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昼休み。昼食中。ウエテルとぜちは、食堂で食券を買って食べる為、不在。
不本意ながら、オタクこと、鷹尾拓斗と教室にて昼食中の俺、浅井惇耶。惇耶だから惇。浅井だから浅井氏。OK?
「にしても。あの子、中々、可愛かったなー」
「あれ? お前、二次元派じゃなかったのか?」
「ああ。でも、眼の保養ぐらいには、リアルも見てるんだよ」
「あ、そう。で、だ。さっきの女子、俺はともかく、何で、お前等まで誘った?」
「さぁなぁ。誘いやすかったんじゃねぇの? 俺達、クラスでいうと厄介ごと押し付けられる役回りだろ。それと同じだと思うけどなぁ(ナルシ発言はスルーしよっと)」
「そういう考え方もある。でも、あいつは違うだろ?」
「何で?」
首を傾げ、手にしたカツサンドを頬張るオタックン。
「忘れたか? 俺達に声を掛ける奴は何かしらの意図がある奴等ばかりだった。特に女はな」
「あいつもそうだってことか? 浅井氏、幾らなんでも考え過ぎじゃないか?」
「考え過ぎは損じゃねぇ。ましてや、俺の思考だ。損どころか得が回ってくるかもな」
「頭ツンツンして、自慢するな!」
ウエテル程じゃない突っ込みが唾と一緒に飛んできた。汚い……。
「俺の顔に唾液を飛ばすな、汚拓」
「今、微妙にイントネーションが違ったような……」
「気にするな」
小さいことを気にする女々しい奴はモテないという。俺はこいつから略奪した卵サンドを口に運ぶ。
「あ、おまっ! …………(くっ。こらえるんだ。ガン無視だ……ッ)」
繰り返し言おう。小さいことを気にする女々しい奴はモテない。
この卵サンドうっめぇ。
*
食堂。昼食中。教室では寂しくサンドを食しているだろうナルシストとオタク。
かなり混んでいるこの場は、特定の一名に大ダメージを与えている。
「……あ、頭が痛い。酸欠か……。魚肉が人肉の味になってきた……」
「怖い事言わんといてッ! ウチのたこ焼きが不味くなるやろッ!」
普段は、落ち着いた白肌の藍瀬千歳が青い顔で食べ掛けの魚肉を箸で突いている。そう、特定の一名とはボクだ。人混みが苦手なボクだ。
「……騒ぐな。ウエテル……たこ焼きの……蛸だけでも恵んでくれ……」
「アホォ! たこ焼きから蛸取って残るんは、ソース掛かった皮だけやろが! 何が悲しくて、好物を渡さなあかんねん! 大体、蛸も魚肉やろ!」
「ああ……そうか。お前の好物だったな……なら、お前の肉でいい……。くれ」
「いややわッ!」
周囲の目線がグロテスクな何かを見たときのように恐怖で満たされている。ドン引き状態だ。
ボクのグロ発言のせいでもあるだろう。だが、その視線に冷めたものが含まれているのは、この関西出身の騒がしい元気娘、桐上輝霞のせいだろう。
ウエテルの買ったタイガーレモンのプルタブを緩めて、レモンの甘酸っぱい香りが口から鼻に伝わる感覚を堪能しながら飲み込む。
「……っはぁ。大分、楽になった」
「ウチのジュースを勝手に飲んどいて、謝罪の一つも無しかいな……。まあ、ええわ。楽になってんたらよ
かったわ」
「……お前はレズか?」
「なんでやッ!? ってか、違うわッ!」
はぁ……これだから、周囲の目線を集めるのだ。無駄に顔立ちはいいこの茶髪女をコンクリで固めて海に沈めたい……深海に沈めたい。という訳で嫌な過去を思い出させてやろう。
「ウエテル、お前は、バド部に入らないのか? さっきは流れで合わせただけなのだろう?」
苦い顔をして、たこ焼きに爪楊枝を刺し、出てきた湯気を眺める元バドミントン部副部長。
「あー……もう、ええねん。今は、ぜち等と居るほうがおもろいからなぁ。にっしっし」
「その笑い方、キモい。後、最近分かったがお前はドMだ。変態だ」
「ぜちのせいでウチがそう見られとんねん! 少しは、毒舌抑ええや!」
「さて、そろそろ昼休みが終わるな。教室に戻ろう」
「突っ込みを無視せんといてぇー!」
急いで残ったたこ焼きを平らげ、席を立つウエテル。何故か泣いている。Why? 何が原因だ? 勿
論、ボクなのだが。
ボクは、鮭の塩焼きを骨と味付けレモンだけ残し、片付けた。