第9話〜暗闇の中で〜
恋愛物で女の子の気持ちを考えるのってムズいっす
突然の豪雨に朋が家の鍵を忘れた事もあり、急遽ウチに久しぶりのお泊まりとなってしまった。
順番にお風呂に入った後に2人で晩御飯を作り、仲良く一緒に食べて、後片付けも2人一緒にやった………別に新婚みたいとか思ってないんだからね……………
「…あ〜陽、ちっちゃい〜…可愛い〜♪」
……夜御飯後に、今は俺の部屋でお泊まりの時の定番的なイベント、アルバム観賞をしている。
現在、朋が見ているページは子供の頃の写真で、まだ2人で写っている。
まだあれの前の頃のだけど、そろそろ……
……ペラッ
「……………あっ……」
朋がページを捲ると、次の写真からは朋が写って無く、ほとんどが俺1人だったり他の友人、家族とのモノだった。
「…………………」
無言で写真を見つめている朋。
何ともいえない重苦しい空気の中、朋に声を掛けようとしたら…
「…あ、あの…朋……」
「…陽……謝らなくて…いいからね…?」
「……………え?」
少し淋しそうな笑顔の朋に、しようとした事を制されてしまった。
「…あの時の事は……もう謝らなくていいって話したでしょ…」
「…あ、うん……そう…だけど…さ」
確かに朋は仲直りした時に、俺の事を許してくれたし、もう謝らないでとも言われたけど…。
「…確かに私達には……2人の思い出が無い時期があるけど………思い出は今からでも…また新しく作っていけるよ…?」
「……朋…」
朋は柔らかで優しい笑みを浮かべて、俺の右手を両手で包み込むように握り締めた。
「…あ、そうだ。…ねえ陽…デジカメある?」
「………え、あるけど…」
朋の催促で棚にしまってあるデジカメを取り出すと……
「…今から一緒に写真撮ろ?………えっと…久しぶりのお泊まり記念に♪……ね?」
「…あ……う、うん。撮ろう。」
そうだ……5年の空白分を埋める位、新しい思い出を……また朋と…これから作っていけばいいんだ。
「…はいチーズ。」
ピピッ♪
2人並んで自撮りのようにして、スイッチを押す。
かなりくっついて撮ってるので少し……とゆーかかなりドキドキしている。
「……えへへ♪」
朋が何枚か撮った写真のデータを見て嬉しそうに笑っていた。
朋の笑顔を見ているだけで、自然と胸の中がほっこりとしてくるのが分かる。
もう少し写真を撮ろうか考えていた時だった……━━━
━━ピシャアァァン!!!!………ゴロゴロゴロ………
「……きゃあ!?」
「…おわ!?………びっくりしたぁ…」
窓から見える、外の景色はもう夜の時間帯と豪雨の影響で真っ暗だったが……
一瞬、眩く光ったと思ったら突然の爆音。
稲光と雷鳴……外は更に荒れてきたみたいだ。
「…な、なに………か、雷…?」
「…そーみたいだね…凄い音だったな……あーびっくりした。」
朋を見ると、少し涙目になってプルプルと震えている。
あー…そういえば朋って昔から雷と暗闇とホラーの3つが苦手だったっけ。
……と思ってる間に2度目の稲光…
バリバリバリ〜〜!!!!………ゴロゴロゴロ…………
凄まじい爆音の後、部屋の中が突然真っ暗に………
近くに雷が落ちたのか、停電したようだ。
「……きゃあぁぁ〜……は、陽!!!」
━…ガシッ!!
「……ええ!?…と、朋!!??」
爆音と暗闇のコンボの次に、身体の正面に柔らかい感触が襲ってきた……
どうやら突然、部屋が真っ暗になり怖くなった朋が、抱き着いてきたみたいだ。
そのまま両腕を俺の脇の下から背中に回してギュッと力強く抱き着き、顔を俺の首筋に埋めている。
部屋は真っ暗……外は豪雨と雷鳴が鳴り響いている。
……だが俺は自分の心音と共に、胸に強く押し当てられた柔らかな感触と、そこから伝わる朋の心音しか聴こえなくなっていた。
うぉ〜……な、なんだコレぇ…
もの凄い柔らかいんですけどぉ…
それに良い匂いが…俺と同じシャンプーのハズなのに……シャンプーとゆーか…朋の匂いなのかな…?
