ピグのパン屋さん
3人は学校からの帰り道、下宿先への帰途についていた。
「撰術学校に行かないで「大会」にでるかぁ。あんま考えたことなかったなぁ」
「ソド、一応訂正しておくけど行かないわけじゃないからね。1年間各地の大会に出て成績が優秀だったら留学の形として1年間どこかの撰術学校に在籍していたという形になるだけ。だから結局あと2年間は学校に通うんだよ?」
「そうだぞ、ソド。それにお前は別に学校が嫌いなわけじゃないだろ。勉強も意外に熱心だし」
「意外に、は余計だぞ、ピス」
ニヤッとピスが笑った。
「大会にでるにしてもまずは父さんと、母さんに相談しないとなぁ」
「まぁ、私たちのお父さんとお母さんはすんなり許可を出してくれると思うけどね」
「たしかにな、親父とお袋たちきっと俺たちが頼み込むときもきっと6人一緒だとおもうぜ」
ソドが若干呆れながらも、ほほえましいといった感じでしゃべった。何せ3人がこんな長い時間一緒にすごすのは両親の影響も少なからずあるからである。
3人は帰り少し寄り道をした。大通りからすこし道をそれて裏通りにあるお目当ての店に向かう。3人とも現実世界でいえばまだ中3なのだ。食べ盛りなのである。今は4時を少し回ったところ、ちょうど小腹がすく時間なのだった。
「すいませーん!」
「あら、いらっしゃい! 今日も3人仲がいいのねえ。いつもの?」
オークのおばさんが愛想を振りまく。このおばさんは3人がタビの街に来てからというもの何かと世話を焼いてくれた。豚鼻でもじゃもじゃな髪とけっして顔がいいわけではないが、気立てがいいので周囲の人からは好かれていた。
「お願いします」
ウィザは礼儀正しくお願いする。親しき中にも礼儀あり。ウィザの家訓の1つだが、ピスとソドに適用されることはほとんどない。
「3人が来ると思っていたからちょうど作っていたのよ。はい、出来立て3つよ! 熱いから気を付けてね」
そうしてオークのおばさん(ちなみに名前はピグ)から包装紙に包まれたパンを渡される。3人はパンを受け取るとすぐに片手に移し替え、それを交互にやっていた。しばらくそうしていないと熱くて持てないのだ。
「お代は150円ね」
時計の時にも行ったがこの世界ではきちんと単位がある。お金の単位は「ターク」だが1ターク=2.8円と大変計算しづらく、値段も想像しにくいと思うのでこちらで勝手に変換させてもらっている。以後「円」で表記させてもらうとしよう。
「おばさん、いいの? だってコレ、1つ100円でしょ?」
指をさしながらピスが指摘する。
「たまにはね、まけてあげるわよ」
「「「ありがとう、おばさん!」」」
3人の声が重なる。ピグおばさんの経営する店を後にしたの足取りはよほどうれしいのか自然と早くなった。
「うーん、やっぱりおばさんの栗餡入りのパン、すっごく美味しい!」
ウィザが甘い声ととろけるような笑顔を浮かべてパンを頬張る。その様子に街の男はハッと振り返る。長い間一緒にいるピスとソドでさえもその様子にドキッとしてしまうのだ。無理はない。ようやく持てるようになったパンを両手でちょこんと持ち口いっぱい頬張る美少女はそれだけで絵になった。街の中でウィザに手を出したい男も大勢いたが、何せ両隣にはピスとソドがいる。手を出そうものなら文字通り「殺され」かねないので男どもは渋々諦めていた。
ちなみにウィザたちが食べているパンは中に濾した栗と砂糖を混ぜ合わせた特性餡が詰まっているパンで上にバターが塗られている。これがオーブンで焼かれ出来上がると照り上がっているのだから食欲をそそる。腹持ちもよく値段も手ごろなので学生に特に人気があった。
3人は週に何回かピグのパン屋によって栗餡入りパンを頬張りながら帰るのが楽しみとなっていた。