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ソドのライバル?

翌日、3人はいつものように学校に登校した。そう3人で学校に行くところまでは普段と変わらなかった。ところが、校舎の玄関にポツンと人影が伸びている。最初はだれかわからなかったが、だんだん近づくと姿がはっきりしてくる。灰色の髪に、髪よりも少し青みがかった体毛が体のいたるところから生えている。毎日しっかりと毛づくろいをしているのか毛先が一様にそろっていて光が反射している。来ている服も街の高級店で買い求めただろう一品もので彼の生い立ちと気質をよく表していた。彼はワット・ピスラ、生粋の純ワーウルフだった。

「やぁ、ウィザ。おはよう」

ピスもソドも視界に入っているはずなのにワットはわざとらしくウィザにだけ声をかけた。2人の男はむすっと起源を損ねたが、このような光景は以前から何度かあったのでウィザも二人に構わず返事をした。

「うん、おはよう、ワット」

誰にも(ピスとソド以外というのが頭にくっつくが)分け隔てなく接するウィザが微笑みかける。するとたちまちこの場の3人の男どもは顔をほころばした。これである。男どもはウィザが何かするたびにだらしない笑顔となり一瞬ではあるけれどもその場の険悪な雰囲気がどこかへ行ってしまう。当然「タビ術練学校」では学校で1番人気がある。男からチヤホヤされているウィザに当初は荒れ狂うように嫉妬していた他の女学生だったが、ウィザのおとなしく優しい性格と、なにより男子に媚びたりしようとしない態度が見て取れたので入学して1月もすれば女子にすらモテるようになった。

ウィザの笑顔に頭の真っ白になっていたワットだったが、今朝の目的を思い出し慌てて頭をぶんぶんと振った。

「そ、そう。ウィザ今日は君と2人で話し合いたいんだが一緒に来てもらえないだろうか」

「ちょっと待てーい!!」

今度は慌ててソドが二人の間に割って入る。

「おい、ワット。てめぇ2人きりでウィザになにしようと企んでやがる?」

「君には関係のないことじゃないか、邪魔しないでくれたまえ」

ワットは小バエを払うかのようにうっとうしいものを払うしぐさをして見せた。

「関係なくねぇ、俺たちのウィザに関することなんだから俺たちにも関係ある!」

「いつから私はあなたたちのものになったの? ソド、ピス?」

ソドの周りから聞いてもしょうもない論理をウィザは聞き流していたが、「俺たちの」という言葉は引っかかったようだ。癪に障ったのか声の調子がいつもより一段低く、底冷えするような厳しいものになっている。ついでに何も言ってないのにピスまで一緒にしかられた。

「まぁ、いい。どうせ2人きりになろうとしたところで君たち2人は地の果てまで追いかけてくるだろうしな。いいだろう、この場で言わせてもらう」

そういうと腕を大きく開き一度深呼吸をする。ワットは胸いっぱいに空気をためこみ次に言う言葉を出しかねていたが、決心がついたように大声で言った。

「好きだウィザ! 付き合ってくれ!」

一拍たっぷりと保たれる沈黙、その場にいる4人は誰もしゃべろうとはしなかった。ウィザは唖然として口に手を当てている。一方その隣では唖然を通り越して呆れているピス、そして怒りに震えているソドの姿があった。

やがて大声を聞きつけた術練学校の生徒が何事かと校舎を降りてくる。どたどたと大勢の足音がようやく沈黙を破ってくれた。

「ワット、朝っぱらから何をぬかしてやがるんだ!」

この場だけでみると、ソドが過剰に反応しているように見えるが、この反応はしょうがない。なぜならソドとワットは2人ともお互いを敵視しているからだ。

ワットは種族も家系も誇りに思っている。家は代々ワーウルフ同士で結婚し王国に兵士として仕えている。そこまでならまだいいのだが家が裕福であり甘やかされて育ってきたからワットはいつからか変なエリート意識を持つようになっていた。

一方のソドはすこし裕福とはいえワットの家に比べれば庶民の域をでない。しかし、成績はソドの方が高いのでワットは嫉妬して、ソドの背が低いことを理由にやたらとソドに突っかかっていた。ソドもソドで煽りに弱いのですぐさま二人は互いにライバル視するようになった。ちなみにピスに対しても同じように突っかかってくるがさすがに喧嘩するとなると殺されかねないのを肌で感じているためか、ソドにやるよりは敵意をむけてこない。

「美しい女性に告白をすることの何がおかしい。背が低い君は引っ込んでてくれたまえ」

ワットが当然のことを言ったまでだといわんばかりに胸を張る。いかにも毅然として堂々としていたが、この場で一人冷静だったピスは彼の手がわずかに震えていることに気が付いた。やはりいくらワットであっても好きな女の子の前で告白するのは恥ずかしいのだろう。

「ウィザ、君は今好きな人がいるのかい」

おぉなんかすごい展開だ。ウィザの隣にいるピスがごちる。もう一方の隣にいるソドは相変わらず怒りでプルプルふるえていた。以前からワットがウィザのことを好きなことは知っていたが、こんなにド派手に告白してくるとは思ってなかった。しかもこの場で追及を始めるワット。他人として見ていればこの上なく面白いのだが、あとでピスに八つ当たりされるかもと思うとほおっておくわけにはいかないピスであった。

「えぇと、3人ともこの場はこのへんでおしまいにしてとりあえず校舎に入って授業の準備をしない?」

「おめぇはだまってろ!」

「君はだまってなさい!」

ソドとワットから同時に言われる。そういわれると何も言えなくなる。

「さぁどうなんだい、ウィザ?」

「……なんでこんな場所で私が答えなきゃいけないの?」

みれば周りに人垣ができている。さっき校舎を降りてきた他の生徒が全員この騒ぎを見物しに来たようだ。あ、これウィザ怒ってるなと思ったピス。口調も普段の(ピスとソド以外に接するとき)とはちがい刺々しくなっている。その怒気を恐れたピスは静かに人が気の中に消えていった。

「まさか、君は隣の男が好きなのか!」

「違う!」

顔を赤らめながらもウィザははっきりと否定した。というかこの場ではたとえソドがすきであったとしてもこうとしか言えないだろう。

「ならば、僕と付き合ってもいいじゃないか! そんな背の低いソドよりも君のような美しい女性は僕の方がふさわしい」

ワットも必至だ。ウィザはソドが好きなんだと勝手に決めつけてしまっている

「ええい、黙って聞いてれば言いたい放題言いやがって。これ以上なんか行ってみろ。力でねじ伏せてやる!」

「君にそんなことができるのかい? 剣術ならともかく君は魔法が苦手だろうに」

「やってやるさ、こっちにこい白黒つけてやる」

「ああ、いいとも。これでもし僕が勝ったら、ウィザをおとなしく渡してもらおう」

この宣言に周りの野次馬は色めきたった。堂々の愛の宣言。これにはウィザもあきれてものも言えなくなった。ソドはというともはやウィザよりもワットを叩き伏せることにだけ注意を向けている。

「上等だ!」

そして二人は互いに視線を交錯させながらゆっくりと校舎の前の広場、その中心へと向かっていった。



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