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第零話─ある少年のお話

2作目です。

銀狼転生記を執筆する合間(主に生き詰まった時)に執筆します。


ヨロシクお願いします!



2019/7/29 改稿




 初めて、人を殺したのは七歳の誕生日だった。


 泥酔した父親の首を台所にあった包丁で掻き切ったのだ。

 当時、大好きだった母親に暴力を振るっていたクズは呆気なく死んだ。


 その時の気持ち?

 ああ、罪悪感なんて無かったよ?

 あったのは母親を苦しみから助けたという達成感。

 それから、生肉を裂く感触。

 気持ち良かった。

 癖になりそうだったよ。



 吹き出る鮮血、父親のか細い断末魔、その瞬間を目撃した母親の悲鳴。そのどれもが、僕の空虚だった心に染み渡るようで心地が良かった。


 ありたいに言えば、僕は人を殺すことに興奮を覚える極めて質の悪い子供。用は殺人鬼の金の卵だった。


 あぁ~、うん。狂ってる。



 自覚はあるよ。

 

 とにかく、ここからが血と狂気で彩られた、僕にとって最高に充実した人生の始まりだったんだ。


 

 父親の件は正当防衛で処理された。

 どうやら母親が上手く誤魔化してくれたらしいが、そんな彼女の配慮を僕はそうそうに裏切った。



 何人も殺した。

 近所の友達や、よく飴をくれたおばあちゃん。

 駅前の商社で働くサラリーマンや、幼稚園の先生。

 最寄り駅に在駐していた婦警さんや、僕を好きだと公言していた可愛い女の子。

 好きなだけ、好きなように殺した。殺した後の事なんて考えてない、現場には証拠がアホほど残されているお粗末な連続殺人事件。当然、優秀な日本の警察は僕の犯行だと断定した。


 初めてパトカーに乗ったのは10歳の時だ。


 手錠をかけられたとき、母親は泣いていた。

 大好きな母親が悲しむ姿は見たくなかった。だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()子供ながらに、そう決めた。殺人行為事態に反省はしなかった。

 

 例え大量殺人犯で、殺された被害者の遺族達の声があろうと、未成年の僕は少年法に守られた。随分揉めたみたいだったけど、最終的には“未来ある少年に更生の余地を”ということで少年院に入れられた。


 笑っちゃうよ。

 本来、悪を裁くための法律が結果として悪を救ったんだ。

 この時に僕を死刑にしとけば、救われた人が大勢いたのに。


 少年院を出たのは、14歳の時。そして、少年院を出た夜に、僕はあれだけ大好きだった母親を殺した。理由としては単純、他ならぬ母親に殺されそうになったから。

 彼女は僕の寝首を掻こうとしたらしい。薄暗がりのなか、涙を流し、ごめんね、と何度も謝罪を口にしながら震える手で包丁を握る彼女の姿は見るに耐えなかった。だから、気付けば僕は彼女から包丁を奪い、逆に心臓へ突き立てていた。



 母親を殺した後味は、極めて悪かった。

 

 手に伝わった肉の感触を、初めて気持ち悪いと感じた。

 飛び散った返り血の臭いに、吐きそうになった。


 後にも先にも、こんなことは初めてだった。


 母親は苦しんでいた。

 僕が裁かれなかったぶん、そのつけは母親に支払われていた。

 毎日のように浴びせられる、心無い誹謗中傷の数々。殺人鬼の母親のレッテルを貼られ、世間から、周囲から憎まれ、疎まれた。

 台所には母親の字で書かれた遺書が残されていた。

 僕を殺した、自らも命を絶つことで、怪物(ぼく)を生んでしまった罪を清算するつもりだったらしい。

 

 すっかり血が抜けて冷たくなった彼女の遺体を残し、僕は金銭のみを持ち出して家に火を放った。

 夜の闇を照らす生家の最後と、灰になっていく母親の喪失を思って僕は泣いた。

 

 

 こうして、僕を縛るものは何もなくなった。


 簡単に言っちゃえば、()()が外れた。

 


 自由を得た僕は、海外へ逃げることにした。

 子供一人、飛行機の荷物に紛れるのは簡単だったよ。


 幸い頭は悪くなかった、異国の言葉もすぐに話せるようになった。遠い異国の地で、二年か、三年そこら、ばれないように慎重に人を殺しながら僕は比較的平穏な暮らしをしてた。

 

 そんな時だ、僕に新たな転機が訪れたのは。

 

 逃亡先の国のお偉いさんに、諜報員として雇われたんだ。

 半ば、強制的に説得・・されたんだけど。

 

 諜報員とは言っても、その任務は多種多様。

 まあ、僕に任された任務は人殺し、つまりは暗殺任務が主だった。時には、傭兵として戦争に参加することもあったかな?



 いつの時代の話だ?


 そう思うのも仕方ないと思うけど、ホントの話さ。


 このときにはすっかり母親の死を忘れ、僕の人生はバラ色の日々を迎えた。おびただしい量の血に塗れた真っ赤なバラだけどね。

 

 最高だった!


 殺人が合法化されてるようなものなんだ。

 どれだけ殺しても罪に問われない。

 それどころか、殺せば感謝される事もあった。

 

 本当に楽しかったよ。


「天職! ここに極まれり」そんな状態だった。

 

 15歳の誕生日、僕は正式に暗殺組織の隊員に任命された。


 元々、運動神経は良かったし、戦闘センスもあった。訓練を受け、学んだ技術で人を殺し、また訓練を受ける。

 その繰り返し、暗殺組織という闇の中を、僕は上り詰めた。

 でも、それが良くなかったらしい。

 


 出る杭は打たれる。


 まあ、想像はしてた。



 まだ成人してもない身で、本場の戦闘・暗殺技術を修了し幹部にまでなった僕は、お偉いさんがたがこぞって危険視するほどのイレギュラーだったんだ。


 

 そうして、僕が18歳になった夏。


 黒髪で異国の凄腕少年暗殺者。

 コードネーム『(カラス)』の討伐作戦が組織に発動された。


 お偉いさん方、ひいては僕を目の上のたんこぶのように思っていた組織連中の利害が一致した結果だった。


 影を忍び、静かに敵を屠る暗殺者でありながら、専ら白兵戦が得意だった僕。組織の本部を舞台に、百人以上の刺客を同時に相手取った。

 

 ん、そうだね。百人以上。

 たった一人のために用意する戦力じゃないよね。

 さながら、僕は人類に仇なす怪物だ。

 

 

 そんな怪物のために用意された過剰な戦力を相手に、僕は善戦した。数十人の首を一度に刎ねたり、飛んでくる銃弾を叩き切るなんて芸当も披露したね。けれど、やっぱり数は暴力だ。怪物は見事、決して少なくない数の犠牲をもって討伐された。お偉いさん一人を巻き添えに、最後は銃撃の雨に撃たれて。


 個人的には、大分華々しい散り方だと思うんだけど。

 どう思う?

 え、どうでもいい?


 ……そうなんだ。




 まぁ、とにもかくにも僕の短い人生はこうして終幕。

 多くの屍と夥しい血に彩られた内容の濃い18年でも、終わりはあっけないんだね。いや、だからこそ、なのかな?

 あっけなさすぎて、まるで夢を見てるみたいだったよ。


 それとも、ここはまだ夢の中で起きたらあの素晴らしい戦いの中なのかな?





 そこんとこ、どうなの? 女神さん?


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