「…は、陽ぅ〜……こ、怖いよぉ〜…うぅ〜…ぐすっ…」
「……え、えっと……だ、大丈夫だよ朋。…多分ブレーカーが落ちただけだろうから……今、直してくるから、ちょっと待ってて?」
俺の胸の中でプルプル震えている朋を宥めながら、立ち上がろうとしたら、俺の身体に回されてる朋の両腕は、更に締める力が強くなり…
「…や、やだぁ……こ、怖いよぉ……は、陽……ひ、1人にしないでぇ……ぐすっ…」
朋が1人になるのを怖がり、腕を離してくれなかった。
な、なんか……めっさ可愛い…朋、小動物みたいな…
「……え〜…えっと…じゃあ…い、一緒に行く?」
「…………ぐすっ………うん……行く……絶対離れないでね…?」
そんな訳で真っ暗の中、2人抱き合ったまま1階まで行く事になってしまった……
……ギシッ…ギシッ…ギシッ…
「……朋……危ないから、ゆっくりでいいからね……慎重に…ゆっくり……」
「……う、うん…分かったぁ……」
木製の踏み場の軋む音を聴きながら俺と朋は慎重に階段を降りていく。
最初に比べて、暗闇に目が慣れてきたけど、それでも真っ暗の中、階段を降りるのはかなり危ない。
慎重に1段1段、確実に踏みしめながらゆっくりと降りていく。
……ちなみに朋は今もくっついたまま離れようとしない。
なので尚更慎重さが求められる。
「……ふぅ〜…」
…なんとか無事に1階に辿り着いた。
自分ん家の1階がこんなに長く感じたのは初めてだよ……
「…え〜っと………ブレーカーって…何処だったっけ…?…あ、玄関の方か……い、行くよ朋…」
「…う、うん……」
階段降りて少し歩けば玄関だから、ここも慎重に歩いていく。
てゅーか…ずっと抱き合ったままって…幸せ感が半端ないんですけど……。
と朋は真剣に怖がっているのに、邪な事を考えている間にブレーカーが設置されてる所に着いた。
……ただ朋が正面から抱き着いているので、このままだとスイッチを押しにくい…。
「…朋、少しの間、手を離してくれる…?」
「…え……う、うん……」
朋が俺の腰に回していた両腕を離したので、ブレーカーの方に向きを変えると……
…キュッ
一度は離したが、恐怖には勝てないみたいで俺が着ているTシャツの裾を、両手で握り締める朋。
ま、まぁいいか…えっと…スイッチ…スイッチは……
手探りで頭上辺りに設置されてるブレーカーのスイッチを探して……
「…お、あった。……ん…あれ…」
ブレーカーのスイッチを繰り返しON、OFFにしてみるが部屋の中は真っ暗なままで、電気は復旧しない。
「……ん〜…こりゃあ…ウチだけではなくて、ここら辺一帯が停電してるみたいだね……」
「……え……てことは…」
「……しばらくはこのまま……かな……」
「……そ、そんなぁ……」
朋から明らかな落胆の声が聞こえてきた。
まだ暗闇が続くと分かり、ガックリしてるのだろう。
……このまま玄関に居ても意味は無いし移動するか…。
暗闇の中、また階段を昇るのも危ないしリビングに行くか…
「…朋。…ここに居てもしょうがないし、とりあえずリビングに行こう。……確か懐中電灯とかがあったハズだし。」
「……ぐすっ…うん、分かったぁ…………………陽ぅ……ギュッて………していい…?」
「…え…あ、はい。……ど、どうぞ……。」
震えた声で甘えるようなお願いに、否定なんて出来るワケもするワケもなく……
……ギュッ…
また俺の背中に両腕を回して、胸に深く抱き着いてくる朋。
身体の正面に感じる暖かみと柔らかさに、また幸福感で一杯になっていく。
「…じゃ、じゃあ…行こっか…?」
「…うん…ぐすっ…」
俺の右脇から抱き着いている朋を連れ添いリビング方向へと歩く。
……リビングは玄関からすぐの場所。
目が慣れてきたとはいえ、相変わらず真っ暗なので、手探りでリビング扉のドアノブを探す。
お、あった。……ドアノブだな。右手は抱き着いている朋の肩に回しているので、左手で手探りしていた指先に、冷たい金属的な感覚が触れた。
そのままドアノブを左手で掴んで回し、扉を引いて開く…
……カチャッ……キイイ……
「……扉開けたから、進んでいいよ。」
「…う、うん…。」
扉を開けきり、2人でゆっくりと進んでいく。
リビング内もやはり真っ暗。
足元に注意しながら進んでいると………
……ドタッ!!
「…………きゃっ!?」
「………朋!?……大丈夫!?」
俺の右脇に抱き着いていた朋が、何かに躓いて転びかけたが…
幸い俺にしがみ着いていたので、膝を着いた程度で済んだ。
「…朋、大丈夫?……怪我してない?」
「…う、うん…大丈夫。……ありがと陽。」
この時俺は、朋を抱き起こそうと特に何も考えずに左手を伸ばしてしまった。
ムニュ……
「………ひゃっ!?」
「…………え?」
ムニュ?…な、なんだろ?…なんか…もの凄く柔らかいモノを左手でわし掴みにしたな…?
