種族が交配した結果生まれた新種族だ。魔物特有の能力と強靱な肉体を持ち一人で聖騎士二人を相手取れる程に強え。まあ、要するにだ──」


 言い終わると同時に、男の体が膨張し始める。

 着ていたローブは後方もなく破れ去り、モザイクをかけたくなるような醜い一物が顕わになる。

 

 …おえっ。

 

 筋肉と脂肪が肥大化し、あっという間にニメートルはあろうかという巨体へと変貌する。

 醜悪な顔には、不格好な鼻穴が広がり、頭に耳が生えた。

 その容姿は、説明するまでもなく…。

 

 ──豚だった。


 「オマエナンカノコウゲキジャ、オレニハダメージニスナラネェッテコトダ」


 男改め、豚が片言の言葉を発した。

 ただでさえ、不快な声音だったのに、更に嫌な声になった。

 

 ダメだ。

 速攻でケリをつけなきゃ。

 僕の精神値がもたないや。


 そう思って、足に力を込めた時だった。

 豚の姿が掻き消えた──と同時に、背中に感じる殺気。


 「ハッ。ドコミテンダヨ」


 マズイッ!!


 危機察知能力と反射神経に物を言わせて、回避行動をとる。

 

 ──ズガァアアアン!!!


 手加減も一切もない大斧の斬撃は、僕の身を掠めるように通過して、大地を割った。


 回避の勢いそのままに、僕は突然背後に現れた豚から距離をとる。


 今のは、危なかった。

 当たったらアウトだったよ。

 ソレに……。


 僕は、息を整えながら手元に握りしめた折れた長剣を見る。

 豚の攻撃を回避する時、どさくさに紛れて喉元を斬りつけた結果だよ。


 地形を変化させる程のパワー

 僕の目で追えない程の速度スピード

 品質A相当の剣をモノともしない防御力デフェンス


 これは、詰んだかな。

 元々、興が乗らない戦いだったし、ミリィを連れて逃げるのが最善の選択肢だろうね。

 まあ、逃げ切れるかは保証出来ないけど…。

 

 「イマノモヨケルノカ、ホントシブテーガキダナ」


 逃げるなら、奴が武器を構え直してる今だ。

 ミリィは──。


 「豚サン!! 殺すなら、私だけ殺して!!」


 ──は? 何やってるの? あのバカは。


 思わず声のしたほうへ顔を向ければ、そこに見えるのは腰が抜けて立つことも出来ない少女が、涙目で自分の命を捧げようと懇願する姿だ。

 まって、ミリィ?

 逃げれば良いんだって、そんな事したらっ!!

 

 「アア!? オレヲブタツッタカ? メスガキィイ!!」

 「ヒッ!!」


 案の定、キレた豚がターゲットを僕からミリィへと変更してしまう。

 

 ああ、もう知らない。

 ミリィにはこの際、囮になって貰う事にしよう。

 今まで守って上げてたんだ。

 最期ぐらいは役に立ってくれても文句無いよね。


 いつもの僕なら、この時こう考えて、即座に離脱してただろう。

 だけど、この日は()()()じゃなかった。


 「バカミリィ!!!」


 気が付いたら、ミリィのいる方へと掛けだしていた。

 どうしようもないよ。

 頭で考えるより先に体が動いちゃったんだから……。


 「ハッ!! ヒッカカッタナ、クソガキ!!」


 キレた()()をしていた豚が、攻撃の矛先をミリィを狙われた事で意識が完全に逸れ、無防備だった僕に変えて大斧を一閃。


 辛うじて、斧刃は避けれたものの振り切った斧が地面を砕いた瞬間発生した爆発によって、僕は弾かれるように吹き飛んだ。


 「いゃああああああ!! アルくーーーーん!!」


 受け身を取る事も出来ずに、僕はそのまま川へと落下。


 ──ミ……リィ…。


 瞬間に身を襲う冷たい感触と、エコーの掛かったようなはっきりしない悲鳴を最期に、僕の意識は途絶えた。


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