へい、ブラザー。偶然ってなんだっけ。
私は学校が終わるとすぐに兄の学校へ向かった。
私は高1で兄は高2である。こう見えてお兄ちゃんとは年子なんだけど、高校は違う。私はお母様のもっとおしとやかに!という希望のために女子校に行くことになった。行ってみてわかったのはお淑やかにはならんだろうということだけ。お母様の希望を打ち砕くことになった。
「あ、お兄ちゃんいまかえり?グウゼンダネ。イッショニカエラナイ?」
お兄ちゃんの学校の校門で待っていた私は学校帰りの兄たちに、たまたま偶然出会ったので一緒に帰ることを提案した。
「(おまっ!馬鹿だな!ホント馬鹿だな!ちょっとこっちに来い!)」
ただ、提案したあとの何言ってんだよお前というお兄ちゃんの顔と小川さんのきょとんとした顔から気がついた。
あ、失敗した。ってね。
「お前な、棒読みにもほどがあるから。ってかなんだよ、なんでだよ。たまたま偶然校門の前で合うわけねぇだろ。おまっほんっと馬鹿だな。大丈夫なのか、頭。よく考えてみろ。全く偶然じゃないシチュエーションだろ、校門で会うってのは。偶然って言葉知らなかったのか?」
「他校ってので緊張してて、どうしよお兄ちゃん。変な子って思われたかな?」
兄の暴言はいつもの事なのでスルーする。
「変なのは大丈夫だ。俺の妹は変だってもう伝えてある。安心しろ、な?それよりこの意味のわからない偶然をいいわけしろ」
「いや、何いってんの!?安心できないよ。安心できる要素がないんだけど!?変なのはお兄ちゃんでしょ!?応援する気あるの?ねえ!」
「うるせぇ!黙れ!!しゃーねぇだろ。ずっと前から妹は変って言ってたんだ。今更すごく普通でいい子だとか言えねぇだろ。俺の良心が痛む」
「ねぇーよ!お前に良心なんて!」
「ぁあ?」
「いえ、アリマス!すごくある。お兄ちゃん様々って感じ!」
「しゃーねぇな。ここは小川の頭の弱い部分を刺激してなんかよく分かんないけどいっか的に話をまとめてやる」
「悪口!それもうほとんど悪口だよお兄ゃん!頭弱いの?小川さん!でもそんなところ素敵!」
「いいか、お前は全て肯定しろ。頷くだけでいい。そしたらお前は一緒に帰ることができる。いいな?」
「はい。お兄様。私はイエスしかいいません」
話がまとまったところで小川さんのところに二人で行く。
「ごめん。待たせたな。
なんか、咲子迷った人を案内してたら自分が道に迷ったみたいでさー、たまたま偶然ここでちょっと休憩してたんだってさ」
「へぇ、優しいね道案内とか」
二人は和やかに会話をしている。
いや、ねーよ!どんなシチュエーションだよ!
お前も大概だよ!
小川さんも気がついて!学校前で休憩するとかないから!聞いたことないから!
そもそも道案内で来てるのに迷子ってなんで道案内できてんだよ!
と思いつつも、うなずいた。
「や、やさしくなんか、ないです」
大原咲子は良心が傷んだ。
むちゃくちゃな嘘を小川さんに信じこませていることを。