餅のような…マシュマロのような…ホント柔らかい……
それでいて左手に収まりきらない程大きい。
ん…待てよ?…俺は今、朋を抱き起こそうと手を朋の身体に回したワケで……
女の子の身体で……柔らかい箇所っていえば………おっ…………………………………ぱい?
「……あ、あの……は、陽……えっと……あの…」
「…あぁ!?……ご、ご、ごめんなさぁ〜い〜」
朋の恥ずかしそうな震えた声を聞いて、慌てて左手を離した。
なんか今日は、こんなんばっかだな…俺。
好きな女の子を恥ずかしめるような真似ばかりして……どーすんだよ………
「………あの………陽さん……」
「……!……は、はい……朋さん……」
「……わ、わざとじゃ……ない………よね……?」
「……わ、わざとじゃない!…ホ、ホントに!……えっと……ぐ、偶然……てゅーか……あの……その…………ホント…………ごめん……」
「…い、いきなり……だったから……び、びっくりした……」
「……………ご、ごめん…」
朋は自力で立ち上がった後、また俺に抱き着いてきた。
「…え、えっとじゃあ……こ、こっち…左の方に……歩きます」
「……は、はい。」
なんともぎこちない空気の中、戸棚のある方向へ移動し、戸棚の中を物色。
「……んっと……お、あった。……懐中電灯。……あ、LEDランタンもあった。」
「……ランタン?」
戸棚から見つけた懐中電灯を点けて、LEDランタンを照らしながら、こちらも点ける。
「…わぁ〜……明るい〜♪……何これ?」
「…LEDランタン……キャンプとか、こーゆー停電の時や災害の時に照明になるヤツ。」
ようやく暗闇ではなくなったことで、やや明るいトーンで話す朋に説明してあげてる途中、自然と目が合うと……さっきのぱい揉み事件を思い出してしまう。
「「……………」」
お互いに赤面して俯きながら、揃ってソファーに座る……
……ギシッ…ギシッ…
「…………は、陽………ギュッて………」
「……え?……あ、ああ。…うん、いいよ……」
……ギュッ
朋はランタンのおかげで明るさがあっても、また抱き着いてきた。
…まだ外は豪雨と雷が治まってないから、そっちの恐怖のせいだろうな。
「…あ、あの〜……は、陽。……ちょっと……聞いていい…?」
「………は、はい!なんでしょうか!?」
さっきのアクシデントと現在抱き着かれてるのが合わさって、変な緊張感に包まれてる中で、急に声を掛けられ、また妙な丁寧語に……
「………さ、さっきのって………ホントは………触りたくて………触ったとかじゃ……ない……よね…?」
「……さっ!?え!?」
さっきのって……ぱい揉み………の事………ですよね!?
ま、まずい……なんか朋が変な誤解をしている…!?
「……い、いや…ち、違う!?……違いますよ!?……な、なんで…そんな…」
「…だ、だって……男の子って……女の子の……その……む、胸を…見たり…触ったりするの……好きって……聞いたから…」
うぐ……朋さん…何処からそんな情報を仕入れて……いやいや!
確かに俺だって健全な青少年だから、そこに興味無いなんて言ったら嘘になるけど…
「……い、いや…確かにそこは……否定は出来ませんが……さっきのは…ほ、本当に偶然であって故意では無い……です」
「……ふーん………でも……興味はあるん……だよね…?」
「…え!?……いや…それ…は………まぁ……ある………けど…」
な、なんだ?…朋さん、ぐいぐい攻めて来るな!?
「……じゃあ…………偶然でも……私の……胸………触れて…………嬉しかっ………た?」
「………………なっ!?」
な、なに聴いてきてんの!?と、朋さん!?
え、な、何これ…なんて答えればいいんだ?
嬉しかったって答えたらセクハラじゃね!?
かといって嬉しくないって言うと……なんか朋を傷つけそうな気がするし……
こ、これは……朋を傷つけない方を選ぶしか…………ないか……
「…………え、え〜……っと……う、嬉し…………かった………かなぁ………なんて……」
「………ふーん…………嬉しかったんだぁ……そっかぁ…………………ふふっ…」
「…………と、朋…?」
俺の言葉を聞いた朋は少し考え込むような感じになった後、微かに笑い……
「………でも………もういきなり触っちゃダメだからね…?……………えっちな陽さん♪」
「……!!??………は、はい………すみません………でした…」
なんか……スゲー恥ずかしかったけど…
とりあえず朋も笑ってるみたいだし、まぁ…いいか……
ん?…………朋、いきなり触るのはダメって言ってたけど……
なんかその言い方だと……いきなりでなければ触っても良いみたいに聞こえなくも……ないんだけど………ま、まさかね………
朋の言った一言は、俺を更に悶々とさせたのだった……。
第9話終
こーゆー展開は……テンプレ的展開っすねwww