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野良試合

ソドとワット、2人は術練学校の生徒の大半が作った人垣の中で対峙していた。2人は既にそれぞれが選んだ「剣」が握られている。ソドは以前にも登場した双剣、ドワーフの血が入っているふえ重すぎる武器を扱うことができなかったというのが選んだ時の大きな理由だった。しかし、今ではすっかりソドの手に馴染み双剣特有の手数の多さで他の追随を許さない。

 一方、ワットが握っているものは両手剣だった。純ワーウルフである彼は通常の状態でも力が強く、かなりの重量の両手剣も軽々と扱うことができ時には両手で持つはずのこの剣を片手で振るうという技も身に着けている。剣にはピスラ家の家紋である双満月が刻まれている。二つの満月が重なりあうこのデザイン2つのワーウルフの交わりを表し純血を貫くピスラ家らしい家紋だった。ただし、ピスラ家の人たちは誇りこそ持っているが名家特有の傲慢さなどはない。そこからなぜワットのような性格の子供が生まれてきたのかは謎だった。まぁ、どんなに気障で勘違いばかりする彼も根は真面目で善良だったりするのだが。

「おい、そこにいるファーフ、君が立ち会い人をしたまえ!」

そう名指しされたのは人間種のファーフだった。とはいっても純血ではなく様々な種族の血が流れていてたまたま人間の特徴が強く出ただけらしい。彼はメガネをかけていて姿はいかにも学者の恰好である。そして性格は責任感が強くこういうときにはよく仲介をしてくれる

「フ、いいだろう。両者正々堂々と勝負すると宣言してくれ」

「「我、剣と魔術を扱う者、誇りを持って正々堂々と戦うことを宣言する!」」

ソドとワットが胸に手を当て、同時に全く同じ言葉を吐く。これはこの世界の一種のルールだ。決闘や試合の際にはこのように選手宣誓を行ってから戦う。

「よし、両者剣を構え、1歩前へ」

すると、手に握られていた己の剣を前へと突きだし剣と剣がわずかに交錯するところまで寄った。両者の剣が触れた瞬間が戦いの開始の瞬間だ。ソドもワットも試合とはいえ顔つきは真剣そのものでさっきのような怒りを顔に出すことなく、ただ相手を倒すことだけに集中していた。

 互いにじりじりとにじり寄る。背の低いソドは相手の喉元めがけ双剣を掲げるように構えながら進む。一方のワットはソドよりも背が高いため下段の構えのようにすこし両手剣を下していた。

 チャキッ、とわずかに金属音がなった。その瞬間両者の腕が弾けるように動いた。ソドはその身軽さから先手を取ろうと右手に握られた剣を下から切り上げるように動かしワットの両手剣を払おうとした。だが、ワットはこれを予期していたのかいったん両手剣を胸にひきつけ、肩に担ぐような構えに直した。ソドの剣は宙を切るだけになり、一瞬ソドは態勢を崩す。それを見逃さずにワットは引き付けた両手剣をソドの喉元めがけて思いっきり突いた。

 だがそう簡単にソドは負けない。前にバランスを崩したソドはそれを逆に利用し、回転することで勢いをつけた左手の剣で両手剣を横から思いっきり叩きつけた。いくら思い両手剣でも横からはじかれてしまえば軌道がそれてしまう。今度はワットが態勢を崩す番となった。

 しかし今度はさっきと異なってお互いが前にバランスを崩すことによって距離が近くなっている。ここからでは両手剣は振り上げることも横に切り払うこともできない。間合いは完全に双剣の方が有利になった。ソドは回転をなお止めない。その回転の勢いのまま裏拳の要領で右手の剣を左からワットの生身に畳み込もうとする。これが決まればソドの勝ちだ。あとは寸止めで双剣を止め高らかに勝利宣言をすることができる。

 だが、ワットはまだあきらめていなかった。剣から右手だけ放し、右手の掌からとっさに魔力を放出する。ただ出せたのはほんのわずか。学生の誰もがウィザのように瞬時に魔法を出せるわけではなかった。彼が放ったのは防壁魔法。光の壁で本来だったら大砲でも弾き飛ばす。ただ詠唱時間が足りなくて彼が出せたのは四方が辞書ぐらいの大きさの小さなものだった。それでも防壁魔法はばらばらと砕けていってもソドの容赦のない剣戟を防ぎ切った。魔法が不得意なソドにはできない芸当だった。

 ワットは態勢を立て直すためいったん引く。それを逃さないためにソドはさらに踏み込んで間合いを双剣の有利なように保った。無数にも思える斬撃。ワットは何度も防いだが、身軽なソドは右へ左へと走り込み四方八方から斬撃を叩き込む。剣で防ぎきれないワットは魔法を放ってそれをカバーした。

 態勢の崩れた直後はワットの防戦一方だった。しかし少しずつ魔法の差によってワットにも余裕が出てくる。だんだんと防壁魔法の質も上がっていってソドの斬撃に対する壁の対処範囲を広げていった。あと、一撃。これを防いだ瞬間防壁魔法をソドにまで広げて動けなくなった彼を両手剣の一突きでとどめを刺す。

 ソドの連撃の最後、ワットは防壁魔法で防ぎ切った。その瞬間頭に思い描いていた勝筋を実行しようとする。しかし、ワットはそれができなかった。予想もしていなかった方向から首筋に剣が添えられていたからだ。

 ワットは驚愕する。なぜだ。ソドが双剣で手数が多くても剣を見失うなんてことはない。現にソドには今も両手にそれぞれの双剣が握られており、それらはいまだ防壁魔法にぶつかったままだ。だが見ると首に向けられていた剣は後ろから伸びていた。ワットはゆっくりと後ろを振り返る。みるとそこには前にいるはずのソドと全く一緒の姿のソドがたたずんでいた。

 やられた、分身魔法だ。


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